7話~変わった未来~
頭がくらくらする
未来へ引き戻される
吸引される様な力を
身体全体に感じながら
海人は必死で耐えた
急に視界が明るくなった
とても静かな……
静寂
◇
ピコンピコンピコン…………
なんだろうこの音……
そう思いながら、
海人はゆっくりと目を開いた。
「お帰りなさい、海人さん。過去への旅はどうでしたか?」
「J……俺の事、わかるのか………?」
「勿論です。タイムリープの旅が気持ちを回復してくれているといいんですけど……。」
「ごめん……そんなに落ち込んでみえる?でも、ダメージはやはりあるかな……。」
「とりあえず、またいつもの薬を打っておきますね。」
「いつもの?いや、よくわかんないけど、そんなのはいいよ。それより柊は?柊はいるのか?」
「柊は……?いる……?」
「あ、いやごめん……俺、少し混乱してるな。柊の話をしても、Jはわからないって事は、未来が変わってるのか……えっと…。
この場合なんて聞いたらいいんだろ……」
すると、Jが言葉を遮った。
「やはりこのタイムリープ実験はするべきじゃありませんでしたね。科学者が感情に流されるべきではなかった。」
「いやそれは大丈夫なんだけどさ。それよりJ、質問に答えてくれ。柊を知っているかどうか。」
「とりあえず落ち着いて下さい。安定剤を打ちましょう。腕を出して下さい。」
Jは手慣れた動作で、注射器に薬液のカートリッジを装填した。
「いやそんなのはいらないって。だからさJ、まず柊って女性を知ってるか、教えてほしいんだ。」
「海人さん……落ち着きましょう。パニック状態は、薬ですぐ収まりますから。」
「さっきから何だよそれ……もういい、自分の目で確かめてくる。」
海人は、むくりと起き上がり、身体中につけられたコードを手で無造作にとりはずすと、立ち上がった。
「海人さん、まだそのコードはつけていて頂かないと!!」
「うるさい!どけよ!!」
静止するJを振り払い、海人は、自分の記憶の中の、柊が眠っていた部屋へと走り出した。
未来が変わっていたら
そこに柊はもういないはず
廊下の角を曲がると、部屋の前には、メイがいた。
「海人、あなたまだタイムリーブ中じゃ……。」
どこからみても、興奮している海人を見て、心配そうに駆け寄ってきた。
「メイも俺がわかるんだね?なら、柊は?柊はわかる?ねぇメイ答えてよ。お願いだから答えて!」
海人がメイの両腕を掴みながら、食い下がる様に尋ねていると
走ってやってきたJが、やっと追い付いた。
「J、海人を早く連れ戻して。
やはり精神が破壊をはじめてるみたい。」
Jはコクリと頷くと、海人の腕を掴んだ。
「海人さん……早く部屋に戻り薬を……。」
「なんだよさっきから精神とか薬とか!俺はいたって正気だって!! 部屋の中だけ見たら、部屋に戻る!だから、部屋をみせてくれよ!!」
メイとJは、顔を数秒見合わせた。
「わかったわ…それであなたが落ち着くなら。」
メイはそう言うと、意識を向けて部屋の扉を開いた。
クリーム色の壁
沢山の生きた花々
そして、その中央には銀色の装置らしきもの
以前と変わらない風景がそこにあった。
一つ違うのは、その装置らしき物には、大きな白い布がかけられている事だけ。
「まさか………。」
海人は絶望の波に襲われながら、ゆっくりと近づいていった。
そして、装置の傍まで辿り着くと、その布に右手を伸ばし触れようとした。
「ダメよ海人!!!」
メイが大声で遮った。
「なんで……なんで……ダメなんだよ……。」
今にも崩れそうな顔で、振り返った海人は、メイを凝視した。
「貴方はもうみない方がいいわ、柊の炭化した姿なんて。」
「もう??炭化……?柊が炭化………?」
その瞬間、海人はその場で意識を失うと崩れ落ちる様に倒れた。