65話~柊~
「しぶ子さんを煽るだけ煽って、ただ僕は追い詰めているだけかもしれない。」
Jは、横たわる海人の傍らでそう呟いた。
メイはJの右肩に優しく自分の左手を置いた。
「海人と前世であるしぶ子の魂は同じよ。海人の変化はしぶ子にも必ず影響を与える事になるわ。だからこそ、知らないより知っていた方がいい。ホワイトの言う通り、しぶ子に委ねましょう。」
物語は毎日刻まれ、確実に【今】に近づいてきていた。
ホワイトさんの言う【言霊のちから】
その意味を正直、理解が出来てはいなかった。
でも、海人さんから引き継いで進めてきたこの一連の流れが、何かしらの変化を生むと信じたい。
Jは、そう思いながら海人を見つめ続けた。
海人の身体の表面は、全てこげ茶色に変色し、何かへ変わる細胞分裂を繰り返しているかの様にメラメラと波打ち始め、顔のパーツはもはや崩れ落ち、それも無くなるのは、時間の問題な様相を呈していた。
「ただ、変わっていく姿を見守るしか出来ないなんて。」
Jが自分の無力さを感じながらそう呟くと、背後に気配を感じた。
『そんな負の感情を撒き散らす暇があるなら、自分がやれる事をやるといい。』
「ホワイト、あなた本当に神出鬼没ね。まぁ言葉通りなんだろうけど。」
メイが驚きながら、ホワイトを見つめた。
『ふたりで、しぶ子を24時間観察していて欲しい。何かおかしな所があれば、私にすぐに伝えて欲しい。』
「観察ですか?それは構わないですけど、何かあったんですか?」
『見ていればわかる。』
そう言うと、ホワイトは立ち去ろうとした。
「待って下さい!ホワイトさんは一体何処へ?」
『しぶ子の魂の傍に。』
振り返ったホワイトは優しく微笑みながらそう語ると、その場から消え去った。
暫く呆然としていたJとメイだったが、スクリーンを
ひろげ、早速しぶ子の観察をはじめた。
◇
2020年1月26日
「あぁ、ゴールがわからん!!!!」
しぶ子は物語を刻みながら、部屋で絶叫をした。
今更だけど、こんな全体像見えないまま、よくここまで書いてきたわ、そんな自分が怖いわ。
とりあえずJに煽られた手前、あの結末を越える結末じゃないとなぁ。本当のゴールとかさぁそんなのあるの?誰か教えて?
そんな事をぶつくさ言いながら、気分転換に友人とチャットでやり取りをしたり、ごく普通な日常生活を過ごしていた。
なんだ……あれは………。
いきなり、しぶ子にヴィジョンがなだれ込んできた。
それは、障子紙に人差し指で穴を開けて
左目で向こう側を自分が覗きこむ様な景色だった。
よくわからないまま、しぶ子は集中して
目をこらした。
誰かいる……?
しぶ子が覗き穴から覗きこんだ視線の先には
黒色の長い髪の毛を持つ女性がいた。
あれ、まさか柊じゃない?
しぶ子は、慌ててさらに覗き穴を覗きこんだ。
これ、あちら側にいけないかな。こんな小さな穴じゃ
入れないか。参ったな。
す、すみませーん!
そ、そこの人ー、すみませーん!
自分でもこれは如何なものかと思いながらしぶ子は叫んだ。
いや、アニメや小説ならもっと劇的な展開で、あなたをずっと探していたのよ!みたいな台詞吐いちゃう所なんだろうけど、違ったら嫌だしが、勝ってしまう自分がいた。
す、すみませーん!こっちこっち!
わかりませんか??声聞こえませんかー?
黒髪の女性は一向に気づく様子はない。
しぶ子なりに、海人やJから聞いてきた物語の中で、色々を考えてきたつもりだった。何故いつも柊には、目覚めなかったり肉体に異変が起きるのか。
それはきっと、100年のコールドスリープの眠りの時に、肉体だけが100年先へ移動をし、魂はさながら幽体離脱の様に置いてけぼりになったのではないか。
理屈はいつもシンプルなのかもしれない。
過去出会ってきた、魂たちから教わってきた事。
迷子になった魂は、必ず気づいてくれる存在を探し求める。
物語を知る事で、柊を求める周波数に合わせている自分と、気づいて欲しいと求めている柊の周波数は必ず引き寄せられるはず。
そして、その周波数が重なれば必ず何かが変わるはず。
「つまりは、気づいたらこっちのものって事ね!!」
しぶ子はそう言うと大きく息を吸った。
そして、全身全霊を込めて叫んだ。
「柊ぃいいいい!!!!!!!!」
黒髪の女性が此方に気づき振り返った。
すると、いきなり風神が舞い降りたかの様な
突風が吹き荒れ、その空間を飲み込んだ。




