36話~女王トヨ~
「海人さんの時代あたりまでは、女装とかごく一部の男性しかほれをしなかったかと思います。それも解ってます、でも、僕の時代ではそれが普通というか、流行してるんです。勿論、私服のお話ですが。」
「まぁ確かにファッションって時代で違うもんな。ちょんまげなんて文化もあったわけだし、言われてみたらそりゃそうか。
わかったよ、なんかドレスはかなり抵抗あるけど、着るよ!!
あぁもう絶対殺しあいなんて、俺が、いや……私が!止めてみせるんだから!!」
「その意気です海人さん。ハヒコさん、女王の墓の麓に民を集めて下さい。新しい女王が、翌朝、墓の頂きからおてんとう様の命を受けて現れると。」
「分かりました!」
ハヒコは慌てて、民に伝えに外へ飛び出して行った。
「では海人さん、いや、トヨさん。
皆へ御披露目をしに墓の頂に向かいましょうか。陽が昇りはじめたら、民の中へと降りてきて下さい。」
「俺、いや私、殺されたりしないかしら。」
口調も変えはじめた海人に、Jは微笑みかけながら
「大丈夫です。僕が守ります。あと、海人さんのチップも更新をしておきました。手をひろげてみてください。」
と、促した。
言われた通りに海人が右手をひろげると、先日の皆既日食でのダイヤモンドリング映像のホログラムが浮かび上がった。
「うわ、すげぇ……。いや、す、凄いわ。」
「それを出しながら麓に降りてきて下さい。民は間違いなく、女王としてトヨさんを認めるはずです。では向かいましょう。」
Jに言われるがまま、トヨに扮した海人は墓の頂へと向かった。
これが悪い夢だといいのにと、心の底から想いながら。
「私はトヨ!おてんとう様の導きでここを治めにきた!」
朝日が昇りはじめた女王の墓の麓には
ハヒコによって集められた民達が集まっていた。
そこへ右手からホログラムを出しながら降りてくる、見た事もないドレス姿の海人をみて、民は呆然とした。
「ヒメコ様が寄越してくれたのだ!」「トヨ様!!」
民は歓喜の声をあげはじめ、トヨである海人を取り囲んだ。
「皆、武器を置いて仲良くしましょう!苗を植えて!たくさんたくさん!米を作りましょう!」
トヨは右手の拳を、高く空へ突き上げながら叫んだ。
「そうだそうだ!トヨ様の為に米を作ろう!!」
民達は武器を地面に置くと、同じく右手の拳を突き上げた。
「違うよみんな!みんなの為にみんなが作るんだ!
美味しい米を一緒に作ろう?そして沢山食べよう?
みんなが生きる為に作るんだ!いや、作りましょうね!!」
そう言うと、海人は墓の麓にある水田に飛び込み、傍らに置いてあった苗を手に取ると、自ら植えはじめた。
「お、お止めください!!女王がそんな事を!!」
民達が慌てて、海人を止めようと周りをおろおろと取り囲んだ。
「いいからみんなでやろうよ!さぁはやくはやく!」
海人に言われ、民達も一緒に苗を植えはじめた。
白いドレスは泥まみれになり、顔も泥だらけの
新しい女王が満面の笑顔でそこにいた。
「一瞬で心を掴まれた。やはり不思議な方だ。」
ハヒコがその光景を眺めながらJに言った。
「僕ではこうはいかなかったはずです。
海人さんは本当に、不思議で面白い人なんです。
ハヒコさん見ていてください。
あともう少ししたら、自分の姿がどれだけ泥まみれか
に気づいて、多分僕に謝ってきますよ。」
そうJが笑いながら予言をすると、
田んぼの中の海人が、ドレスについた泥に気づいたらしく、しまったという顔でJに視線を向けてきたのだった。
その姿を見て大笑いしたハヒコとJは、自分たちも田んぼに飛び込むと、一緒に苗を植えはじめた。




