第15話:武器屋
「ここがおすすめの武器屋なんだけど、ちょっと店主達が面倒くさいタイプでね」
「面倒くさいタイプ?」
「そうそう」
ドワーフ族の男性鍛冶師と小人族の女性錬金術師の二人店主で、夫婦関係にあるらしい。
そしてある条件を満たす要望の武器しか作らないのだ。
「まあ簡単に言えば加護付きの武器しか作らないというもので、中に入っても武器は置いていない。加護付きオリジナル武器のみの武器屋なんだよ」
作る武器全てが一級品なんだけど、作ってもらえるまでが時間がかかる。
「だから事前にどんな武器がいいかとどんな加護をつけてもらうかを決めておこう」
「剣は決まっているんですけど、加護が決まってなくて」
剣は以前から使っている物と同じ形状のだろう。
次は加護か。確かに最初の加護は悩むよな。加護は種類も多いし、使い方も違う。だから自分にどんな加護が合うのかがわからないからな。
「加護のことを教えておこうか。まずは発動条件なんだけど一般的に挙げられるものとしては、自分の意思で発動するパターンの物と常時発動しているパターン、それになんらかの条件をクリアしたら使えるようになるパターンの三つがある」
「初めて知りました」
加護を使う冒険者は上位の冒険者くらいだ。
オレは上位のパーティーに所属していたから加護付きの武器も持っているし加護にも詳しい。
だけど最初の頃は加護というものがどんなものなのか分からなかったため苦労した。
「初めての加護はやっぱり常時発動パターンがおすすめかな。戦闘に集中できるからね」
意思発動パターンは戦闘中に武器にも意識を向けないといけない。
条件発動パターンは最初に条件クリアに動かないといけない。もし条件意思発動パターンだとしたらもっと厄介だ。
「ユーリがおすすめしてくれるならそれにします」
「じゃあ常時発動パターンで決定として、次はどんな効果の加護にするかだけど……なにか希望はある?」
加護は武器そのものに効果を及ぼす直接効果系や武器を通して使用者に効果を間接効果系、それに武器から外に影響を及ぼす外部効果系など様々だ。
今挙げた例が大まかな加護の分類だ。
「えっと、もっと攻撃の威力を上げたいな。デーモン戦の時一切ダメージを与えることができなかったから、加護に頼るのは甘えかもしれないけど……」
「いいんじゃないかな。オレは甘えだとは思わないし、実際オレも似たような物をつけてるから」
そう言って右手についた二つの指輪を見せた。
「人差し指に付いているのは〈内部効果魔術効力向上〉の加護付きで、中指は〈外部効果魔術効力向上〉だよ」
「そんなものもあるんだ。それに武器以外にも加護をつけられるなんて知らなかったよ」
これは一般には知られていないことだからな。武器以外につけれる加護は魔術の効果を上げるものだけだ。
だからオレのつけている加護の他に特定の魔術の効果を上げるもの。それも一つの魔術に絞ると効果が格段に増すらしい。
「まあそれは置いといて。威力向上として、武器自体の威力を向上させたいのか基礎能力を向上させたいのか、どっちかな?」
「えっと武器自体がいいかな」
「了解」
武器自体ということは……武器そのものの性能を上げるか、何かの魔術で威力をあげるかのどちらかだな。
「武器の性能向上か、魔術を使えるようにするか、どっちにする? ただ魔術の場合は意思発動パターンになっちゃうけど」
「威力が高いのはどちらですか?」
「ここで作ってもらう武器は性能が良いから、魔術を使えるようにした方が威力は高くなるね」
恐らく数倍の差は出てくるだろう。
でも使用難易度も同じくらい差が出る。
慣れるまでに時間がかかるからな。
「なら魔術の方にする。ユーリの足手まといにはなりたくないから」
「足手まといって、そんなこと思ってないのに」
「ううん。わたしはユーリの隣に並べるようになりたいの。そのためには強くならないといけないから」
シーナならすぐに強くなると思うけどな。
今潜在能力は覚醒しているから、そこから基礎能力を上げていけばいい。次第に魔術も使えるようになるだろうし。
「分かった。それならシーナと最も相性の良い魔術を知ろう」
「どうするの?」
「まず、こうして」
オレはそう言ってシーナの手を握った。
オレが今からするのは魔術調べだ。
魔術調べとは全属性の魔術を使える魔術師が他の人の適性魔術を調べることだ。
特殊な魔道具を使ってもできるんだが、早急にやりたいためこの手段を取った。
「え!? え!?」
「少しだけ我慢してて」
「はっ、はいっ!」
やっぱり恥ずかしいか。
いくらパーティーメンバーとはいえ、まだ会って間もないからな。
「……」
「……」
シーナの中には青と緑、それに白の光が見えた。
魔術調べは見えた色でわかる。
赤が火、青が水、緑が風、黄が土、白が光、黒が闇だ。
この場合、シーナの魔術の適性は。
「分かったよ」
「どっ、どうだった?」
「適性は、水魔術と風魔術、それに光魔術だよ」
「水と風と光……」
魔術師を名乗っていいのは三属性以上の魔術を使える者だ。
だから剣使いのシーナは魔術師も名乗ることができる。
「シーナは魔術師も名乗ることができるよ。メインジョブは剣使いでサブジョブを魔術師にすればいいんじゃないかな?」
「魔術師……ユーリと一緒だね」
「そうだね。でも魔術の練習もしなくちゃならないってことだからね」
魔術は一つ使えるようになればあとは簡単に使えるようになる。でも最初が難しい。
魔術の最難所といったら最初と言っても過言ではない。
「うん! 魔術も剣術も両方とも頑張る!」
「頑張って。剣術は無理かもだけど、魔術の練習には付き合うよ」
剣術もある程度はできるけど、まず流派が違う。
それに大分剣は使っていない。使うのは短剣だからな。
「じゃあその三属性のどれを剣の加護にする?」
「えっと、光がいいかな」
「分かった。光ってことは……〈光剣化〉かな」
「〈光剣化〉?」
どうやらシーナは〈光剣化〉を知らないようだ。
光魔術で剣といえばこれだろうというものを挙げたんだが、やっぱり魔術には疎いんだな。
「〈光剣化〉は加護になるとこういう名前になるって、オレがデーモン戦で使った〈光剣〉と似たような感じ。まずは光を纏う。光は魔物に最も効くものだからね。それと付属として身体能力が上昇するよ」
〈光剣〉は光を纏うだけだけど、〈光剣化〉はそれに身体能力が上昇するというおまけ付き。
〈光剣化〉は直接効果系と間接効果系のハイブリットだ。
「扱い方はどんな感じなんですか?」
「慣れれば簡単かな。〈光剣化〉は少しずつだが魔力を持っていかれる。魔力が尽きたら〈光剣化〉も解ける。基本的には一度発動すれば魔力切れか意思解除でしか解く方法はない。ただ当たり前だけど武器を手放せば解除されるよ」
重要なのは慣れればってところなんだけど。
加護付き武器もなれるのに時間がかかる。
「じゃあそれにする」
「分かった。じゃあこれから重要なことを話すから、よく聞いててね」
「う、うんっ」
これは本当に重要。ここから話すことが本番だ。
「あの店主達は、法外とさえ思うほどの値段を吹っかけてくる。だから自分が一ヶ月分の収入の四分の一くらいまで値切れ」
「そんなことしていいの?」
「ああ、大丈夫だ。オレが初めて来た時は一万枚の金貨を用意したら作ってやるって言われたんだ。そこから交渉して金貨十枚までに減らした」
最初言われた時、ふざけんなよって思ってめちゃくちゃ無理を押し通して値切ったものだ。
あれ以来オレが頼んだら二万枚だの十万枚だの無茶な要求をしてくる。
まあオレが言い包めて、金貨五枚にしたり金貨一枚にしたりと徐々に払う金貨の枚数を減らしていったからな。
「いざとなったらオレが手伝うから、くれぐれも言い包められないように」
「頑張るっ」
ああ、頑張ってくれ。
さもないとリアみたいに馬鹿みたいな金貨を支払うことになる。
あいつもここで作ってもらっていらしいが、金貨二十枚にゴブリンの巣のクエスト報酬も合わせるから、軽く金貨百枚は払ったんじゃないかと思う。
金を持っている奴は馬鹿だと思う。
金銭感覚が本当に馬鹿だ。狂ってやがる。
「じゃあ入ろうか」
「緊張するなぁ」
「そこまで緊張しなくていいよ。店主達は特殊な人達だけど悪い人達ではないし、オレが助けるから。安心して」
「ありがとう」
シーナを安心させてから、武器屋に入った。
「ユー坊じゃねぇか。連れがいるとは珍しいな」
「ユーちゃんじゃない。もしかして彼女?」
法外とも思える値段を吹っかけてくるのはオレのことをユー坊と呼ぶ男ドワーフ鍛治師のミルドレード。
そのミルドレードの妻がオレのことをユーちゃんと呼んでいる女性は小人族の錬金術師のミューラ。
「違いますよ。この子はオレのパーティーメンバーのシーナです。シーナ、こちらがミルドレード、この女性がミューラさんだよ」
「よろしくお願いします、ミルドレードさん、ミューラさん」
オレは二人をシーナに、シーナに二人を紹介した。
「パーティーメンバーって言って、何人の女の子を漁ってきたんだ」
「もう、そんなこと言わないの。ミルちゃんと違ってユーちゃんはモテるんだから」
「なんだとぉ! 俺だってなぁ! 昔はモテてたんだよ! ただミューちゃんがいたから、全員振ってやったのさ」
「ミルちゃん……」
「ミューちゃん……」
ちょっ、いちゃいちゃな雰囲気出さないでくれるかな。
二人が仲良し夫婦ってのは知ってるから、もうやめてくれ。
「それで今回はシーナ嬢の武器を作りに来たんだろ?」
「あっ、うん。お願いできるかな?」
「いいぜ。俺に作れない武器はないんだからな!」
確かにミルドレードに作れない武器はない。
随一の鍛治師と言ってもいいくらいの腕を持っているし、鍛治師達の間では鍛治師王なんて呼ばれているらしい。
ミューラさんはミューラさんで凄い人だ。
世界が認めた錬金術師で、過去に賢者の石を作ったとさえ言われている。
その賢者の石は各国が協力して厳重に保管しているらしい。
実に恐ろしい夫婦だな。
「で、剣か? 弓か? 槍か?」
「剣でお願いします」
オレは後のことをシーナに任せることにした。
こういうことにも慣れておかないといけないからな。
交渉ってやつは練習なんてできない。
アドバイスや手順を教えることくらいはできるが、後は自分で感覚を掴むだけ。まさに実戦あるのみってやつだな。
「ユーちゃん。私達は向こうで紅茶でも飲みましょうか」
「えっ、でも……」
「大丈夫よ。あの子は出来る子だと思うから」
「ミューラさんが言うなら……。そうですね。いただきます」
「そうこなくっちゃ。じゃあ準備するから待っててね」
楽しそうにステップを踏んで紅茶を取りに行ったミューラさん。
オレは過去に何度か仲間を連れてきたことがあるが、ミューラさんがお茶に誘ってくれた時に連れてきた仲間は全員が値切ることに成功している。
逆にお茶に誘われず、一緒に付き添っていた時は全員が値切ることに失敗し、オレが代わりに値切った。
ミューラさんの勘は当たるのだ。
「ミューラさん、手伝いますよ」
「じゃあお願いするわ」
オレとミューラさんはティータイムを、シーナとミルドレードは武器作りの相談をした。




