6.食事と思惑
鑑定をアレコレしていると、見た目は地球とは違うが、味や名前も似ているものが多かった。
川沿いに生えていた長細い水草についている花のような実は茗荷だったし、岩に生える苔は海苔だった。そしてその岩こそが、削れば岩塩だったりする。
踏み倒してしまいそうなほどに生えているナズナみたいな草は、種をすり潰せば小麦粉。
自分と同じ背丈の茎の太い草は、ホウレン草や小松菜。引き抜いて根っこがあれば、大根。
そんな感じで目に付くもの全てが食べられる物とか、ご都合主義というか、この世界の成り立ちからして特殊なのだから、そういうものだと思うことにした。
あれこれわかった時点で、食べられるものを作ることにする。子猫たちは家の裏になっている果物が丁度良く、大人たちは小夜子と同じ物が食べられるというので、家で調理することになった。
猫が人間と感じものを食べられる?
そのことに小夜子は???を並べるが、今はしゃべられる二足歩行しているのだ。物語でいう獣人という括りだと考えた。なんとなく、猫なのに食べられるの?と聞くのはダメな気がしたのだ。
「調理は私たちが」
小夜子は肉球の手でどうやって調理するのか見ていたが、まさか肉球から出す魔力で調理器具が張り付くのをみて、奇声発した。
いや、だって!
包丁やフライパンなど、どうやってもつんだろうって疑問に思うでしょ?
まさかみんな魔力もちで、それが当たり前だとか今知ったし、どうなっているのか、持っているところをじっくりとみたいじゃない。
不思議そうに小夜子がぐるぐるとみんなの周りを回るもんだから、ルチアーノに邪魔だとソファーに座らされた。
***
「頼むから落ち着いてくれ。守護者が動くと、皆恐縮する」
「あ、うん。ごめん」
「いや、落ち込ませたいわけじゃなくて」
明らかに落ち込んだように見えた小夜子にルチアーノは取り繕おうとするが、良い言葉が出ないらしく、口の中で何かモゴモゴいうだけだ。
「ルチアーノ様は、相変わらず口下手で」
「じい…」
「守護者様、ご挨拶させて頂いても?」
「はい!お願いします」
「私はこの国の相談役、イェータ と申します。そこにおられるルチアーノ様の子守役として仕えておりました」
「ルチアーノの?」
「はい。昔から強面で女性から避けられておりました故、どうも可愛らしい女性と話をするのがあまりうまくないのです」
「まあ…、それはわからないでもないけど。この世界は強いものがモテるんじゃないの?」
「確かにそういう者もいるとは思いますが、いやはやこればかりは……」
「ああ、同性には人気があるタイプってやつね。ルチアーノもお年頃なんだし、そこは頑張らないとだめなんじゃない?」
ガックシと頭を落としたルチアーノをイェータは憐れむように見た。
「可愛らしい方には、どうやら不人気のようでして」
「そうなんだ。猫の世界も人間みたいだね。私は細長いひょろっとした男よりは、男らしい人がいいけどなぁ。がんばれー」
「そうですか、そうですか。守護者様は男らしい人が良いですか」
イェータは大きく頷きながら、生ぬるい視線をルチアーノに向けた。
ルチアーノはわかっている、とばかりに頷くが、小夜子の意識は既に出来上がっていく料理に向かっていた。
「ルチアーノ!ご飯できたって」
料理を作っていた女性たちからもすまなさそうな顔をされるが、こればかりは仕方ない。
「食事にしよう」
時間はたっぷりとある。
守護者のレベルが5になった時点で、ルチアーノ達も人間と同じ姿で生活をするということを小夜子は知らない。小夜子にとってルチアーノが対象に入らないのと同じように、他の者もただの猫としか思っていない。だからこそ、この時間を有効に使い、自分を知って貰おうとルチアーノは思っている。
「これ、美味しい!」
バケットに挟まれた調理された野菜たち。
所謂バケットサンドを頬張りながら、小夜子はニコニコと食べている。ただ子供になった分、バケットが大きすぎて上手く噛みつけないようで、細かく切ってもらっていた。
うむ、はやり可愛らしい。
それを見ながらルチアーノも頬張る。
久しぶりに食べたパンの味は、本当に美味しかった。
それは皆も同じようで、涙ぐみながら食べている。
前守護者だった父が亡くなり、気力がなくなったのかすぐに母も後を追った。
続けて王族が居なくなったことで、急激に国の守護が薄れていった。本来なら5年の歳月をかけ薄くなっていくというのに、3年も待たず結界が壊れた。
同時に周りの諸国は狙ったように、国土を奪いに来た。元々300年前の守護者が小夜子と同じように異世界人だった為、その知識を使って国を豊かにした。その時に資源も、今回の小夜子のように沢山発掘された。それを知っている他国は、この機会にと思ったのだろう。
良き隣人に、牙を剥かれた。
『弱き者は、強き者に従え』
そういう本能を持つ世界だ。仕方ないとわかっていても、割り切れなかった。
だからこそ思い切って外(異世界)に出て、いや生命樹に放り出されたわけだが…。
久しぶりの満腹感に、皆酔いしれる。
明日から、少しずつ小夜子と共に頑張ろう。
そう決意するルチアーノだが、その前にレベル4で国交が開かれ、他の国のもふもふたちもこの地を訪れることになることを忘れていた為に、大いに慌てることになるの事を、今は誰も知らない。
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