5話~もう一度過去へ~
数日後、上の許可がおりたとメイから連絡が届いた。
「なかなかやり手だね、メイって。」
そう、海人がJに言うと
「スーパーウーマンですからね。」
と、Jはおどけてみせた。
「何時代の言い回し使ってんだよ。まぁ確かに、スーパーウーマンだよな。」
2人は顔を見あわせ、笑いあった。
早速、Jから実験プランの説明があった。
「今回は、タイムリープ実験。いわゆる意識だけの過去移動になります。まず海人さんには、装置に入って頂きます。タイムトラベルより、かなり弱い磁場を発生させて海人さんの意識と肉体の分離をします。そして、意識のみが過去へ遡ります。
理論上では、過去の海人さんの肉体にかぶさる感じで接触ができるはずです。問題は。。」
「問題は?」
「過去の海人さんに、今の海人さんの意識が完全に乗っ取ってしまうと、海人さんが此方へ帰ってこれなくなる恐れがある事です。
なので、あくまでスピリチュアル的な言語でいう憑依状態であってほしいという事です。
海人さんが柊さんみたいに、目覚めなくなると意味がありませんからね。」
「わかった。やってみるよ。」
「このやり方だと、この柊さんの今の状態が【宿命】でなければ未来が変わるはずです。」
「【運命】なら変わり、未来の変化は上書きされる?」
「はい、万が一パラレルワールドが発生したとしても、最小限でおさまるはずです。あくまで、理論上ですが」
「パラレルワールド増やすとやばいのかな?」
「ええ、現在は過去のタイムトラベルの後遺症というか…。遭難の影響もあってかなり増えてるらしく、次元管理の方からストップがかかっているんですよ。だからかなり刑がかなり重いんです。」
「次元管理?まぁ難しい事はどうでもいいや。俺はまたあの日に戻って、柊の実験参加を止める、ただそれだけだ。」
「はい、海人さんは必ず実験には参加してください。こちらに戻ってきて、データを残すが上の条件です。タイムリープなので、戻ってきていただかないと、大変な事になりますから。」
「わかってる。柊が過去で生きて、そこで幸せになってくれたら俺はそれでいい。」
Jは少し目を伏せて沈黙してから、ゆっくりと話を続けた。
「あと・・・・。
海人さんをこちらに戻した時に、今の記憶を持つ僕がもういないはずなので、面倒でも色々もう一度説明してもらわなければいけません。」
「あ・・そうか・・そうだよな・・。」
「海人さんから説明を受けたら、僕ならまずそれを受け入れるはずだと思うんですが、一応保険というか、これを覚えていてもらっていいですか?」
「何?」
すると、Jは自分のフルネームを海人に語った。
「な、長すぎだろそれ・・・。」
海人は苦笑しながら、何度も復唱して、自分の記憶に叩きこんだ。
「僕、実はこの長い名前がコンプレックスで、ここでは本名を一切明かした事がないんです。
だから、もしそれを知っていたら、必ずあなたの話を信じるはずです。」
「わかった。ありがとう。」
「はじめての実験になります。正直、安全性からリスクから全くわかりません。
でも、僕の全ては注ぐと約束します。では、準備をはじめます。暫くまっていてください。」
Jはそういって、慌ただしく準備の為に
外へと出て行った。
◇
「ここに?横たわるの?」
海人はメイに尋ねた。
「また凍らすのって思った?同じ装置に見えるけど、これは寒くないから、どうぞ安心して横たわって。」
「俺には100年眠り続けた、あの銀色の棺にしか
見えないけど、またこの装置に入る事になるとわね。」
そう言いながら、ゆっくりと横たわった。確かに寒くはない。
Jが淡々と色々なコードを海人の体につけはじめた。
「気分はどうです?」
「思ってたより、穏やかかな。」
「それは良かった。」
そう言って微笑むと、Jはコードをつけ終わり、機器に色々入力を始めた。
「もう少し未来なら……助かる方法あるのかな。」
目覚めた時に最初に見た天井を眺めながら、そんな戯言を海人は吐いた。
「それは僕も考えました。もう一度お二人をコールドスリープさせるって事ですよね?ただ………。」
「未来にその方法がないかもしれない?」
「はい。タイムトラベルは現時点から過去に飛び元に戻る技術は既に確立されているんですが、
現時点から未来に飛ぶ方法は確立されていないので、確認が出来ないだけに、僕は反対ですね。」
「まぁ俺達が、それを模索する最中の実験体だったわけだしね。」
「そうですね。」
「今わかる範囲で足掻いた方が得策だよな。」
「正直、どれが得策かはわからないです。
ただ、足掻く選択を今はしたいと思っています。」
「Jに委ねるよ。」
「はい。任せてください。」
Jは入力を終えたのか、海人に近寄り自分の首にかけていた、クロスのネックレスをはずし海人の手に握らせた。
「何これ?お守り?」
「僕、クリスチャンなんで。」
「ありがとう、J。」
笑顔の目の奥にある、Jの複雑な心をみて、海人は声に詰まった。
「では今からタイムリープ実験に移ります。
着地点は、海人さんが柊さんにプロポーズをした
時刻の数分前。滞在時間は1時間です。
その間に、柊さんを説得してください。そして、実験を回避してください。
どんな展開になっても、1時間後、海人さんの意識はこちらの世界での1時間後に強制的に戻します。
いいですね?」
「わかった。託すよ。」
海人は天井を見つめながら、静かに答えた。
「あと……。」
「あと?」
「万が一の時、非常時な事が起きたら。。例えば、遭難とかそんな緊急事態になった時の事なんですけど。」
「あぁ、あるかもしれないよな。」
「例えば、違うポイントに遭難し誰か自分でない人間の意識に入りこんだり。
確率的には、ほぼないんですが、これだけはわからないので・・。」
「その際は、もう諦めるさ。」
「いえ、その際は、その時代の大きな遺跡に行ってください。」
「遺跡?」
「古墳、ピラミッド。地上絵。スフィンクス。星レベルで保護しているそんな所に、いわゆる
タイムトラベルの機関というかそういう施設がシークレットに造られてあるんです。いわゆる、トラベル時の駅みたいなものですね。」
「そこまでは、さすがに知らなかったな……。」
「この話は、時空移動する人間には不必要ですから。移動させる側のお話ですし、海人さんがご存知ないのは無理もありません。」
「それって、誰が作ったわけ?」
「僕も詳しくは知らないんですが、元々あったものも中にはあるみたいですね。
手放されたその施設を、少し人間が改良したりしたとは聞いています。」
「え、それってどういう・・。」
「ここからは、守秘義務があるので。」
「わ、わかったよ・・でもさ、俺にも、それって認識できるわけ?」
「過去の人々、普通の人間には、目視出来ない作りになっていますが、チップが埋め込まれてる人間には目視できますから、安心してください。
海人さんは既に、最新式のチップを右腕に埋めてますが、実質それは意識の中に埋まっているので
肉体を離れていても、恐らくそれは生きてくるはずです。」
「もう、俺は100年前の俺じゃないんだな。。」
その言葉を聞き、Jは少し辛そうに顔を歪めた。それを察知した海人は、話題を変える様に質問を続けた。
「でもさJ・・万が一?そんな事が起きたとしてもだよ?遺跡が近くにあるとは限らないんじゃないの?」
「いえ・・誤ってタイムスリップしたとしても、
ポイントとポイントの間でしか、移動は出来ないはずなので
概ねその、近辺にしか着地出来ないはずです。
恐らくは探せば近くに必ず共鳴する場所があるかと。
あくまで僕の知識上での話なんですが。」
「わかった。覚えておくよ。」
「では、1時間後に会いましょう。」
「あぁ、行ってくる。」
海人は、Jから渡されたクロスを両手で握りしめ静かに目を閉じた。
Jは、海人が目を瞑るのを確認してから
スイッチを静かに押した。