15.物質の精霊 スター(星)
今日は昼過ぎからの探検ということで、『近郊の生態系を知る』ということに重きを置き、食べ物や資源になりそうなものを探すことになった。あの黄金の取り扱いは今後の相談ということで、イェータ預かりとなっている。
だから今日は、特にショーユの実を見つけたいと小夜子は張り切っていた。
それなりに山の恵みに出会うことが出来、キノコ類や葉っぱ物はそれなりに見つけることが出来たが、果物や蜂、またはメイプルシロップになる木の樹液はなかなか見つからない。
小夜子が色々なものを鑑定していると、所々で『肉』の狩りが始まっていた。丸々と太ったアヒルっぽい鳥や、うさぎに羽が生えた動物など、体は小さいが、味はいい。という鑑定が出るようなものが獲れていた。
私も頑張らなくては。そう気合を入れて小夜子も探すが、見渡す限り同じような植物ばかりだ。
それでも水の中で潰したら、炭酸になるソーダ―の実とか、煎じて飲めばお茶になる葉っぱとか、有意義なものを幾つか見つけたのは良かった。
―――が、一番欲しいショーユの実がない。
実際に小夜子が見たことがないものは、検索が掛けられない。実だけでも見ることが出来たらよかったが、すべて取り出されて液体になったものしか、何処にもなかった。
生命樹に聞いてみようかな。
そんなことを思った瞬間、小夜子は繋がったと感じた。
生命樹?と問いかけようとして、何かが違うと感じる。同じように神秘的なものを感じるし、人とは違う波動を感じるから、生命樹に近い者には違いないのだけど。
「ねえ、誰?」
そう聞いた瞬間、小夜子の体は靄に包まれ、気が付いたら生命樹の前にいた。
『守護者よ。いきなり呼んですまない』
「うん。いきなりはビックリするから、止めて。黙ってきたことになってるし」
『それは大丈夫だ。今、この時間はほぼ止まっている。一時間以内ならば、1分ほどしか戻っても時間は進んでいない』
「摩訶不思議。でもまあ、悩んでもわからないからそれはいいや。私はどうして呼ばれたの?ショーユの実の場所を教えてくれるため?そんなわけないよね?」
『この精霊は探し物が得意な精霊だ』
「え、じゃあ、ショーユの実も探してくれるってこと?」
『そうだ。物質いわば、固形のモノは全て』
「凄い!凄いね!その力があれば、みんなが飢えないで食べることが出来るよ!美味しいものが食べられるよ!」
『あなたは金や宝石とは、言わないのですね』
「ん?それらが欲しいと思うのは、物質的に裕福だからでしょ?あれば嬉しいと思うけど、それは他国との国交が開けてからでもいいでしょ。まずはみんなが笑顔になるために、体力を付けるために必要なのは、衣食住だから」
『私はその手伝いが出来ます』
「うん。お願いしてもいい?名前教えて」
『生まれたばかりで、名はありません』
「じゃあ、星で。みんなの希望になるように。」
『スター。素敵な名前ね』
「気に入ってくれて嬉しい。早速だけど一緒に来て探してくれる?」
『ショーユの実ですよね』
「そう、お願い」
「生命樹、元の場所に戻して」
『では、また会おう』
「はい。また、来ます」
元の場所に生まれたばかりの精霊、スターと共に、守護者小夜子を元の場所に戻した。
それにしても名をスターと付けたか。名は性質その者を表す。人間の運命とはすなわち星のめぐりにほかならない。運命と星を同一視した多くの言い回しも多くあり、それらは神の意志の表明としての星の出現は当然ながら重大事の予兆とされていることもある。
この世界は大きく動くことになるだろう。
『精霊が世界に誕生しました。守護者レベルが3になりました』
世界は早々に小夜子を認めた。
さて、この先も何をしてくれるだろうか。
物質の精霊は名と契約者の力量で、物質すべての創造が可能になる。今はまだ探すことしかできないだろうが、どのように育つのか。
理論的に動く幸太郎と違い、どうやら小夜子は感覚、感性で赴くままに動く傾向がありそうだ。これはルチアーノも手古摺るはずだ。
だが、時間はそんなに待ってはくれない。
それにしても…物質の精霊があのような姿をとるとは。
探し物が得意な精霊と紹介したからだろうか。
それとも、守護者の求めている姿なのか。
いづれにしても、掌中の珠を失くしたくなければ頑張るのだ、ルチアーノ。
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