7.魔力と探検
転移してきた初日はやはり疲れていたようで、ご飯を食べて早々にお風呂に入ったら、寝落ちした。
子供の体はこんなにも疲れやすいのかと、今までと違う感覚になれない。お風呂の中で寝落ちだけはしなくて、心底良かったと思っている。今は子供の体と言えども、精神は大人だ。お風呂の中で浮いていたから着替えさせたとか、絶対にヤダ!溺れるのも嫌だしね。
それにしても、この世界の文化はよくわからない。守護者レベル2になったから、守護者の家は魔石や魔力で明かりが灯り、水やお湯が出ると聞いた。ベッドもビジネスホテルぐらいだし、凄く寝心地がいいかと言われたら、家にあった方がいいと言える。寝具は拘ってたから。
これがレベル3になったら、リゾートホテルのようになるのだろうか。
他の家は油で火を灯し、薪でお湯を沸かしているというし、早くレベルを上げたいものだ。
ただ、そのレベルをどうやって上げるか、だ。
守護者の幸福度で決まると言われても、いまいちわからない。ルチアーノに聞いても、顔を紅くして明確な答えは返って来ないし、さっぱりだ。
幸福ねぇ。
独り言のように呟いて、一緒に寝ていた子猫の頭を撫でる。
みゃぁ、みゃぁ(ごはん。ごはん)と声を上げ、小夜子の後を追ってくる様子は、可愛くて仕方ない。
こんな風にまったりと、もふもふの温もりと一緒にいることは、幸福だと思う。
「良く寝れた?」
「なぁ」
食事会がお開きになった時に、離れたくないと最後まで踏ん張っていた毛玉の塊。それがこの子だ。
冬眠に入っていた子の一人だが、その間に両親は食料探しや出稼ぎに出かけてしまっていた。その後まだ戻って来ていない。目覚めて誰もいない家に戻りたくなかったらしく、言葉も上手く話せないこの子は、今日だけはと小夜子と共にすることになったのだ。
そしてもう一つ大きなもふの塊にも声を掛ける。
「ルチアーノは?」
「ああ……」
返事が返ってきたが、その声に力がない。顔を覗き込めば、なんだか疲れた顔をしているように見える。気のせい?
「抱きついてたから、寝がえり打てなかった?」
「まあ、そんなところだ」
「そうなんだ。ごめんね。多分、今日は大丈夫だと思う」
そう、寝落ちした小夜子は、ベッドに運んだルチアーノの背中の毛を掴んで離さなかったらしく、仕方なしに一緒にベッドに横になったらしい。
起きた時にはルチアーノのもふもふの毛に、顔を埋めてた。
大きなもふもふに包まれて寝るとか、元の世界ではあり得ないから。ラッキーだと思っておこう。と鼻歌まじりに起き上がった。
リビングに行けば既に朝食が作られており、小夜子を待っていた。
「おはよう!みんな早いね」
「ええ、今日は小夜子様と一緒に、皆探検に行きますので」
「みんな一緒に行ってくれるの?!」
「勿論です。仲間が帰ってきたときに、美味しいものを食べさせてあげたいですから」
「そうだよね。食べることは大事!他の国に捕らわれている仲間たちを救うためにも、お金になるものも探さなきゃね」
「はい。よろしくお願いします」
「こちらこそ、これからよろしくお願いします」
小夜子の世話をしてくれるのは、前王妃の侍女をしていたという、サラ。
身の回りの世話や食事まで作ってくれる。
ルチアーノに紹介されサラに挨拶された時に、自分のことは自分でするよ?と小夜子は言ったが、それは難しいと言われた。
それは守護者という立場があるから?
そう小夜子は思ったが、根本的なことだった。
この世界になれていない小夜子の今の体では魔力が安定しない為に、家にあるすべてのものを動かすことが出来なかったのだ。水を出すのも、火をつけるのも、掃除道具を動かすことも全て魔力が必要なため、小夜子は何一つ自分では出来ない。試しにキッチンで火をつけてみるが、うんともすんとも言わず。
ムキになってウンウンと唸っていたら、いきなり体が熱くなって、火がボワァ!と立ち上がった。
「危ない!」
そう言われてすぐに手を放したが、ちょっとだけ前髪が焼けた。
「だから、難しいのです」
ルチアーノに何を触るなと怒られ、サラにはわかりましたか?と笑顔で言われてしまえば、逆らうことなどしない。魔力が安定してきたときに、使い方を教えてもらうことになっている。
「さあ、食事にしましょ」
「はい」
「ルチアーノ様は、シャッキっとされてください」
「わかっている」
食事を食べたら、外に出て大丈夫な服をサラが選んでくれた。着替えたら持っていく物の確認だ。
バッグは普通にマジックバックがこの世界では普通で、大きさがレベルによって変わる。この国では1つのマジックバックで4畳半ぐらいの大きさらしいので、今回は数を多く持っていくのだそうだ。
水を多く入れることが出来る水筒
お昼のお弁当に、もしもの時の果物。
着替え
怪我をした時に直すポーション
採取する為の鋏とナイフ
これらをウエストポーチ(マジックバック)にいれ、背中には空のリュック(マジックバック)を背負った。
それ以外の物は他の人たちが持ってくれている。
「気を付けていってらっしゃいませ」
「行ってきます」
小夜子は元気に手を振って、ルチアーノと共に家を出た。
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