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4.生命樹と誓約

家の外に出てみれば、先ほど見た景色が一転していた。

壊れそうな小屋は普通の平屋の一軒家になっているし、数も増えている。それに鬱蒼とした木々は、光の入った綺麗な森林浴が出来そうな森になっているし、湧き水は貯水タンクにたんまりと溜まり、それでも余った水は小さな用水路のような道に流れ出ている。その用水路のような道には小魚が泳ぎ、他からも集まった水が合わさった小川には、エビや貝、魚と種類が豊富だった。

なんとなくそこに生えている水草も、食べられそうな気がする。


「おさかな!」

小さき者、子猫たちは小川でパシャパシャと手を入れて捕まえようと水しぶきがあげるが、どう考えても逃がしている。

それを見た大人たちがここは自分たちがするから、森で色々集めてきなさいと言われていた。

うん。それが正解だね。

折角の食べ物を逃がして、どうするよ。

可愛んだけど。


ルチアーノは小物には興味がないとばかりに、出来たばかりの森にズンズンと入っていく。

いや、ルチアーノ。

守護者だからなのか、これがこの世界の常識なのか分からないけれど、今歩いている森が安全なのは分かるんだけどね。もう少しあんたが連れてきた守護者に対して、敬意を表して状況を説明するとか、森は安全だから心配するなとか、声掛けがあっていいんじゃないの?雰囲気(可愛いの暴力)に呑まれて、テンション高く冒険だ!なんてここまで来たけどね!私の生活は一転したわけよ。いきなり行方不明になって会社はどうにかなるとしても、残してきた家族が心配。彼氏もいないお一人様だけど、両親と弟がいる。弟は早くから高校生の同級生と結婚して子供いるから、私一人が居なくなっても寂しくはないと思うけど、覚悟がないまま存在が消えるのは、心労を与えかねない。

物語の高校生みたいに、心はすぐに順応できないんだよ?

状況としては好ましくないけれど、ある意味独りで森に放り出されたままだと生存本能が先に立ち、覚悟は決まっていたのかもしれない。死なないという安心感は、安堵と共に負の感情も連れてくる。


小夜子が色んな感情を渦巻かせている中、ルチアーノ達は目的地に到達したようで、全員が自然と足を止めた。

そこには地球ではありえない大きさの樹がそびえたっていた。

そしてその周りには豆粒のような小さな光が、ふわふわと飛んでいる。


「蛍?」

「……これは、誕生を待つ、希望の光。この世で使命を果たした者はこの樹に魂が宿り、この光となって誕生を待っていると言われている。この光の粒が少なければ、国の反映はないと言われている。それを紐づける由来はこの樹の周りに生えるモノにある」


うん。

それは何となくわかるよ。

この樹の周りは他と比べようがないほど澄んでいて、聖域と言われる場所だと思えた。

小夜子はルチアーノに降ろしてもらい、生命樹と言われる樹に触れた。


小夜子は触れただけでこの樹の躍動を強く感じた。

その瞬間、頭の中に声が響く。


『守護者よ、強引に連れてきてすまなかった。そこにいるルチアーノを責めないでやってくれ。我はこの世界が終焉に向かうのを止めたかった。ずっと見守ってきたこの国の消滅を認めたくなかった。生きたいと願う魂を、彷徨わせたくなったのだ。だが、それは我らの都合でしかあらず。この先、小夜子を元の世界に戻すことは我の力をもってしても難しい。その代わり…守護者小夜子の心労を取り除く努力をすることを、約束する』


どんなに贖ってもこの流れを止めることは出来ないし、決定事項なのだと思わせる絶対的力の波動。

ああ、本当に…この世界で新しい人生を始めなければならないのだということを、

――実感した。


そっか。

もう戻れないし、家族には会えないのか。

小夜子は静かに涙を流した。

泣くということは、心の澱みをとること。浄化だと聞いたことがある。

だったら、枯れるまで泣いてしまえばいい。




****


小夜子が静かに泣くのを、皆静かに見ていた。

アイルーロスポリスの住民たちは、生命樹が小夜子に起きたことの説明をしているのだということを、知っている。だからこそ、自分たちの国のことに巻き込んでしまった守護者を、守ると誓いを立てるように皆小夜子の前に跪いた。先ほど魚を取ると言っていた大人たちも、今は全て揃っている。

やがて小夜子が意を決したように、言葉を紡ぐのを見つめた。


「生命樹、向こうの世界の私の存在を消して。そして私の貯金や生命保険など両親が受け取れるように、宝くじが当たったことにして。両親は宝くじを買うようなタイプではないから、買いたくなるように誘導して。ここに私を連れてこれるほどの力があるなら、買いたくなるようにすることぐらい、出来るでしょ?」

『約束しよう』

「なら、良かった」

懇願するように。

向こうの世界との別れを惜しむように。

区切りを付けようと、泣きながら笑顔になった小夜子は、とても綺麗だった。


『守護者小夜子を絶対に、幸せにする』

アイルーロスポリスの住民たちは、生命樹の前で誓約を立てた。


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