22.新事実と小夜子の身体
「小夜子様、もう一度おっしゃって頂けませんかな」
「あ~ぁ、わかるよ。信じられないよね。一時間でダンジョンが出来るとか」
「聞き間違い…ではない」
「うん、間違いじゃないよ。とりあえず、ダンジョンというか、国が経営する畑や森っていう認識でいい感じで。今日はちょっと疲れたので、明日一緒に確認に行こう。年齢制限もかけるので、入口に兵士を置いて管理するのがいいかな」
「わ、わかりました。では、そのように」
小夜子はそれだけいうと、大あくびをしながら部屋に入って行った。それを見届けた精霊スターは、側近でまとめた内容をもって尋ねてきたイェータに向き合った。
『わかっておるな?小夜子に政治を押し付けるな。元々守護者が請け負うのは国の結界。国民を物理的に守護することであって、利権を守る者ではない。元々小夜子はこの世界の者ではない。従って、どの国の守護をしても良いということだ。そのことを努々忘れるな』
イェータは精霊のスターの発言に衝撃を受けていた。
政治を押し付けるな、というのは理解できた。小夜子は王妃でもなく、ルチアーノにこの世界に引き込まれた守護者だが、アイルーロスポリスの守護者だと信じて疑わなかった。それは小夜子の言動で、本人もそのように思っているのには違いない。
――だが、小夜子が望めば、この国ではない場所へ移動し、そこの守護者にもなれるということだ。そんな事実、今の今まで知らなかった。
歴史書にも異世界から来た守護者の例は少ない。そのどの伝承もその国を栄えさせたとあった。そしてその国の重鎮になっている。積極的に国の中枢となる者に会わせていった結果、そうなったというだけのことで……国を出て行く、そのような発想にならなかっただけのこと。
小夜子様でいえば、スター様がいらっしゃれば、何処へでも自由に生きていくことなど容易い。小夜子様がそう思わなくとも、スター様がこの国はダメだと判断しただけで、事態は動く可能性がある。
そのことを知ったイェータは、体中から出てくる汗が止まらない。
この国のバランスを取るなどと生ぬるいことをしていてはだめだ。強硬ともいえる採決であっても構わない。あくまで利権を行使するような輩には、この舞台から即刻下りて頂く。
そう腹決めをしたイェータだが、元と言えば王ルチアーノが早々に恋仲にならなかったことが問題だ。戻ってきたらあの尻を叩かねばならない。
そろそろ引退かと暢気に構えていたが、最後の大仕事にかからねば。
こうしてはいられない。サラにも味方になって貰い、ルチアーノ推しをしてもらわないといけない。
そして伝統が…品性が…などと面倒なことを言う年寄りにはそろそろ引退をして貰い、息子たちに代替わりをしてもらおうぞ。
イェータの歴戦の戦士とも思える獰猛ともいえる笑みが、応接間で静かに見られた。
***
小夜子はサラが整えてくれた部屋に辿り着くと、部屋着に着替えるまでもなくベッドの中に吸い込まれるように眠った。
色んな状況の変化にはある程度慣れているはずの小夜子だが、子供の体となれない場所での急激な変化に、精神も体力も付いていけていなかった。
ああ、新プロジェクト立ち上げのような疲れ方だ。
そんなことを思った記憶も残らぬまま眠り、気持ちよく起きたら、サラの心配そうに覗き込む目と合った。
「小夜子様!」
「え?サラ?」
「良かったです。本当に…良かったです」
小夜子にはなんでサラが泣いているのか分からない。
オールで遊んでも朝から仕事が出来た、一番体力も気力も充実していた二十代前半の体のような充実した気持ちで起きたら、何故かサラが泣いている。
そんな場面に出くわしたなら、間抜けな顔をしても致し方ないと思うんだよ、私は。
『どこか痛いところとか、辛いところはないでしょうか?』
「うん、元気。とっても元気」
『それは、良かったです。お着替えが終わりましたら、まず食事にして、それからお話ししましょう』
「そうだね。ものすごくお腹空いた」
スターが何故か外に出て行き、同時に何人かのメイドさんらしき人達が入ってきた。
「お着替えをお手伝いさせていただきます」
「着替えは一人で出来るから大丈夫」
「いえ、小夜子様。急激な身体の変化に、色々と支障をきたすこともありますので、見守らせていただきます」
「体の変化?」
そう言いながら布団の中から起き上がろうとすれば、最近やっと見慣れた小さな手ではなく、元の体のような手が見えた。
「元に戻ってる?」
急いで鏡の前に立とうと起き上がれば、頭で考えている動きと体が合っていないのか、転げそうになった。
「小夜子様!」
「驚かせて、ごめんね。本当だ…動きがぎこちない」
「小夜子様、三日間も寝込まれたのです。急な動きはなさらぬようにお願いします」
「え、三日?!三日も寝てたの?私!」
「そうです。お昼過ぎに眠られてから、ずっと一度も起きることなく眠られていました。そして毎日体が大きくなられたのです」
それは心配するよね。
何の前触れもなく眠ったままで、体がどんどん大きくなる。普通で考えたらホラーだ。
いや、この世界の人にすればそこまでじゃないかな?
猫から猫獣人のように一日でなったし。赤ちゃん猫だったセロですら、やんちゃ坊主になって両親の元に帰って行った。
不思議しかない世界。
自重なんていらないんじゃないかと思って来たよ。
「小夜子様?」
「ああ、ちょっといろいろ考えちゃってた。お腹も空いたし、着替えるね」
「ええ、そうして下さい」
おぼつかない体を支えてもらいながら、動きやすいワンピースに着替えさせてもらった。気分的には、お風呂に入りたいところだけど、この状態のまま一人で入るのは少し怖い。
それに体は毎日清められているようで、べとついた感じは全くなかった。
着替えが終わったところでスターが入ってきた。
「私の背中にお乗りください」
正直大人の身体で子供の体の時のように跨ぐのは厳しい。特に今はワンピースだし、横座りとかでも大丈夫だろうか。
いつもより一回り大きくなったスターの背中に乗れば、意外に安定感があって変にぐらつく感じもない。
そしてスターが食堂へと進んで行くが、走っている感じはない。どうなっているのかと下を見てみると、スターは浮遊して移動していた。
うん。なんでもありだね。
今はとにかくお腹が空いたから早く食べたい。




