3話~再会~
海人はリハビリをこなし、スリープ前の身体能力より気持ち値は下がってはいたものの、ほぼそれも元に戻るだろうとの見解だった。
リハビリと検査を終えたあと、Jが洋服と靴が一式入っているというメタル色のケースを2つ持ってきた。
「さすがに過去の服のデザインは時代遅れなので、現代の私服の流行りの服をいくつか勝手に用意してみました。気に入って頂けるといいんですけど。
あと、こちらのケースには、ここの制服とか色々入っています。海人さんの部屋の用意も出来たので、あとで案内しますね。」
「有り難う。ここにいる時は制服?」
「ですね、外出は滅多に出来ませんが、その際は私服を来てください。ここにいる時は、此方の制服でお願いしますね。」
服の入っているケースを2つ手渡しながら、Jは続けてこう言った。
「では、着替えが終わったら、柊さんの所へ行きましょうか。気持ちはしっかり、保っていられそうですか?」
「大丈夫、俺も科学者のはしくれだしね。俺が必ず、何とかしてみせるよ。」
「なら安心しました。じゃあ、着替えが終わったら声かけにきてください。僕はそれまで、庭の緑たちに水をあげてくるので。」
「そんなの、今はもうオートじゃないの?」
「生命とのコミュニケーションは大事ですからね。」
「変なやつ。」
満面の笑みで庭に向かっていったJの後ろ姿を見送りながら、海人は持ってきてくれたケースの
ひとつを開けて、新しい制服に袖を通しはじめた。
◇
数時間後-
海人はJと、セキュリティが何重にも施工された一室の、扉の前に立っていた。
「海人さん、心の準備は大丈夫ですか?」
海人は、顔を強ばらせながらコクりと頷いた。
Jが意識を向けると、体内チップが信号を送り、重厚な扉が左右にゆっくりと開き始めた。
「待っていたわ。」
部屋の中にいたメイが、2人に気づき声をかけた。Jに促され、海人は周囲を見回しながらゆっくりと歩みを進めた。
自分の目覚めた部屋と造りは全く同じだったけれど、天井と壁の色はクリーム色で、生きた花が沢山飾られており、部屋中には、花の香りが満ちていた。
部屋の中央には、色々な機器に囲まれた銀色の長方形の棺型の装置が、そこにあった。
顔が見える部分は、透明の扉みたいになっている。
「柊……。」
海人はゆっくり近づいていった。
銀色の装置の中で、黒髪の柊が、眠り続けていた。
海人は、透明のガラスを両手でそっと触れた。
「これは、開けたら駄目なのかな…?直接触れたら起きるかもしれない…。
俺の声聞いたら…………。
もしかしたら目を開けるかもしれない……。」
「わかったわ。」
メイは、機器を動作させ、その扉を開いてくれた。
「柊……俺だよ、何拗ねてるんだよ……。
ちゃんと起きろよ……。
約束したじゃん、起きたら結婚しようって。
俺…ほら…今日はちゃんと指輪持ってきたんだ。
眠る前に用意してたマリッジリング……。」
海人はゆっくり、自分の右手を柊の左頬にあてた。
「なんだ、あったかいじゃん……。
勘弁してくれよ………こんなのって………。」
海人の大粒の涙が、柊の瞼に、ポタリポタリと落ちた。