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『海人と柊』~女装男子~  作者: なにわしぶ子
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68話~海人~



「J!!早く来てちょうだい!海人の様子が!」


メイに呼ばれたJは、慌てて海人の傍に赴いた。

すると、メラメラと細胞分裂を繰り返し、波打っていた海人の身体の表面が、まるで時計の針が止まったかの様に静かにその動きを止めていた。


「バイタルは!?」


「人間としてのバイタルは安定してるわ。樹木化の過程が終わったより、樹木化するのが止まったのかも?」


メイとJは、海人の変化をただただ見守った。


「海人さんが、人に戻っていく………。」


Jが、驚きの声をあげた。


茶色に変色した皮膚の色は、どんどん薄まっていき、崩れた姿はゆっくりと、形状記憶物質が元の姿を思い出していく様に変化をしていった。


「J!見て!扉が……!」


メイが、21世紀と繋がっている扉を指差した。

Jが驚いて振り向くと、自分達が何度となくしぶ子の元を訪れる為に通った扉が消え始めていた。


Jは走って駆け寄ると、その扉を開こうと右手を伸ばした。

でもJの右手はドアのノブをスルリとすり抜けると、身体はバランスを崩し、そのまま前のめりに倒れこんでしまった。


「し、しぶ子さんは!?」


Jは慌てて起き上がるとスクリーンを開き、しぶ子の様子を見ようとした。スクリーンは開いたものの、真っ黒な画面がひろがるばかりだった。


「そんな……、ホワイトさん!説明をしてください!」


Jは空間に向かって、気づけば叫んでいた。

しかし、返事は無かった。


メイは、それを見ると立ち上がり、今度は自分が通ってきた、未来に通じる扉のノブを掴むと開こうと試みた。

でも、やはり上層部から鍵がかけられているらしく、そのドアはガチャガチャと虚しい音を立てるだけで、ピクリとも動かなかった。


「やはり、無理みたいね。」


「こんなの、しぶ子さんに何かあったとしか思えない!早く行ってあげないと!」


「Jとりあえず、落ちついて!」


メイは慌てふためくJを叱責すると、今の状況を冷静に分析し始めた。


「21世紀との扉、すなわちパイプが閉じられた。しぶ子に何かしらの変化があったに違いないわ。

その影響で、おそらく海人にも変化が起きはじめた。そして、私たちは今、完全に八方塞がりで身動きが取れない。つまりはJ……私達には成す術はないって事よ。海人を見守りながら、ホワイトの連絡を待ちましょう?」


Jは暫く、茫然自失な状態で空を見つめたあと、静かに答えた。


「メイの言う通り、ホワイトさんの連絡を、待つしかないのかもしれないね。」


ふたりは、海人の傍に腰かけた。

その間も、海人の姿はどんどん変化をしていった。







「風とか桜吹雪とか、もうお腹いっぱいすぎです!」


しぶ子は右腕で顔を覆いながら、歌声のする方に向かってゆっくりと歩を進めていた。


「海人!!!どこ!!!」


しぶ子は大きな声で叫んだ。




~さくらさくら~


~弥生の空は~


~見渡す限り~



歌声は、すぐ傍で聞こえてきている。

近くに海人がいるはず。



「海人!!!返事をして!!」


しぶ子は、叫んだ。



~霞か雲か~


~匂いぞ出ずる~



すると、しぶ子の足に何かがあたった。

しぶ子はその反動で、大きく躓くとその場に転んだ。


「もう、何なのよ!!」


しぶ子が文句を言いながら起き上がろうとすると、

目の前に見覚えのある、手のひらが差し出されていた。


歌声が気づけば止んでいた。


しぶ子は、泣き顔になりながらその手の主である

人をゆっくりと見上げた。


「本当、俺の前世って扱いが難しいって。」


そこには、懐かしい笑顔があった。


子供の様にわんわんと泣き出したしぶ子に、海人は笑顔を向けてこう言った。


「さぁしぶ子、一緒に答えを探しにいこう?俺達、魂の答えをさ。」


「私達の……魂の答え?」


「そうだよ。」


「何よそれ、いつも本当無茶苦茶すぎるんだから。

本当に海人こそ訳がわからない!!」


しぶ子は、久しぶりに会えた海人との会話が嬉しくて、泣きながら文句を言った。


すると、海人は桜吹雪に包まれながら笑顔で言い放った。





「答えはいつもシンプルなんだ。」






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