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第1話:離脱

「ユーリ。済まないがパーティーを抜けてもらう。これは皆の総意だ」


 ああ、またか。六度目になるのにこれはまだ慣れない。他の人には慣れたなどと言うが、こんなことに慣れる奴などいるのだろうか。

 ホーク、お願いだから辛そうな顔をしないでくれ。残りたいと思ってしまうじゃないか。


 ギルドにある酒場の個室でパーティー【フューチャー】のホークが深々と頭を下げ、他のパーティーメンバーも頭を下げる。


 ホーク、サッシャ、メリー、ジンク。【フューチャー】のメンバー達。


 オレが今さっきまでメンバーだったパーティー。

 その全員が苦しそうで辛そうで、悲しそうな顔をしている。

 ホーク、辛そうな顔でオレを見ないでくれ。サッシャ、俯かないでくれ。メリー、泣かないでくれ。ジンク、そんな悲しそうな目をするな。

 いつも皆んな笑っていたじゃないか。だから最後も笑った顔で言ってくれよ。


「ああ、分かったよ。王都でも頑張れよ。応援している。元パーティーメンバーとしてな」


 オレだけは笑っていよう。

 これはただの、ほんの一時の別れに過ぎない。オレが頑張れば、また会えるはずだ。


 立ち上がり、皆んなのことを見る。

 何度も、何度も見た姿。元パーティーメンバーがオレに向かって頭を下げ、俯いている姿。


 最後にリーダーであるホークを見る。

 ホークはいつも皆んなのことを第一に考える。そして人に弱みを見せないで泣いたりなど決してしない奴だ。

 そんなホークがオレのために泣いてくれている。


 泣いているホークを見て嬉しくなってしまった。

 こんな弱いオレのために泣いてくれる奴。

 でもそんな優しく強い奴が泣いているのを見て同時に悲しくもなってしまった。


 笑って欲しかった。

 やっぱり別れは笑って欲しい。


「ありがとう。またいつか、な」


 最後にそれだけ言ってオレはその場から立ち去った。


###


 オレが個室から出て酒場から出ようとある奴の前を通ろうとした。


「はっ! 聞いたぜ、【邪魔者のユーリ】さんよ。またパーティーをクビになったらしいじゃないか」


 はぁ、こんな昼間から飲んで、暇なのかね。


 話しかけてきたのは、バックスというギルドの酒場にずっと居る酔っ払いだ。

 一応Cランク冒険者らしいが、冒険者らしいことをしているとは思えない。永遠に酒場に居るんじゃないかというくらい、酒場で酒を飲んでいるからだ。


 バックスはオレのパーティー離脱を喜んで酒をグッと飲む。テーブルをバンバンと叩き、ガハハと笑った。

 オレはそんなバックスが喜んでいる姿を見て、少し悲しい気分が晴れたような気がした。

 どんな酷い奴で自分を貶して笑っていてもそのクソみたいな笑顔でも見ているだけで楽になる。


 それにしても、もう噂が広まっているとは。流石は冒険者、情報伝達が早いな。


 冒険者は情報が必須の職業だ。

 最新の正確な情報があるだけで勝率が格段に上がる。


「……」

「なんだ? 黙りかよ。まあいい。今度のパーティーも有名になっちまったら、お前の名も有名になっちまうな。【邪魔者のユーリ】が居なくなったから強くなった、てな」


 だけど相手にするのは面倒くさい。


 でも確かにオレの悪評が高まるのは間違いないな。だって【フューチャー】のメンバーは強いからな。

 今までのパーティーも王都や他国で活躍している。誰が付けたのかは知らないが【邪魔者のユーリ】っていうネーミングセンスは抜群だ。


 何か言う気も起きなかった。

 相手にするのを面倒くさいと思う気持ちもあるが、気持ち的に話すのが辛い。だから相手にしない。


 オレはバックスを無視して、ギルドの受付に行った。


「ユーリさん。大丈夫ですか?」

「大丈夫だよ。慣れたから。あとパーティー脱退の件を伝えに来ると思うから、オレは了承してること伝えておいて」

「は、はい。分かりました」


 少ししょんぼりとしている。


 やっぱり嘘をついてしまう。

 強がりからか心配されたくないからか。どっちでもいいか。

 もう決まったことだし。今更変える気も変わることもない。だから今からどうこう言っても意味がないからな。


 受付嬢のミンスさん。優しくて可愛いと評判の人気受付嬢だ。綺麗な茶色の髪と整った顔。それと胸が大きいというのも人気の理由だろう。

 ギルド内での扱いが酷いオレに対しても優しく接してくれる人物の一人。ギルド職員でも冒険者上がりの人はオレに対して冷たく当たるからな。


「それで何の御用でしょう?」


 オレがパーティー脱退の件以外について用事があることをすぐに察する辺り、受付嬢として一流だと思う。


 何故分かったのか。恐らくだがオレがパーティーを脱退したとき、必ずすることがある。

 それはソロクエストだ。

 クエストをすることで辛い気持ちを紛らわすことが出来るからだ。


 気持ちをリセットするのにクエストをこなすのは一番効果的だと思っている。

 特に魔物の討伐ならばどんな気持ちだとしても集中しなければならないから、悲しんでいる暇などないからな。


「ソロクエストってあるかな?」

「ソロクエストならありますけど、パーティーは入らないんですか?」

「暫くはいいかな。オレとパーティーを組んでくれる人も居ないだろうしさ」


 四度目五度目六度目のパーティーを組んでくれた皆んなは、オレのスキルについて知っていたからパーティーを組んでくれた。

 そのあとクビにしたから用済みと判断されたように見えるかもしれないが、オレが事前にオレがパーティーのレベルに追いつけなくなった時はクビにしてくれて構わないと伝えている。

 だからクビというよりは事前に脱退すると言っているようなものだ。


 ミンスさんは、クエスト資料を取り出す。


 クエストは掲示されているものと、受付の人達が選んでくれるものの二つがある。


 掲示クエストは薬草などの採取やペット探し、それにそこら辺にいる雑魚魔物の討伐などの誰でもできるクエストだけが載っている。

 稀に緊急クエストが載る場合がある。


 受付の人達が選んでくれるクエストは、その冒険者やパーティーに見合ったクエストを選んでくれる。

 冒険者やパーティーのランクや直近の結果を見て出してくれるというものだ。

 ある程度の実力がついた冒険者の殆どがこちらを選ぶ。


「分かりました。ユーリさんのソロランクはBランクでしたよね」

「うん」


 冒険者はソロランクとパーティーランクというものがあり、ソロ活動をするとソロランクが上がる。パーティーランクも同様にパーティー活動をすればパーティーランクが上がる。

 ランクはS、A、B、C、D、E、Fの七段階。


 パーティーに所属していない間はソロ活動していたからソロランクもそれなりに高い。

 ソロランクがB以上は冒険者全体の二割にも満たないらしい。基本的にパーティーを組んでいるから、ソロランクを上げる必要性がない。

 パーティーランクがSでもソロランクがFの奴だって居る。


 オレが所属していたパーティーの五つがSランク、そして【フューチャー】がAランク。

 抜けた後にSランクになったパーティーが五つもあれば、【邪魔者のユーリ】っていう二つ名がついてもおかしくないな。


「じゃあ、昇級のためにAランククエストを挑んでみるのはどうでしょうか?」

「Aランククエストか。Bランククエストっていくつクリアしたかな?」

「今のところ62個ですね」


 62個クリアしたってことはあと38個もクリアしないといけないのか。途方もないな。


 ランクアップには二つの手段がある。

 一つはランク毎のクエストを一定数以上クリアすることだ。ただこれは上がれば上がっていく程クリア数が多くなるから、Dランク昇級くらいからやる奴は少なくなる。

 もう一つは現在のランクより一つ上のランクのクエストを受け、それをクリアすることだ。


 ただ後者は危険だ。

 何故ならオレの場合、Aランクの中でも難易度が高いクエストを受けなければならないからだ。だからそれで昇級失敗。つまり死ぬことだってある。


「どんなクエストかな?」

「ソロクエストなので、高位のドラゴンかデーモンかアンデッドの討伐ですかね」


 普通はパーティーで討伐するべき魔物を一人で討伐しなければならないのか。

 だからソロの高ランク者が少ないのか。


「ドラゴンはロックドラゴン、デーモンは公爵級、アンデッドはロードアンデッドですね」


 そう言い三枚の紙をオレに見せてくれた。

 そこには討伐対象や討伐時の賞金などが書かれている。


 オレのメインジョブは全属性魔術師、サブジョブは剣使いと弓使い。

 技術はあるが強くはないため、相性の悪いロックドラゴンは避けたい。ロードアンデッドはアンデッドを召喚するからソロで討伐するのは難しい。


「デーモンでお願い」

「了解しました」


 そう言ってオレはその紙にサインをした。


 オレはあるスキルのせいで強いジョブを持っているのにも関わらず弱い。

 味方には絶大な効果をもたらすが、オレにはデメリットしか及ぼさない超迷惑スキル。


 【育成者】


 これはオレにとって最悪のスキル。

 だからいつかは邪魔者になってしまうのだ。


 こんなスキルを与えた神。オレは神を信じない。


「受理されました。改めて確認します。デーモン公爵級の討伐でいいですね」

「ああ。行ってくるよ」

「行ってらっしゃい。ご武運を」


 ソロクエストはパーティークエストに比べて死亡率が高い。

 今回のクエストはほぼ死ににいくようなものだが、オレは強くはないが努力はしてきた。だからソロ討伐してみようと思った。


 いつか、皆んなに会うために強くなろう。

 そう思っているからだ。


 そんなことを思い、オレはギルドをあとにした。

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