40話~ホワイト~
「ここは……。」
目覚めた海人はカプセルの中にいた。体には沢山の管がつけられていて、体を動かそうとしても全く自由にならなかった。
顔を横に向けると、Jが弥生時代の服装に身を包んだまま別のカプセルに入り、まだ意識を失っているようだった。
ここは飛鳥時代の古墳のはず。
何でこんな俺の時代、いや、なんならその先を行くシステムがあるんだ?実はまさか、また遭難??
そんな事を考えていると
『そうじゃない。ここは飛鳥時代の古墳の内部だ、海人。』
いきなり脳内に男性の声が響きわたった。
「誰だよあんた。」
海人は突然の事に身構えながら、その謎の声に反応をした。
『今はお前たちのメンテナンスをしている。それが終わればカプセルから出そう。だからもう少し眠っていればいい。』
命令口調のその存在に疑心暗鬼になりつつ、成す術もない海人は仕方なく、カプセルから出されるまで待つ事にした。
何時間が経っただろうか。
いきなり海人のカプセルの扉が開き、沢山ついていた管が自動で外されると、海人は動けるようになっていた。
恐る恐る起き上がり、カプセルの外へと出ると、丁度同じく横のカプセルの中にいたJが出てくる所だった。
「海人さん……無事で良かった。。僕達は一体……??」
顔をしかめ、意識を元に戻すかの様に頭を少し振った後、Jは室内をキョロキョロと見回した。
研究所のようなその空間に、弥生時代の服装に身を包んだJと、白いドレスを着てメイクも施した海人はあまりにもアンバランスだった。
すると、奥にあった扉が開くと白髪で長髪、長い髭を蓄え、真っ白い聖職者のような服装に身を包んだ老人が現れた。
『私はホワイト。やっとお前達を捕獲出来て安心している。』
「捕獲って……人の事を獣みたいに。」
海人が少しキレ気味に言うと、ホワイトは我関せずな態度で、指をパチンと鳴らした。
すると、室内の壁面、天井、床に、Jと海人がマシンで弥生時代に遭難をしてから起きた、あらゆる場面の映像が流れはじめた。
Jと海人は、驚きながら四方八方を見回した。
「ホワイトさんは、上層部の方ですか?いわゆる時空管理、タイムパトロール的な。タブーを起こした僕達を追って、わざと泳がしながら、捕獲のタイミングを伺っていたと?」
Jが、質問を投げ掛けた。
『さすがに、お前は頭がいい。』
ホワイトがまた、指をパチンと鳴らした。
すると、映像が一瞬で消えると、カプセルもその場から消えて、今度は銀色の四角い見覚えのある装置が現れた。
「これ……コールドスリープやタイムリープした時に入った装置……何故これがここに?」
海人は、納得がいかない顔でホワイトを見つめた。
『これらを使うといい。』
さらに、ホワイトが指を鳴らすと、室内にJの研究室そのままが再現されたかの様に現れた。
「ここは、飛鳥時代なんですよね??まるで、夢の中にいるようだ。」
さすがのJもその光景に唖然としながら、慣れ親しんだ自分のテリトリーの空気を肌で感じていた。
「そのまますぎて錯覚を起こしそうです。上層部はシークレットな組織で、ある程度の想像はしていましたが、僕の想像をはるかに越える。」
『もっとさらに想像を越える事になるだろう。そして、そこには必ず秩序がある。』
「秩序?」
『生まれたらいつか死ぬという単純なもの。逆行してしまったら存在は消滅してしまうのだよ。』
「僕達は現在、完全に本来のルートからはずれているんですね。このままだと存在自体が消滅すると?」
ふたりのやり取りを聞いていた海人が
「そんな……万が一そうなっても、生まれ変わればいいだけなんじゃないの?」
と、輪廻転生の話題を持ち出した。
すると、ホワイトがゆっくりと自分の右手を振り上げた。
すると、Jの首にかかっていた綺麗な玉を繋げて作られたネックレス型の装飾品が、Jの首からゆっくりと浮かび上かる様に離れると宙に浮いた。
そして、その玉の一粒をホワイトが摘まむと、引きちぎる様に力を加えた。
糸の輪から離れた玉によって、バラバラと他の玉が床に転がり落ちた。
「僕たちは今、諸刃の剣の状態だと。ひとつが狂うと得る以上のダメージが自分自身に降りかかると。」
Jは床に転がり落ちた玉を、ひとつひとつひろいあげながら呟いた。
『あとはお前たち次第。』
そう告げると、ホワイトは外へと出ていってしまった。
Jはまず、色々室内に現れた機器を触りはじめた。
「怖い程に、僕の研究室そのままですね。
ただ、この端末を使って見た外の世界は、やはり過去の飛鳥時代なようです。」
「あのホワイトってじいさん大丈夫なの?威圧的だしさ。上層部ならまるっと色々解決してくれたら話が早いのに、面白がってるようにしか思えない。」
「僕も上層部との接触は初めてなので何ともですが……全体の生命のそれぞれの分岐や道筋を管理しているらしいので、逆にあまり直接的には関与しないと聞いた事があります。遠回しにコントロールするというか。そのコントロールすら気づかせない様に動くのが任務だとか。」
「試すのか。それってもはや神じゃないの?」
「そうですね、そして全ての出来事がそもそも神の暇潰しなのかも。」
「この世自体がマルチエンディングシステムのゲームって事か。
じゃあ期待に応えないとね。退屈しない世界を構築するさ。オレはここで消滅なんてさらさらごめんだ。」
海人も同じく端末を開き、色々を調べはじめた。
「はい、まずは予定通り古事記の内容を変えましょう。それすら上層部はもう知っているのに特に止める事はなかった、つまりはそれはしていいのだと思います。逆にしないと駄目なのかも?」
「うわ面倒くせぇ、、これからそんな上層部との心理戦やりながら進まないと駄目って事?タブーを起こしたから仕方ないにしても疲れそうだな。」
「まぁ逆に頼もしい味方を得たとも。余程、星レベルの干渉を起こしそうな時は、容赦なくあちらは僕たちを消滅させてくるでしょうから。」
「それは、この女装姿ぐらいご勘弁。でもそうだな、これで柊に変化が起きるかも?
ところで、どうやって古事記の内容を変えさせるの?確かその編纂を命令したのが、天武天皇なんだよね。最終古事記として文字でまとめたのは太安万侶って人らしいけどさ。
天皇への接触なんて、どこから切り込めばいいのか。」
「この装置をまた使います。海人さんにタイムリープしてもらいます。この場合は意識へのダイブかな?」
「それってどういう事???」
「正確には、飛鳥時代の海人さんの前世の意識にダイブする感じですね。
今見た端末の中に、前世の一覧表がありました。調べた所、海人さんの前世に飛鳥時代巫女だった人がいるらしいんです。」
「巫女???俺、前世巫女だったの??」
「そして、天武天皇の本妻ではないですが、后だった方だったようです。見えない存在と話せる巫女だった事から、かなり寵愛されたのだとか。」
「なるほどな。じゃあ、俺がいきなり話しかけても案外大丈夫って事?」
「巫女なのと、普段から日々をそんな風に生きてる方なので受信能力は格段に高いはずです。あと、前世は同じ魂なので、以前過去の海人さんにタイムリープした感じでコンタクトが可能だと思います。瞬時に色々を受け取ってくれるかも。」
「了解。じゃあ俺の前世に訳を話して、過去の記録からまずそうな箇所は変えてもらえばいいんだよな。」
「それで大丈夫ですよね??」
Jはわざと、室内の誰かに向かって話しかけた。
『それで構わない。』
Jと、海人の脳内にホワイトの声が響き渡った。




