33話~軍師殿との別れ~
魏に戻った爽は、軍師の策をその通りにこなし、表面上は軍師と敵対する姿を演じる事で、完全に周囲を騙してみせた。
軍師は爽を捕らえ、軟禁状態にした事にして、完全に外部との接触を遮断し、周囲の目を欺く事に成功したのだった。
全て、手筈通りに進み終えた爽はマシンに乗り込み、女王の元へと旅立つ日を迎えた。
それは雲ひとつない、青空の日-
「本当に今まで有り難うございました。軍師殿を私はもはや、第2の父だと思っています。」
泣きじゃくりながら、爽は軍師に感謝の言葉を述べた。
「お前の旅立ちの報告を受けてから、ソウソウは謀反を企んでいたという理由で処刑をしたと、皆には伝えておく事にしよう。
お前の旅立ちの成功を見届けるまでは、私はお前は生きている事にしておく。
だから、もしも旅立ちが失敗をしたその時には、ここへ帰っていらっしゃい。
もしそうなった時でも、どう転んでも、いつも私にはお前の為の策がある。だから安心してミライの国へ今は向かいなさい。」
こんな時も、先の先を考え、動く軍師を改めて尊敬しつつ、いつも自分の事を案じてくれた軍師との別れに、爽は胸をさらに詰まらせた。
爽は、自分のマシンに乗り込んだ。
「では……、行って参ります軍師殿。」
わざと別れの言葉は言わず、爽はマシンの扉をゆっくりと閉じた。
もう軍師の目からは何も見えなくなってしまっていたけれど、軍師は、マシンが飛び立ったであろう方角に向けて拱手のポーズをした。
爽はゆっくりと上昇させたマシンから軍師の姿と、魏の国の全体を見渡した。
すると、足元に何か当たるのを感じた。
足元に目をやると、そこには何度となく手にした、軍師がお茶を振る舞ってくれた茶器が置かれてあった。
「いつの間に…。」
爽はハラハラと流れる涙を拭う事も忘れて、小さくなっていく、地上の軍師の姿を目で追い続けた。
「あなたに…会えて……本当に良かった……。
さようなら、第2の私の父、そして故郷……。」
もはや、言葉にならない声で想いを発したその後、
マシンは女王のクニへ向けて急発進をした。
◇
「思っていたよりも、民の悲しみが深いですね。」
ハヒコが思い詰めた様に、女王の元へ訪れて報告をした。
爽が到着すると、出来上がった墓の頂にマシンを設置し、あとは女王の埋葬を待つばかりになった。
しかし、既にハヒコからクニの民に報告された、女王の死。その影響は思いの外大きく、新たな王に対して理解はあるものの、決してよい空気は流れてはいなかった。
「大丈夫だよ。ずっとヒメコさんが守ってきた、このクニの人達を信じようよ。」
海人は、女王に語りかけた。
「海人有り難う。いつもその海人の優しさに私は救ってもらった。クニの跡を継いでくれた敵国であった隣国の王が、海人みたいな心の持ち主であればいいのだけれど……。」
女王は、自分が居なくなった後の不安な気持ちを吐露した。
「ハヒコさんもいるし、大丈夫だって。それにふたりを見送ってから俺たちも暫くは様子を見てからでないと動くつもりはないしさ。だよね?J。」
Jは勿論という顔で頷きながら、
「今年の皆既日食の後、次の皆既日食が起こるのが実は翌年になるんです。その間は色々後処理や様子を見ながら、滞在するつもりです。だから、安心をしてください。」
Jの言葉に安堵した女王は、爽に微笑みかけた。




