30話~軍師との会議~
「え?俺も行きたいな。」
Jが色々な報告後、飛行が可能になったマシンを使い魏へ少し行ってくる旨を女王に話すと、その場に一緒にいた海人が、まずそう言った。
Jは少し困りながら
「出来たら海人さんには、ここに残っていて欲しいんです。僕は既に使者として顔が知られてしまいましたが、海人さんは知られていない。今後もしも、何かあった時の為に。」
そう答えた。
「わかったよ。ここでヒメコさんと大人しく待ってるよ。」
不服そうに言う海人に向かって、宥める様に
「ハヒコが忙しい今、海人が傍にいてくれると
私も心強いからね。」
と、女王が微笑みかけた。
それを聞いた海人は、少し照れくさそうにしてから
「その前に、爽さんとの再会の日の為に、ヒメコさんを綺麗にお洒落に変身させておかないとね。俺に任せててよ、こう見えて柊より色々上手って言われてたんだよ。」
海人はそう言うと、女王の髪の毛を手慣れた手つきで櫛でときはじめた。
「あぁ、なんだか最近ヒメコ様の髪型が変わったなと思ってましたけど、海人さんが??」
Jは驚きの表情を浮かべた。
「Jが用意してくれたケースあったじゃない?
衣類とか用意してくれてたメタルのケース。あの中にメイク道具とかカツラとか、なんかそんなのが一式入ってたからさ。
最近はそれ使って、ヒメコ様が色々お洒落するお手伝いをしてる。俺、わりと柊の髪の毛を編んだりメイクもしてたんだよね。上手だからって頼まれてよくやってたんだ。」
そう話ながら、海人は器用に女王の髪の毛を編み込むとひとまとめにに一瞬で結い上げた。
「そんな特技があるのは、知らなかったですね。」
Jが感心していると、女王は水瓶の水面に映った自分の姿を見て、とても嬉しそうな表情を浮かべた。
それを見て、やはり女性はいつまでも
お洒落でいたいものなのだなとJは思った。
それと同時に、色々策にしか目がいかない自分とは真逆で、その時その時の相手の気持ちに寄り添おうとする、海人の力に感心をした。
「では僕は安心して、魏に少し行ってきますね。」
Jは立ち上がり、女王と海人に一礼をすると、走って外へと飛び出していった。
「あ!ちょっと待ってよJ!!!あぁもう行っちゃった。。Jって物静かに見えるのに、実は滅茶苦茶アクティブなんだもんなぁ。」
Jの出ていった出口を見つめながら、海人は不満気に語りつつ、女王の髪に、赤い花びらで染めて作った布を巻きはじめた。
「海人はガサツに見えるのに、案外繊細な仕事をするから、いいコンビなのかもしれないよ。」
海人に髪を委ねながら、女王はそう言った。
「うわ、ひどい事言うんだもんなぁ。」
海人は笑いながらも、手は止める事なく赤色の布の周りに、緑色の布を足して何やらを作りはじめた。
「よし!出来た!見てみてよ!」
海人に促された女王は、水面に自分の姿を映しにいった。
「このモチーフは、ひいらぎ?」
「よくわかったね。うまく再現出来なかったけど
可愛いでしょ?それ。俺、柊にもよくこんな風にして、布で作ってあげたんだよね。ひいらぎのモチーフ、柊の黒髪に、本当によく似合って………たんだ……。」
途中から、涙声になった海人に女王は慌てて駆け寄ると
「また作れるさ。私と爽が元の世界へ還れば、きっと未来は変わるさ海人。」
そう優しく語りかけながら、海人の背中をずっとずっとさすり続けた。
「うん……、うん………。」
海人はまるで、母親の胸の中で泣く子供の様に泣き続けた。柊を想いながら。
Jはマシンに乗り込み、早速空へとそれを浮かび上がらせた。景色に溶け込む仕様のお陰で、誰にも気づかれる事はなかった。
魏の国の宮廷の外、爽さんのマシンのある場所に着地させれば、特に問題はないだろう。
そう考えている間に、もうマシンは宮廷の外へと着地を終えていた。
「やはり、飛行具よりマシンは断然早いな。」
Jは周囲に人がいないのを確認してから、外へ出ると、宮廷へと足早に向かった。
「使者殿!」
軍師の部屋に通されたJを見るなり、軍師は駆け寄ってくると拱手の挨拶をした。
「お久しぶりです。軍師殿。」
Jも拱手のポーズで挨拶を返すと、軍師に促されて席についた。
軍師がいつもの様に手慣れた手つきでお茶の準備をはじめ、茶を茶器に静かに注ぎいれるとJの前にそっと置いた。
茶器からは暖かな湯気が立ち昇っていた。
「いただきます。」
Jが両手で茶器を持ち、ゆっくりと一口飲んだ。
「使者殿もお疲れでしょう。顔色が少しよろしくないようだ。疲労回復の効能のある茶にしてみたので、是非沢山召し上がってください。」
この一瞬でそこまでの心配りをみせる軍師に、改めて感心しつつ、Jは感謝をのべてお茶を全部飲み干すと、早速これからの相談をはじめた。
「爽さんは、人目に触れず生きてきた女王と違い
この国で確固たる地位を確率してしまっていますよね。
きちんとした理由でいなくならなければ、不自然だと思うのです。それに、実際居なくなった時の周囲の影響も大きいはずです。
僕としては時間がかかっても、自然な流れで存在を消す事が出来たらと思っているんですが。」
頷きながら聞いていた軍師は、空になったJの茶器に新たに茶を注ぎ入れた。
「ソウソウが確かに居なくなるのは大打撃です。
私も何度も助けられた。でもだからこそミライとやらに還すべきだと思っています。
私だけの話ならすぐなのですが、ソウソウは帝の側近です。内政を任されていますし、私が口利きをして養子として入った家には、血の繋がりは無くとも兄弟が、家族がいる状態です。
全てを欺くには、ソウソウは亡くなったと思わせるしか策はないでしょうね。」
「はい、女王も亡くなったという流れにするつもりです。現在、事前に墓も造っています。難しい事は省きますが、そこに埋葬する事で、クニの民は女王の存在が消える事を受け入れてくれると思っています。」
「それはいい策ですね。問題はソウソウ。帝の命を受けて日々奔走していますからね。彼は私も頼りにしてますが、皆からとても頼られているのです。ところで、先日お見せいただいたものなんですが。」
軍師は先日Jから渡された、これから起こる歴史のデータが翻訳された表をひろげた。
「これからの歴史の流れですね。どう感じられましたか?」
「これはいわば、予見ですか?」
「そうですね、これが今の世界で今から起きる事です。そしてこちらの表は僕のあくまで確定ではなくて推測になるんですが、本来爽さんが居なかった場合の流れです。ここの箇所を特に見てほしいんです。」
Jは、その箇所を人差し指で指し示した。
「私が魏の全権を握る?」
「はい、このままでは爽さんがそうなってしまう。ですが、本来は軍師殿がこの大陸を牽引していく流れだったはずなんです。なので、そちらへ道を変えていって欲しいのです。」
「なるほど、では、ソウソウと私が仲違いして敵対するのがいいかもしれませんね。現在、帝の補佐は私とソウソウ二人が任されているのです。
そこで私がソウソウを滅ぼし、建前的に処刑した事にすればソウソウは晴れて自由になれる。」
「処刑ですか?それって、なんだかスケールが凄いな。」
ワードに時代を感じて、Jは少し怯みながら
お茶に口をつけた。
「少し周囲に信じ込ませるには時間がかかりますが、まずはその芝居をソウソウと打ち合わせて、取りかかってみましょう。女王の墓の建築も今暫くかかるのでしょう?」
「そうですね。さすがにすぐには。」
「こちらの事は安心してください。軍師としてこんなに大きな策は生涯で一度きりでしょう。遣り甲斐があるってものです。」
そう語る軍師の笑顔に、Jは力強さを覚えた。




