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第16話:交渉

「そういえばさっきまでリアちゃんが来てたわよ」

「リアがですか。また大金を支払ったんでしょう」


 そういえばリアも武器屋に行きと言ってたな。

 まだこの武器屋を使っていたとは。


 この武器屋をリアに紹介したのもこのオレだ。

 オレがたまたま見つけて武器を作ってもらった。その武器を羨ましがったリアに脅されてここを紹介する羽目になったというわけだ。


「値段交渉については私は口を挟まないことにしているの」

「なんでですか?」


 この武器屋は名は有名だが場所はあまり知られていない。

 普通はこんな場所にないと思うような場所に店があるからだ。


「ミルちゃんは見極めているの。この店に相応しいか、武器を作るのに適しているか。そういうところを判断しているのよ」

「へぇ、意外ですね。そういうことは苦手そうなイメージでしたので」


 そういうことを得意としているのはミューラさんだと思っていた。

 それに見極めていたということも初めて知った。


 ということはオレも見極められていたということか。

 あんなに値切られていたのに武器を作ることにしたとは、それはちゃんと見極めることができたといえるのか。


 あとオレが連れてきた奴ら全員に武器を作ってやってたけど、それも見極めたということになるのかな。

 オレが連れてきた奴らは武器を作ってもらうのに値する奴らばっかりだったというわけ。


「いやいや、ミルちゃんは色々なところを見てから作るか作らないかを決めているんだよ。作るのに値しないと思った人は追い返すか、莫大な金額を提示するの。そうされたら誰だって帰っちゃうでしょ。ミルちゃんはミルちゃんなりに誰がいいとか選んでるの」


 いや、オレは莫大な金額を提示されてたんだけど。

 てことはオレは追い返されていたということになる。


「最初はユーちゃんを追い返そうとしてたらしいんだけど、言い負かされたから特別に武器を作ってやったって言ってたわ。今はお気に入りのお客みたいなんだけどね」


 特別待遇ってわけか。悪くないな。

 でも言い負かされたから武器を作ってやる。そして毎度毎度言い負かされるって、悲しくならないのか?

 負けず嫌いってやつは厄介だ。もう勝負はしなくていいんだけど。


「ユーちゃんが無理難題みたいな依頼をしてくるって文句言ってたけど、武器を作ってる時は楽しそうだったのよ」


 ミルドレードは無理難題と思われるような依頼でも、良い武器を作ってくれる。

 整備を頼めば最初よりも良い武器にグレードアップしてくれるような奴だ。


 まあ無理だと思うような武器作製の依頼を出すオレもオレでどうかと思うけど。

 でもそんな逆境と言ってもいい依頼で良い武器を作れるのは才能だ。


 オレはミルドレードの技術向上の手伝いをしていると言える。

 時には厳しいことも経験させなければ衰えていくばかりだ。まあドワーフは長寿だから全然衰えないんだけど。


「私も大変だったのよ。ユーちゃんは難しくて作ったこともない加護を頼んでくるから。よくそんな発想が浮かぶなぁって感心もしちゃうけど」


 例えばジェイク君との戦いで作ってもらった弓は鉄で作られている。それに上と下の部分は尖らせて簡単な剣として使えるようにもしてもらっているのだ。

 矢は矢で鉄で作っていて極限まで細く尖らせて、飛ぶ飛距離を格段に増させている。


 弓矢に連動加護をつけているため、加護をつけるのにも苦労しただろう。


 他の武器も大変な物が多い。

 それを作ってくれるのはここくらいだし、作れる実力を持っているのもここだけだ。


「いつも作ってくれてありがとうございます」

「ううん。これは仕事だし、私達夫婦はこういうのに燃えるタイプだから。長年やってきたけど、ユーちゃんが頼む武器以上に難しい依頼はなかったから」


 依頼する側と作る側じゃ、作る物の難易度の価値観が大きく違うのだろう。


「ユーちゃん、この紅茶飲んでみて。貴族様達が愛用している茶葉を取り寄せたの」

「ん。美味しいですね」

「そうでしょそうでしょ。ミルちゃんはこういうのに疎いから、飲んでくれる相手がいなくて。ユーちゃんが来てくれて嬉しいわ」


 このあと、オレとミューラさんは紅茶を飲みながら雑談をした。


###


 その頃一方、シーナとミルドレードは。


 ユーリと決めた武器と加護にしてもらおう。

 それに値切りもしないといけないから、そこにも注意を向けておいて、頑張るぞ!


「それで、武器と加護を何にしたいか教えてくれ」


 武器はさっき剣って言ったけど、その剣の中でのわたしが使う種類を言えばいいんだよね。

 加護はユーリと相談して決めた〈光剣化〉でよし。


 いくぞ。


「武器は長剣で、加護は〈光剣化〉でお願いします」

「長剣の〈光剣化〉か。正直言って〈光剣化〉は初心者向きじゃない。まずは他の加護で慣れるのはどうだ?」


 ユーリも言ってたな。

 でもわたしはユーリの役に立つために早く強くなりたいんだ。


「いいえ、わたしは〈光剣化〉を使いたいんです」

「……そうか、分かった。ただしもう一本、買ってもらう。それが条件だ」


 もう一本剣を買うことに何の意味があるんだろう。

 わたしのため? それともただ単にお金を多くもらうため?

 そのもう一本の剣にも〈光剣化〉の加護をつけることになるのかな。


「なんでですか?」

「まず第一に、もう一本の剣は〈光剣化〉じゃなくて、〈硬質化〉〈鋭利化〉の二重加護だ」


 何故〈光剣化〉を使いたいのに、〈硬質化〉と〈鋭利化〉の二重加護を使うのかな。

 わざわざ別の加護がついた剣を使うんだろう。


「理由は一つ。加護慣れだ。まずは加護に慣れなければどんなに簡単なものでもどんなに難しいものでも使えない」


 加護慣れ。

 簡単な加護つき武器を使うための第一歩として、加護に慣れる必要がある。

 難しい加護に慣れるよりも、簡単な加護に慣れてから難しい加護を使う方が効率がいい。


「じゃあなんで二重加護を使うんですか? 普通の加護を使った方が慣れるのに早いと思うんですけど」

「それはな、加護慣れに必要なのは慣れること。そして使えるようになることだ。一つの加護を使えるようになっただけじゃ、その加護だけに慣れたことになる。二つの加護に慣れたら感覚などがよりはっきりと分かるんだよ」


 加護慣れをするのには、一つの加護だけじゃダメってわけ。

 感覚を掴むためには最低でも二つの加護に慣れる必要があるのか。


「分かりました。それでいくらですか?」

「二本合わせて金貨六千枚だ。配分としては〈硬質化〉と〈鋭利化〉が三千枚。〈光剣化〉が七千枚のところを四千枚引きの三千枚だ」


 ユーリが言った通りだ。

 普通なら払えないくらいの金額を提示された。


 さっきまでそんなこと本当にするのかなって思ってたけど、それは勘違いだったみたい。

 意地悪でやってるわけじゃないと思う。じゃあ何のためにだろう。


 まあいっか。

 今はユーリに言われた通り、交渉するのに専念しないと。


「その値段なら、〈硬質化〉と〈鋭利化〉の剣はいりません」

「なんでだ?」

「慣れるために一級品の剣を使う理由はないですから」


 これは勿論嘘。

 欲しいけど相手を折らせるためにわざと嘘をつく。


「それと〈光剣化〉の方は年に金貨一枚で払います」

「はぁ? 年一? 本気かそれ」

「はい。だけど死んだら余っても払えませんけど。でもミルドレードさんがお安くしてくれたら一括払いもできますよ」

「いくらだ?」


 よし。この調子でいけば、結構安く買えるかもしれない。


「金貨三枚でどうですか?」

「無理だな。最低でも金貨百枚だ」

「では金貨五枚で」


 徐々に値段を近づけることによって、相手も払えそうな金額まで近づけてくる。

 そうして限界まで安くした後、二倍の値段を払って〈硬質化〉と〈鋭利化〉の剣も作ってもらう。


「いいえ、金貨十枚でどうですか?」

「いや、金貨五十枚だ」


 減らした。

 ということはさっきの「最低でも」という言葉は嘘になる。

 そこを使ってもっと安くしてもらおう。


「さっき最低でもって言ったのに減りましたよね。本当はどれくらいで作れるんですか」

「うっ……。金貨三十枚だ」


 もう少し減らしたいな。


「限界を教えてください」

「限界か。限界は金貨十枚だ」

「ではそれ二倍を払いますので、〈硬質化〉と〈鋭利化〉の剣もつけてください。最初金額を言った時、丁度同じだったので、金貨二十枚払えば両方とも作ってもらえますよね?」

「ああ、仕方ねぇ。分かったよ。流石はユーリのパーティーメンバーだ。負けだよ、負け。金貨二十枚だな」

「負けたってことで、もっと安くしてもらえますよね。そういうことで金貨十枚でお願いします」

「金貨十枚。分かった……」


 やっと終わった。

 でも金貨六千枚から十枚まで減らせたんだよね。


 ミルドレードさんが流石はユーリのパーティーメンバーだって言ってくれたから、少しは近づけているのかもしれない。

 このまま戦闘面でも活躍できるように頑張ろう。


###


「終わったみたいね」

「分かるんですか?」

「ええ。恐らくだけどミルちゃんの負けじゃないかしら」


 会話に一区切りつくと、ミューラさんがそう言った。


 思い返せばミューラさんは交渉が終わった直後の部屋に入ってくる。

 それにこんな風に会話をする時も、一区切りついたのと同時に仲間の交渉が終わっていたな。

 長年付き合っているから分かるのだろうか。


「じゃあ行きましょうか」

「はい」


 そうしてシーナとミルドレードがいる部屋に行くと、完全敗北したような顔のミルドレードがそこにはいた。

 シーナはやりきったという顔をしている。


 ミューラさんが言った通り、ミルドレードが負けたようだ。


「いつまでに作れる、ミルドレード」

「一週間」

「分かった。支払いはできた時でいいか?」

「ああ」


 完全に心神喪失してやがる。

 オレが初めてやった時もこんな感じだったな。懐かしい。


「ユーちゃん達は帰っていいわよ。ミルちゃんは私が面倒を見ておくから」

「お願いします。シーナ、行くよ」

「う、うん」


 そして店を後にした。


 武器屋を出て宿屋に帰る途中。


「大丈夫かな、ミルドレードさん」

「ああ、大丈夫だよ。オレの時もあんな感じだったから。それでいくらまでできた?」

「金貨十枚で、剣二本だよ」


 剣二本って、やらかしたなミルドレード。

 余計なことを言うから、こうやって負けるんだよ。


「片方は〈硬質化〉と〈鋭利化〉じゃない?」

「えっ? なんで分かったんですか?」

「定番だからね。オレが連れてきた何人かの剣使いも同じ内容だったからさ。〈光剣化〉ではないけど」


 同じ物を進めて、同じように値切られている。

 学習しろよ。それとも今度こそって思ってるのか。ならまずは違うやり方を試してから今度こそをやればいいのに。


「良かったね、加護つきの剣を作ってもらうことができて」

「うんっ!」


 そして宿屋に着き、一日を終えた。

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