3.アイルーロスポリスの守護者レベル
なにがなんだかわからないが、レベルが上がった。
なんだろうと思う、小夜子の心の中を読むように続けて画面に説明が流れる。
レベルが上がったことで、『アイルーロスポリスの生活水準が上がった』とでた。
生活水準?
この家に入るまでに見た小屋がこの家ぐらいになる感じ?
どういうことかとルチアーノに聞こうとしたら、目に映る視界がグニャッとなったと思ったら、普通のログハウスのような平屋の家が、2階建てになっていた。
「おお!これが守護者の力!!」
ルチアーノが興奮して叫んでいるが、小夜子には全く分からない。分かるように説明を求む!と言いかけたところで、次々と色んな種類の猫たちが駆け込んできた。
「「守護者様!!」」
小夜子と同じぐらいの大きさの猫は目の前にずらりと並び、それより小さな子猫たちは飛びついてきた。
可愛いもふもふたちに襲われて、小夜子は嬉しい悲鳴を上げた。
「なに!このもふもふの嵐!暴力!こんなのに、贖えるわけないじゃない!」
「ふわふわの毛がたまらん!」
「いや、ちょっとそこは痛いし」
「そこはくすぐったいから!」
「顔!流石に鼻を塞がれたら…死ぬ…」
死ぬ…という言葉を小夜子が発した後は流石にまずいと思ったのか、ルチアーノは救助に向かった。
「守護者が困っている。嬉しいのは分かるが、親のところに戻れ」
「「「ハーー―――イ」」」
とてもいい返事で小夜子を襲った子猫たちは、親の元へと戻って行った。
「助かったよ。物理的にヤバかった」
子猫たちに押し倒され、床に転がっていた小夜子をルチアーノが抱き上げるように起こした。
「子供じゃないんだから、手を引いて起こしてよ」
小夜子はそう言いながら服のほこりを払うように立った。そして違和感を覚えた。
「ルチアーノ?」
「ああ、小夜子のレベルが上がったことで、本来の大きさに戻った」
四足歩行から二足歩行になっただけでなく、見上げるような大きさになっていた。人間だとしても大きい部類に入るほどの大きさ。
いや、ちょっと待って。
この不思議現象も納得できていないのに、生きてるものの大きさが変わる?
先ほどまで私より少し大きいぐらいだったよね?
元の大きさに戻ったということは、私みたいに縮んだということ?
これを理解しようとしたら駄目だ。それだけは何となくわかる。この世界は育成ゲームのような世界と思っていればいい気がする。育成ゲームやったことないけど。
「えーと…」
何かよく分からないけど、言葉を待たれている気がする。
「小夜子です。みんなで元気に暮らしましょう!」
「「ハイ!!」」
みんなから素直な返事が返ってきたところで、お腹が鳴った。
そう言えば、お腹空いた。
この猫だらけの中で食べる物あるのかと小夜子は思いながら、ルチアーノに何を食べているのかを聞いた。
「その辺に生えている草や川で泳いでいる魚だ。少し前までそれすら殆どなかったが、小夜子が来たことで結界が張られたので、食べる物も森に探しに行ける」
「結界が無かったら森へはいけないの?」
「瘴気が濃いから、食べ物も毒に侵されている。今は瘴気が無くなり、毒もなくなっているはずだ。ただまだ国として機能している範囲も限られているので、広くはない」
そうルチアーノが答えたことで、画面に地図が現れた。
この世界の全体を見渡すことは出来ないようだけど、この国の雰囲気は分かった。
薄っすらとピンク色がついているところが、アイルーロスポリス全盛期だった地域で、濃いピンクマゼンタの色がついているところが、今のアイルーロスポリスだと説明が出た。全盛期だった時の約1/10だ。
「今はこの薄っすらとピンクのところは何処の国になってるの?」
「どこの国でもない。誰でも侵入でき、実効支配できる場所になっている」
「え、じゃあ、そこに住んでいた人たちは?」
「労働者として働いているのはいい方で、働かされている者もいる」
苦々しい顔のルチアーノに、表情を曇らせた他の猫たち。
何処の世界でも、力なきものが虐げられるのか。
「じゃあ、私のレベルが上がれば、範囲は広がる?」
「ああ、今回広がったからこそ、この小さきものは目覚めた」
話を聞けば子猫たちはどうやら冬眠させられていたらしく、目覚めたばかりのようだ。
それなら難しい話は明日にして、目の前の幸せと向き合おう。
「みんなで食べられるもの、探しに行こう!」
小夜子が拳をあげて声をあげれば、皆追随するように声を上げ可愛い肉球をあげた。
ああ、可愛い。
猫がしゃべるのにも慣れた。だけど、腕を上げるとか!
萌えのポイントが高すぎるっ!!
くっー―――!!
しゃがみ込んで萌えを噛みしめていたのに、行くぞとルチアーノに担ぎ上げられ肩に乗せられた。
だから、子供じゃないって!
――あ、体は子供だった。
精神的にはダメージが大きいから止めてと思っているのに、このルチアーノにはダメダメ大人だということは独り言を聞かれて知られているわけで。
長い付き合いになるのだから、猫を何匹被ったところでバレているのだ。
それならばと小夜子は取り繕う事を止め、ふわふわソファーに座った気分で、ルチアーノの肩に座り直す。
「しゅっぱーっつ」
呆れた顔をするルチアーノが視界に入るが、見えない振りしてみんなと一緒にドアをくぐった。
さあ、探検の始まりだ。
読んで頂きありがとうございました。
仕事とプライベートが忙しいため。ストックがある分だけ更新。
買った本も、いつになったら読めるかな。