9話~思い通りにならない未来~
数秒驚いた顔で立ち尽くした後、Jはすぐ、またいつもの顔に戻ると椅子に座り直した。
「大丈夫です。僕の事は僕が一番理解しています。海人さんの話を信じましょう。逆に全て教えてください。」
「有り難うJ……。」
泣きそうになりながら、海人は今までの話を細かく話しはじめた。
タイムリープは、柊の実験を阻止する目的だった事。
過去の海人とのコンタクトは成功し、恐らく阻止は成功したはずだという事。
最初は柊は目を覚まさない状態であって、現在の様に炭化してなどなかったという事。
黙って海人の話に耳を傾けていたJは、おもむろに端末を持ってきてそれを海人に手渡した。
「概ね理解しました。少しここからはその端末にあるデータに沿って、今度は僕が説明をしましょう。」
そうJに促され、海人は端末に視線を落とした。
「では、逆に海人さんが過去に戻り柊さんの実験を阻止してから何があったのか。今の、この世界でのお話をしておきます。」
「あぁ、頼むよ……」
海人は端末の中の、いくつかのデータに目を通しはじめた。
「こちらの過去記録では、実験は直前になり海人さんのみのコールドスリープに変更になっています。
理由は、実験装置の不具合。それに伴い、実験内容も大幅に変更。海人さんのみ眠りにつき、未来目覚めたあとに、未来の女性と繁殖をするという内容に変わっていますね。」
「そうなのか、阻止は出来てるんだな。」
「恐らく海人さんが装置を壊したかと。そこはあくまでも予測ですが。」
「あぁ、間違いなく俺だろうな。」
「装置の修復は困難との見解で、本来なら実験そのものが中止になるべきですが、色々費用が投じられていたのもあって、海人さんのみコールドスリープし、未来目覚めたあと、未来に生きる女性と繁殖をするという計画に変更になっていますね。」
「じゃあなんで柊は??」
「このファイルを開いてみてください。」
Jは海人に渡した端末のファイルのひとつに、人差し指を触れて開いてみせた。
「あぁ……そんな………。」
海人はファイルの中身を読みながら、うちひしがれた。
「えぇ、そうなんです。彼女は恐らく追いかけたんです。あなたの事を。」
そのファイルには、海人が眠りについた3年後、眠りについたという柊の記録が記載されていた。
「柊さんは海人さんもご存知の様に、とても優秀な方でした。装置を自ら修復し、あなたとの実験を自分で復活し、あなたを恐らく追ったんです。」
「そんな…過去の俺、何へましてんだよ……。勘弁してくれよ……こんなのないって……。」
海人は両目に涙を浮かべながら、端末を両手で握りしめた。
「少し、休みましょう。」
Jは手を出し、端末を渡す様に促した。
「ごめん、大丈夫。それより炭化は…炭化はいつ?」
「海人さんが目覚める数日前、目覚めは、柊さんが先に執り行われました。その直後ですね。コールドスリープを解いた後、柊さんから急に煙があがり燃えるのではなく、炭化してしまったのは。」
「何故そんな事に。」
「原因がまだわからなくて調査中なんです。だから現在も、あの装置の中で埋葬も出来ず保管状態なんです。」
「その後目覚めた俺は驚いたわけだ。柊が未来にいるし、おまけに炭化してるんだもんな。そりゃ心がやられただろうな……。」
「その記憶はないですか?現在。」
「あぁ……ないかもしれない。」
「タイムリープ帰還直後にコードをはずした影響なのか、記憶の防御反応なのか、恐らく無意識層に沈んだ可能性がありますね。」
「わかった。急なフラッシュバックには気をつけておくよ。」
「はい。かなり過酷だと身構えておいて下さい。海人さんは目覚めた後に柊さんと対面して頂いたんですが、そこから本当に精神が壊れてしまっていたので……。」
「そして、新たな世界では精神の回復の一環でタイムリープをする事になった訳か……。」
「そうですね。」
「じゃあ今からまたタイムリープしたらどうだろう?ちゃんと今度は実験の失敗を柊に説明してさ、そして回避したらきっと…。」
「僕はそれはループすると思います。」
「ループ?」
「柊さんは必ず海人さん、貴方を追いかける。
だから、未来に必ずやってくる。姿がどうなったとしても。」
「やめてくれよ、それじゃ救いがないじゃないか。」
「えぇ、全く違うアプローチをしないと恐らくは無理だと思います。」
「そんなの、一体どうするんだよ?」
「実際、身体ごと移動するタイムトラベルしか策はないかもしれません。」
「実際……?身体ごと?」
海人はJをただただ、呆然と見つめ続けた。