6話~タイムリープ~
海人は電気が走った様に、ピクリと身体を動かした。
ここは・・どこだ・・・・・・・。
そこは、見覚えのある部屋の一室。
壁には、プロジェクターから、映画の映像が流れている。
横にゆっくりと視線を移すと、そこには映画をみつめる柊が座っていた。
「柊!!!!!」
海人はたまらず、柊を抱きしめた。
「え?どうしたの??ホラーはやっぱりダメだった?」
柊が海人に抱きしめられながら、笑って海人の頭を撫でた。
「あ、いや…俺どうしたんだろう。なんか身体が勝手に動いて。」
100年前の海人は、唐突な自分の行動に面食らいながら、恥ずかしくなって、柊から離れると頭を掻いた。すると、100年前の海人の脳内に、突然声が聞こえてきた。
「(ごめん、つい嬉しくて。意識乗っ取っちゃったみたいだ。以後気を付ける。海人、俺の声聞こえる?俺は未来からきたお前なんだけど)」
100年前の海人は、慌てて周囲を見渡した。
「どうかしたの?海人」
異変に気付いた柊が声をかけた。
「いや、何か声が聞こえた気がしたんだけど空耳かな。」
「検査の連続で、全く休み取れなかったし疲れてるのかも。映画止めて少し眠る?」
「大丈夫。もっとこれから休みなんて取れないだろうし折角のオフだ。今日は二人でゆっくり過ごそう。」
「そうね。そうしましょう。」
2人は微笑みあうと、また映画を見始めた。
「(あんたは誰?未来って何?)」
柊が映画を見入ってるのを確認してから、100年前の海人が、意識の中の未来の自分だという存在に向かって語り掛けた。
「(信じてくれないかもだけど、俺は実験後の未来からきたお前自身なんだ。)」
「(信じられないな。まぁとりあえず話は聞くよ?)」
「(ありがとう。時間がないし結論から話す。実験は失敗。俺だけが目を覚まし、柊は目を覚まさない。)」
「(は?何言ってんだよ。さては、あんた幽霊か何かなんだろ?いたずらはよくないよ。俺が成仏させてやるから、また後できなよ。)」
「(だから俺はそんな存在じゃないんだ。時間がないんだ。お願いだから話だけでも聞いてくれないか。)」
「(・・・・・。わかった、続けて・・。)」
「(ありがとう・・。実験は失敗する。だから柊の実験参加を止めてほしい。」)」
「(だから来たの?それを止める為に?)」
「(お願いだ・・。もうそれしか方法がないんだよ。)」
「(そんな・・俺、今日今からプロポーズする所なんだって。)」
「(勿論知ってる。俺が過去にそれをしたんだから。)」
「(そんなの嫌だよ。俺達結婚するんだ、幸せになるんだって。)」
「(その未来がこのままだとないんだって!!)」
「(いやあれでしょ?やっぱりあんた幽霊なんでしょ?口調とかも似せてきてさ。手込みすぎて笑っちゃう。嫌がらせすると後が怖いよ?)」
「(そう思うのも無理ないけど、お願いだから信じてくれよ。)」
「(俺は信じない。さっさと消えな。)」
「(待ってくれ!!お前が今日ポケットの中に準備しているマリッジリング。そこには眠る日にちとお互いのイニシャルを刻印してるよな?)」
「(何でそれ知ってるんだよ。そうだよ、今日プロポーズして俺達は今日結婚するんだ。そして100年の眠りにつく。)」
「(柊はプロポーズを勿論受けてくれる。でも、指輪は受け取らない。結婚するのは未来のその時にしましょうって言ってくる。
嘘だと思うなら今すぐ、聞いてみるといい。)」
海人は、下唇を噛み締めながら、ポケットの中に入れてきた指輪のケースを右手で固く握りしめた。
海人は、映画の再生をおもむろに止めた。
「海人どうしたの??」
柊は、少し驚いて海人の顔を覗き込んできた。
「柊、任務に不安はない?」
「ないわ。」
「即答なんだな。」
「どうしたの?少し変よ?それとも海人は不安なの?」
「はは・・、そうかもしれないな。」
海人は、両手を目の前で固く握りしめて床に視線を落とした。
「大丈夫、ひとりじゃないわ。私たちはずっと一緒よ?」
柊は満面の笑顔で、海人の両手を自分の両手で重ねて、握りしめながらそう言った。
「あのさ、えっと。大事な話がある。」
「何?」
「俺と・・・俺と、結婚してください。」
海人は柊の目をしっかり見てプロポーズをした。
すると、その瞬間柊が両手を拡げて海人に飛びついてきた。
思わず海人は体制を崩し、二人は抱き合ったまま床に倒れこんだ。
「柊、お前無茶苦茶すぎ。」
海人は、仰向けの体制で覆いかぶさってる柊の重みを感じながら天井を見上げた。
「じゃあ今日から私達婚約中ね。今から100年後、目覚めた時に私達結婚しましょう?
なんだか海人のお陰で楽しみになってきたかも!」
海人はゆっくりと柊を抱き起こし、そして、向き合って座った。
ポケットの中から指輪のケースを取り出し、2つのリングを見せてこう言った。
「いや、柊。今ここで結婚しよう?この指輪に誓って俺はずっとお前を守るから。」
「ありがとう。嫌なわけじゃないの、むしろとても嬉しい。でも、結婚は100年後にしましょう?だからこれは海人が持っていて?そして、目覚めてから指輪の交換をしましょう?ね?」
「駄目だって。今すぐさぁ指出して。」
「今交換したら、海人起きないかもしれないじゃない!」
笑顔だった柊が突然強い口調で言った。
「絶対に目覚めるって・・・。」
「私は未来の約束が欲しい。だからこれは保険。だから絶対目覚めて私を迎えにきて。」
柊が懇願する目で問いかけてきた瞬間、海人は柊を、強く抱きしめていた。
「わかった…。約束する。」
海人はそう言いながら、絶望感でいっぱいだった。
「(勘弁してくれよ・・。
そんな予知はいらないんだって・・。)」
「(予知じゃないんだ。いや、予知でもこの際
何でもいい。俺は未来からきたお前。お願いだから信じて欲しい。柊を助けてくれよ・・。
もうあと30分でタイムリミットが来てしまう。俺はまた未来へ戻らないといけないんだ。)」
未来の海人は、焦りながらまた声を意識の中でかけはじめた。
「(わかった・・・。事細かく詳細を今から聞かせて。そして俺に任せて。俺が絶対に何とかしてみせるから。」)」
「(有難う…本当に有難う…。)」
それから、未来の海人は過去の海人に細かく話を伝えた。
自分はタイムリープでやってきた事。
柊のみ実験の参加を止めてほしいという事。
自分自身はこの実験に参加するのが条件だという事。その他、Jやメイ、未来の様子など、時間ギリギリまで詳細に語って聞かせた。
「(もう時間だ‥。俺は未来へ戻らないといけない。)」
「(大丈夫だから安心して。どんな手を使っても
未来を変えるって約束する。)」
「(わかった・・方法とか色々は全て任せる。
有難う過去の俺。安心して戻るよ・・・。)」
すると、目の前の空間が歪みはじめた。
陽炎がゆらゆらと揺らめく様に視界がぼけて
柊の顔がわからなくなっていく。
あぁ・・・これで柊の笑顔を見るのは最後なんだな。
いや、逆に最後に見る事が出来て良かったんだ。
海人は、自分の記憶に焼き付ける様に
柊の姿を、追い続けた。
「(すっとずっと大好きだよ‥‥。)」
そう思うと同時に、海人の意識は吸引される力の方向へと、引っ張られていった。