第13話:異変
窓から差し込む優しい朝日。
けれどオレは動けないでいます。
「リア! リア! 起きてくれ!」
「むにゃむにゃ」
現在時刻六時。リアが起きるまではあと三、四時間くらいだろ。
リアは室内で寝たらきっちり十時間後に起きる。野宿の場合は別だけど。
しかもリアは何故か裸で寝る裸族である。
そこも直してほしいところだ。
「リア! 頼むから起きてくれ! この状態を見られたら流石にヤバいだろ!」
「むにゃ」
今誰かに来られたらマズい。それがシーナちゃんだったら尚更だ。
無理矢理にでも引き剥がさなければ。
「リア……すまん。〈筋力強化〉」
オレは〈筋力強化〉の魔術を使って、横にリアを押した。
無事成功。これで一件落着だ。
「ユーリさん、入ってもいいですか?」
「うん、いいよ」
ギリギリだったな。
本当、リアは迷惑な奴だ。
昔、一ヶ月くらいパーティーを組んだことがある。
あの時は一緒に住んでいたから慣れていたが、今考えるとあれは異常だったと気づく。
女の子と一緒に同じ部屋で暮らしていた。それはまあよしとして、同じベッドで寝るのはおかしいだろ。
しかもベッドが二つあるのに。
「失礼します。……!? ゆ、ユーリ、さん。その女性は?」
「ん? ああリアだよ」
「な、なんで裸なんでしょうか?」
「ああ、それは、リアが裸族だからだけど……うん、確かにおかしいね。シーナちゃん、勘違いしないで。オレは何もしてないから」
改めて考えてみると確かにおかしい光景だ。
オレとリアが一晩一緒に過ごしたかのようだ。それも言えないことをして。
一晩過ごしたのは事実だけど、何もしていない。
そのことは弁明しておこう。
「そ、そうですよね。ユーリさんはそんなことしませんよね」
「うん。リアに聞けば分かると思うし」
「それなら良かったです。ユーリさんが襲っていたらどうしようかと思ったので」
襲うって、オレそんな勇気も度胸もないよ。
それにリアを女性としては見れない。だって幼馴染をそんな風に見ようと思わないし、リアの方が圧倒的に強いから冒険者としての劣等感を抱えてしまう。
だから付き合うこともできないと思う。
それがあってパーティーも解散したんだよな。
「オレはシーナちゃんを幸せにするって誓ったから、他の女性を襲ったり好きになったりしないよ」
「ユーリさん……」
「……ちょっと、ユーリ。こんなところでいちゃいちゃしないでくれる? 疲れたから寝たいんだけど」
「あっ、ごめーー。……リア……」
リアが急に起きて、オレとシーナちゃんの会話に文句を言ってきた。
そしてすぐにまた眠る。
こいつ、ふざけてやがるな。
「なに?」
「ここ、誰が泊まってるところかな?」
「え? アタシとユーリだけど、それがどうかしたの?」
どうかしたって、こいつはやっぱりどうかしてやがる。
一銭も払ってない分際で自分が泊まっているというその図太さはもう尊敬の領域だと思う。がしかし、それはただの迷惑でしかない。
「リア、今すぐここで寝た分の料金と迷惑料を払ってもらうぞ」
「いいよ。金貨何枚でも払ってあげる。アタシこれでも稼いでるからお金なら持っているわよ」
それはそうだろう。
この日常生活ダメダメで常識不足でも冒険者は実力さえあればいいんだよな。
リアはソロでSランクだから、名声も実力も金も、色々なものを持っているってことになるのか。
こんなダメな奴がSランク冒険者だと思うと、嫉妬よりもギルドどうなってんだよって思いの方が強い。
実力主義っていうのは良い面も悪い面もあるんだな。
それに高ランクの冒険者は日常生活がダメな人が多いって聞いたことあるし。リアを見るとそれを実感できる。
「じゃあこの前のゴブリンの巣の討伐報酬全額くれ」
「ああ、あれね。あれは槍の修復に全額使ったからもうないわ」
チッ、金あるって言いながらないのかよ。
って槍を修復しないといけなくなるって、どれだけ無茶な戦い方をしたんだ。
あの槍は特別な素材を使って作ったって自慢してただろ。それを数年前に言ってたから、それを何年も使っていたのか?
それとも買い替えたのか? だったらもっと良いものになってるはずなのに。
「へえ、そう。だったら出て行け」
「そんなこと言っていいの? ユーリの秘密、シーナにバラしちゃうよ」
秘密って、オレそんな秘密を抱えているつもりはないんだけど。
何か持ってたっけな秘密? 覚えがない。
「シーナ、よく聞いておいてね」
「は、はい!」
何を言う気なんだ。いざとなればどうにかして止めないといけない。
リアに勝てる自信はないが、怪我を負えば秘密の話なんてすることにはならないよな。
「実はユーリはね。簡単な加護をつけることができるんだよ! それも一瞬で!」
それ、秘密にしてるつもりはないんだけど。
しかも褒められてない? オレのいいところを言っているだけだと思うんだが。
「凄いです! ユーリさんは、色々なことができるんですね」
「そうなんだよ。アタシはもっとユーリの凄いところを知ってるんだから。ふふん、どう、この秘密は?」
どうって言われてもな。返事に困る内容を言われただけだ。
あと何故にリアが自慢げなんだ。
それにリアの方が凄いところがいっぱいある。
そんな天才に比べたらオレなんてまだまだだ。
「もっと聞かせてください!」
「いいよ。例えば……」
「そういう話は本人が居ないところでやってくれ。あとリア、そんなことで誤魔化しても無駄だぞ。さっさと出て行って自分の宿でも見つけろ」
「無理だったか。上手くいけたと思ったんだけどなぁ」
いや、誤魔化す気満々だっただろ。
明らかに話を別の方に変えようとしていたし、シーナちゃんがそっちに流れそうになったからそれをいいようにしようとして。
「そういえば、ゴブリンの巣に行ったんだけど、ゴブリンロードが二体いたんだよね。ゴブリンナイトとかゴブリンウィザードとかが多くいて、ゴブリンが少なかったんだよね」
「ゴブリンロードが二体、か。よし、話は下の食堂で聞くから、まずは部屋から出よう。だから服を着ろ」
リア、ゴブリンロード二体を一人で討伐したのか。
恐ろしい子に成長したな。
「はーい」
「じゃあ一分毎に金貨五枚な。最初の一分は約束の加護を無しにするから」
「えっ!? ちょ!? まっ!? 分かったから、待ってよ」
「じゃあ計り始めるからな。スタート」
そう言って、時計を見る。
丁度0秒のところからなので計算しやすいな。
「シーナちゃん、行こうか」
「えっと、大丈夫なんですか?」
「大丈夫だよ。こういう時のリアは早いから」
そうなのだ。
時間制限があったり時間毎にデメリットが増えていくとなると、リアのスピードが戦闘時くらいに早くなる。
「それなら」
「ここの食堂のご飯美味いんだよ」
「そうなんですか。楽しみです」
ここは普通の宿屋に見えて、ここを拠点とする冒険者達には人気の宿屋なのだ。
食事が美味く部屋も綺麗、なんと時間は限定されるが魔道具の風呂があるため、最高の宿屋と言っても過言ではない。
「朝のおすすめはパンケーキとかかな」
オレは食べないんだけど。
一度食べた時とても美味しいと思えた朝食だ。
「じゃあパンケーキにします」
「了解。オレが注文してくるから、そこのテーブルで待ってて」
「わかりました」
オレは注文をしにカウンターまで行った。
「おはようございます」
「おはよう、ユーリちゃん。今日もいつものでいいかいな」
「うん。それとパンケーキをつけてくれるかな」
「分かったよ。コーヒーとパンケーキね」
オレは朝食を食べれないタイプの人間だから、いつもコーヒー一杯だけ飲むのが習慣になっている。
その点、昔のパーティーメンバー達はガッツリ朝から食べるタイプの奴らだったから、それを見るだけで気持ち悪くなっていたしな。
組むパーティー全てが朝からステーキとか食う人間だったんだよ。あと甘ったるいそうなスイーツとかも。
よく朝からそんなものが食べれるなって感心してた時もあったな。
「あのお嬢ちゃんのためかい?」
「うん、そうだよ」
「トッピングとしてクリームとシロップ多めにしといたから」
「ありがとうございます」
そう言ってコーヒーとパンケーキをシーナちゃんがいるテーブルまで持って行った。
「ユーリ! アタシの分は?」
「ない」
オレが戻ってきた時にはリアが既に座っていた。
やっぱり早いな。
こういう早さがあるんだったら、もう少し常識を学んでおいてほしかった。
「シーナちゃん、どうぞ」
「ありがとうございます。わぁ、凄いですね。一人で食べ切るかわからないくらい多いですよ」
そりゃそうだ。
こんな馬鹿みたいににクリームやシロップがかかっている上に、果物も大量に乗っている。そんなのを朝から食べれる女性は少ないだろう。
オレが知っている女性冒険者は食べれていたが。
「食べれない時は、リアにあげるといいよ。残飯処理係だから」
「ちょっと、それは酷いよ。こんな美味しそうな料理を残飯って呼ぶなんて。作った人にも料理にも失礼でしょ」
うん。やっぱりズレてるな。
普通の人は自分が残飯処理係って呼ばれたところに怒るはずなのに、料理とかのことに対して怒るとは予想外だ。
これは心が広いのか、はたまた馬鹿なだけなのか。
恐らくリアは後者だろう。
だってこいつ、戦闘の時も兎に角突っ込んで敵を殲滅するっていうスタイルだからな。
「それでさっきの話、本当なのか?」
「ほんと、ほんと。ゴブリンロードが一緒にいるなんて珍しかったから。ゴブリンナイトとゴブリンウィザードはそれぞれ百体以上いたのに、ゴブリンはそれ以下だったんだよね」
確かに異常だな。二つとも。
まずリアは何故そんな量の敵を一人で倒せたのかが異常だ。
人間離れした力だな。
ソロランクがSの冒険者って皆んなこうなのか? それともリアが異常なのか? どっちでもいいことだが、リアが異常に強いということは分かった。
次にゴブリンの量などに関することだ。
ゴブリンは群れで行動する魔物だが、ゴブリンロードは同種とは群れない。
なのに一緒にいた理由。それは恐らく裏で何者かが指示を出していたのだろう。
魔物を操れる人間は存在しない。
だとすれば魔物の上位互換的存在である魔族だろう。
でも魔族は衰退しているはず。
何故なら魔族の王である魔王が現在存在していないからだ。魔王は百年程前に各国から選ばれた勇者と呼ばれる人物達が殺したからだ。
だから魔王を失った魔族は徐々に衰退していき、ここ数十年姿を見たという報告はされていない。
可能性は魔族の気まぐれか何かでやったか、魔王が復活または新たに誕生したかのどちらかだな。
そんなことは有り得ない。
まあ大人しく生活していれば魔族と会う機会がなんてないだろう。たとえ冒険者を続けていたとしても。
「考えても埒が明かないことだから今は放置していていいんじゃないかな」
「まあそうかもね。いざとなればアタシがいるし」
「そんなに異常なことなんですか?」
シーナちゃんは話している内容のおかしさが分かっていないようだ。
それもそうか。新人冒険者はそこら辺がまだ疎いだろうからな。
「まあ、異常ではあるけど、そこまで悩むほどのことじゃないと思うよ」
「そうですか。それなら良かったです」
オレやシーナちゃんが心配するほどのことではない。
こういうのはギルドや国が解決することだ。
「ユーリとシーナは今日はどうするの?」
「えっと、オレは薬草採取のクエストでも受けようと思っているんだけど、シーナちゃん次第かな」
「わたしはユーリさんについていくって決めたので、指示に従います」
指示に従うって。なるべく平等でいきたいんだけどなぁ。
まあ今はそれでいいか。時間が経てば解決してくれる問題だろうしな。
「そう。じゃあアタシは槍の修復状況の確認と加護の依頼してくるわ。だからユーリ、お金ちょうだい」
リアはそのことが重要だから、高速でここに来たんだろうな。
まあ約束は守らないとだし、シーナちゃんの前ではそこら辺もきちんとやっておかないとだからな。
「金貨何枚?」
「つけてもらう加護が〈風魔術相性上昇〉だから結構高額になっちゃうんだよね。金貨二十枚くらい?」
魔術との相性を上昇させる加護って、まずできる錬金術師が少ないだろ。
それに結構高等な加護だろうからな。
「仕方ない。これでいいか?」
「ありがとね。じゃ、アタシはこれで」
あっという間に宿屋を去ってしまった。
風魔術が得意なだけあって、風みたいな奴だな。
「シーナちゃん、食べてしまったみたいだね」
「はい。行きましょうか」
「そうしようか。まずはギルドだね」
ギルドか。またあの視線に耐えなくちゃならないのか。それは嫌だけど、まあすぐに終わるだろうしいっか。
それに朝だから冒険者は少ないから、大丈夫だろう。
そうしてオレ達二人は宿屋を出て、ギルドへと向かった。
第2章開始!!
早速第2章が始まりました。
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