表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『海人と柊』~女装男子~  作者: なにわしぶ子
72/74

72話~未来~


目の前に突然ひろがったスクリーンの中で、まるで過去に遡るような動きをみせた画面が、ピタリとその動きを止めた。


そこには、【1話】というサブタイトルの文字が、ただ存在感を示していた。


しぶ子は、そっとそのタイトルを右手で触れた。

すると、画面が切り替わり本文の文字達が目の前に現れた。


しぶ子はその文字を、読み始めた。


「それは27世紀の世界の物語……俺の名前は海人。日本人だよ。まぁ、その時代にはもはや国籍も意味は成してなどいないけど。俺は純粋な日本人……。」


しぶ子は、懐かしさを覚えながら、少し微笑んだ。

なんだか、遠い昔の事みたい……そう思いながら、また続きを読みはじめた。


「恋人がいて、彼女の名前は柊。俺達は、同じ研究所で知り合った仲間。俺達は科学者だったんだけどね。」


しぶ子は読むのを止めた。


全然最初の時とは感じ方が変わってる自分がいた。

つまりは、それだけの時間が自分の中でも流れたという事なのだろう。


しぶ子は右手で画面に触れると下の2話、そして3話と時間をもう一度ループするかの様に、本文を読み進めていった。


「そうそう、この時はこんな感じだった。そう、この時は。」


しぶ子は慈しむ様に、物語を最初から読み進めていたその動きを止めると、画面に触れていた右手をそっとおろした。


すると、目の前のスクリーンがゆっくりと消えていった。


しぶ子は静かに目を閉じて集中をした。


もう、桜吹雪のあの空間も海人も感じる事は出来なかった。Jもメイもホワイトも、感じる事は出来なかった。


しぶ子は右手を自分の胸に当てると、更に集中をした。


とても、とても静かだった。


そこにはただ、【無】があるだけだった。


今まで【今】に追い付く事を目指すかの様に、話を聞きながらこの物語を刻んできた。


Jからは、あなたにしか構築できないゴールを見せて下さいと言われたっけ。

メイからは、お前には出来ないと言われたら癪でしょ?って言われたっけ。


海人からは、俺達の魂の答えを探そうって言われたっけ。答えはいつもシンプルだって、そう言われたっけ。


この物語全てが実はホワイトの策略で、私がどんな答えを出すのかを試されているのかもしれないけど。


実は用意周到に上層部から用意された、私と海人の魂の何かしらのレッスンで、最終試験なのかもしれないけど。


私はどんな答えを出すのが、一体正解なのだろう。

いや、そもそも正解を探す事がもはや、意味がないのかもしれない。


わからない、全然わからない……

しぶ子は、色々を更に思い巡らせ続けた。


そんなしぶ子の生きる時間は、しぶ子を待ってくれる事は無く規則的に流れ、2020年2月7日を気づけば迎えていた。


わからない、全然わからない………

しぶ子は、ただ【無】の中に答えを、未来の扉を開く鍵を求め続けた。


わからない、全然わからない……

でもきっと【立ち止まる】だけは正解じゃないはず。




そしてしぶ子はおもむろに、文字を打ち始めた。











その日-



彼は、ゆっくりと目を覚ました。



「ここは?」



目の前にひろがる、クリーム色の天井。



少し眼球だけを動かして、周囲を見渡し、


ここが何処かを彼は確かめた。



見た事のない機器が並び、ここは誰かの


研究室の様だった。



「光が……。」



視線を移した先に、(くらむ)様な眩しさを感じて


彼は暫く目が慣れるのを待った。



「庭?」



目が慣れてきて、改めて光が溢れる先を見ると


大きな透明な窓で、室内とを分け隔てたその先に、沢山の緑が溢れている、中庭の様な空間があった。



「綺麗だな……。」



彼はそう呟くと、またゆっくりと目を閉じた。



ここは何処だろう?


思い出せない。俺は何故今眠っているのだろう。


この誰かの部屋なのか、研究所かもわからない


中庭のある空間で。




実験………


眠り………




俺は、何か大切な事を忘れている気がする




「柊…………。」




彼は目を見開いた。


起き上がろうとしても、体が言う事をきかない。




起きないと……。



彼は、全身に力を込めた。


息をきらせながら、彼は起き上がった。



頭がくらくらする。


そう………俺は実験で眠りについたはず。



彼女とふたりで…………



彼は横たわっていた装置から転がり落ちた。


痛みが生きている実感と、現在を夢でないと認識させた。



よろよろと立ち上がった彼は


周囲を見渡した。



出入口はどこ……


柊がいる場所に早く行かないと…



彼はゆっくりと右足を前に出した。


彼のこわばった筋肉がそれに耐えきれず、彼は転んだ。



それでも起き上がると、彼は這うように


扉へと進んだ。




すると突然、扉が機械音と共に左右に開いたかと思うと、ひとりの童顔な白衣の男性が入ってきた。



「何をしてるんですか!」 



その男性は速やかに彼を抱き起こすと、元の場所に横たわらせ、すぐに注射器を取り出すと彼の右手に注入した。



「これですぐ動ける様になりますから。少し我慢してくださいね。」



「あんたは?」



「僕はみんなからJって呼ばれています。」



「J……。」



「あなたが目覚めて、本当に良かった。」


Jと言う男性は、嬉しそうに微笑んだ。



「柊は??柊は何処にいるの?」


彼は、Jに尋ねた。


Jはその質問に答える事はせず、少し間を置いたあと


「車椅子を用意しますから、少し中庭に行きませんか。」


そう、誘った。


彼がコクリと頷いたのを確認してから、Jは彼を用意した車椅子に抱きかかえて座らせると、ゆっくり押しながら中庭へと向かった。


「空気が美味しくて、気持ちいいね。」


彼は大きく深呼吸をすると、眩しい太陽の陽射しを体中で受け止めた。


「僕はあなたの目覚め担当です。柊さんの担当はメイという女性です。また、後で紹介しますね。」


彼は分かったという様に頷くと、ふと左に視線を移した。そこには、大きな桜の樹が太陽の陽射しを浴びて咲き誇っていた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ