世は全て事もなし
怒る幼馴染ちゃんを書いてみたかった…ただそれだけ
『世は全て事もなし』
意味としては、事件や天災もなく平穏無事に過ぎている有様
俺、宮成公平は、この言葉がとても大好きだ。
『平穏無事』大変素晴らしいことだと思わないか?
事件や天災はどんなに対策や対応をしても運が悪ければ起こるときには起こるのだ。
それが起こらないのだから、なんて素晴らしい事じゃないか。『何かの騒動』とか『何か面白いこと』とか特に求めてはいない。何も起こらない平和が一番だ。心の底からしみじみそう思えてならない。
…と、俺がなぜ突然そんな事を言いだしてるのかといえば理由は実に簡単である。今、俺の目の前に立っているこの木村龍平…ごめん言い間違えた。馬鹿村龍平…これも違う…もういいや…この馬鹿が平穏無事をまさに今ぶち壊そうとしているからだ。
「なぁコウ君。合コンしようぜ。」
メキャッ!!
「まず一つ言わせてくれ。なぜお前から俺の事を『コウ君』呼ばわりされなければならないのか。同じクラスメイトではあるが普段から遊ぶ程の仲では無いはずだ。なら先ずは名字呼びから…いやむしろ関わるのをやめてくれないか。」
先程、俺の後ろから何かを握りつぶすような音が聞こえてきたのをコイツは不思議に思わないのか。
俺は怖いもの見たさ…いや違う。せめてこの音が、なんの音なのかをみて確認する事により、少しでも俺の心に平穏を取り戻す為にと、そっと後ろを確認した。
………
確認を終えて前を向く。なぜかな?後ろを確認してから冷や汗が止まらない。むしろ見なければ良かった。
プラスチック製の筆箱を握り潰せるものだったか!?
普通割れる物だと思うのだが割れずに凹む様に潰れてませんか!?というか、一般人は手で破壊自体出来ないと思うのですが!?
俺の後ろの席に座っているのは、目の前にいるこの馬鹿の幼馴染である名前は倉敷良子。説明しなくても分かるとは思うけど、まぁぶっちゃけた話、この倉敷さんはこの馬鹿に対して昔から好意を寄せており、誰が見ても理解できるほど健気にアピールもして頑張っている。
…のだけれど、何故かこの馬鹿はそれに気づいていない『超鈍感男』なのだ。
「え〜なら今から仲良くなろう!という事でコウ君と呼ばせてもらう。俺の事は好きに呼んでくれ。」
「分かった。馬鹿と呼ばせてもらう。」
「ちょっ!いきなり馬鹿呼ばわりは酷くない!?」
「お前が好きに呼べと言っただろうが。ちなみに訂正する気はないからな。嫌なら何処かに行ってくれ。シッシッ」
手で追い払う仕草をとる。ちなみにこの馬鹿は、喋り方はあれだが、別に一般的に言われている『チャラ男』といった人種ではない。髪も黒で、授業態度も真面目、おちゃらけた面も悪い奴ではないという事だけは念の為に説明しておく。
「ちぇ〜分かったよ。馬鹿でもいいからとりあえず合コンしようぜ。」
グニャッ
なんの音!?見れば怖くなるのは分かっている。なのにまた後ろを確認
……
シャープペンシルって握ったら曲がるものでしたか!?むしろ折れる物だと思うのだけど!?
曲がるという事は熱があるのかもしれない。後ろの席にそっと『熱冷ましシート』を置いておこう
ジュ〜
急激に熱を冷ましてる時のような音が聞こえるけど気にしない…気にしないからね!!
「いや、そもそもなんで合コンとかしたいんだ?幼馴染いんだろお前」
後ろが怖いのでバカに何とか幼馴染の存在を思い出してもらう…自分的には最善のフォローのはずだ。
「はぁ?良子?アイツは妹みたいなもんだろ?そうじゃなくて女友達を作りたいんだよ。」
シャー…シャー…
フォロー失敗…いや君の幼馴染は血が繋がってませんよ!義妹でもないと思うよ!もう後ろから何かを研ぐ様な音が怖すぎるよ!
「それに。」
「それに?」
「テレビで見たポッキーゲームとかしてみたいんだ。テヘッ。」
……
おっ前!バッカじゃーの!?男がペ◯ちゃんみたいに舌だしても似合わねーよ!!
シャー…シャー…シャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャ
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
…たまらずに後ろを確認してしまう…
倉敷さんペーパーナイフは研いでも刃がつかないはずですよー!!!
…あれ?トンボがナイフの先端に止まった…
トンボ真っ二つに斬れた!!
俺は後ろを確認することをやめた…彼女には『伝説の鍛冶屋』の二つ名を送ろうと思った。
前門の陽気な馬鹿と後門の殺意の波動を出す般若に挟まれ、震えが止まらなくなってきた…ホント誰かこの状況なんとかして下さい。もう俺のHPもう0よ。
「ちなみに聞きたいんだが…何故俺に頼むんだ?」
「コウ君顔イケメンじゃん。だから合コンとかセッティングうまそうだなーと思って」
うまそうだなー…じゃねーよ!こっちはモテたことも女友達や幼馴染もいねーよ!童◯歴=年齢に決まってんだろ!…もう知らん。
「分かった…俺に任せてくれ。場所もお前以外のメンバー誰にするかも全てセッティングしてやる。」
「マジか!ありがとうコウ君!」
「ちなみに俺は最近用事が多くて出れそうに無いからそこは許してくれ。」
「…マジか…この機会にコウ君ともっと仲良くなれるかと思ったのに。用事なら仕方ないよな…ならとりあえずのお礼にジュース買ってくるぜ!」
…
意気揚々と教室を後にする馬鹿を見送りながらサラサラと取り出した白い紙に文字を書きこみ後ろに渡す
「お嬢様。こちら合コンのセッティング内容です。日時と予定場所を書いております。その右隣にはファッションホテルもありましてそこも予約して置きますので、お嬢様と馬…木村殿の二人でお好きな様に楽しまれて下さい。」
「あらっ!?悪いわね宮成君。それと彼の呼び方は馬鹿でもいいわよ。」
倉敷さんの黒い笑みと光るナイフは見なかったことにする…だって怖いから
「…お嬢様。決して殺傷事件だけは起こされぬ様。」
「?…あぁこれは違うのよ。これは今日の晩ご飯を作るために使うナイフを研いでただけなのよふふふ。」
「…さようでござったか。ではワタクシも授業の前にお花摘みに行ってくるでござる。」
そのナイフまな板斬れそうですね。なんて口が裂けても言えない。俺はとりあえずスクッと椅子から立ち上がると教室を後にした。
少し冷んやりしてそうに感じる下着を確認する為に…
『世は全て事もなし』
俺はこの言葉が大好きだ。平穏とは大半素晴らしい事である。
あの馬鹿は数日後、事件や天災etc色々ありそうではあるがそんな事知ったことではない。
「先生…早く席替えしてくれませんか。」
小さく愚痴をこぼしながらトイレに向かった。
後日、彼ら二人が婚約宣言で教室…いや学校中が大騒ぎしたのはまた別の話。