28話~ハヒコ直伝の料理人~
「メイ………。」
Jはとても小さな声で、懐かしい仲間の名前を呟いていた。
「J!?まさか、あなたもそこにいるの??生きてるのね??良かった……。」
メイはJの声に気付き、生存を心から喜んでいる様子だった。
「メイごめん黙ってこんな事して。海人さんも元気だよ、今は違う場所にいるけど、メイならもうそれも把握済みかな。」
Jはメイの喜ぶ言葉に少しほっとした。そして声の主がメイで良かったとそう思った。
Jは海人と過去へ遡ってからの経緯を簡潔に、メイに報告をはじめた。
軍師、爽の紹介は勿論、女王ヒメコ、ハヒコの説明、色々起きた出来事を話すと、メイはさすがの理解力で瞬時に事態を把握した。
そしてメイからも、Jと海人が過去へ遡ってからの足取りを必死で追跡していた事、場所が最初の遭難女性の着地ポイントだった事から、その辺りの過去の出来事も再度調べていた事を教えてもらった。
「僕が一番心配してるのは、歴史の改変なんだけど。」
お互い一通りの報告を終えると、Jが口火を切った。
「この辺りは私には確認は出来ないわね。上は特に慌ててないから大丈夫だろうって憶測しか出来ない。」
「そりゃそうだよね。歴史が変わっていても、それを受け継いだ未来に今のメイは生きてるわけだし、ただ上は把握してるだろうから、慌ててないなら星レベルでの大きな影響はないって事かな。」
「そうね、あと確認する方法ならある。今、現在の歴史のデータをそちらへ送ったわ。あなたの記憶の歴史と比較すれば、Jあなたならわかるはずよ。」
マシンの端末が、データ受信完了のサインである点滅をはじめた。
「わかった有り難う、すぐに目を通しておくよ。あと、僕が海人さんを連れ出したんだ。だから、海人さんは悪くない。それだけは上に伝えておいてほしい。」
「J、あなた私を馬鹿にしてるの?あなたも悪くないわ。既に爽を発見し、マシンまで見つけてる。私があなた達を守るわ。だから、安心して早く帰ってきて。」
Jは顔を上に向け、深い深呼吸をした。
泣き顔をさとられなくて、モニター画面がまだ修復出来てなくて良かったとJは思いながら
「そうだね。帰るよ必ず帰る。」と、答えた。
そこからの、Jとメイの動きは機敏だった。
メイからサポートを受けながら、爽がマシンの修復をしている間に、Jは海人の元へと戻り、自分たちのマシンの修復をする事、まずはそこまでをクリアしようという話になった。
「あと、メイ。軍師殿にこの歴史のデータの話を伝えて構わないかな。」
そうJが尋ねながら、完全に置いてきぼりにしてしまっていた軍師の顔を見た。
軍師は急に自分に話題を振られて困惑の表情を浮かべたものの、好奇心がそれに勝ったのか、食い入る様にJの顔を無言で見つめ返した。
「何か考えがあるなら構わないけれど、未来を知るのはリスクも伴うわ。」
メイは、既にタブーである過去の人間との接触をかなりしてしまっている事を心配した。
「僕もずっとそれはタブーだと色々聞いていたしね。心配をしていたんだけど、いざ自分がこうなって実は見えてきた事があるんだ。もしそれで間違いなければ、うまく歯車を戻せる気がしてる。それには軍師殿の協力が必要なんだよ、メイ。」
Jの言葉は確信に満ちた説得力があった。
メイは仕方ないわねというように、深いため息をひとつつくと、貴方に任せるわまた何かあればコールをしてと言って、一旦通信を終えようとした。
「待ってメイ!!」
Jが、急にメイを引き止めると、最後に聞きたくて聞けなかった事を口にした。
「送ってくれた記録を調べればわかるんだろうけど、やはり、メイの口から聞いておきたいんだ。柊は、柊は今はどうなってる?」
「柊は、眠っているわ。まだ、目覚めないの。」
「炭化じゃなくて?」
「えぇ、眠り続けている。炭化って何の事?」
「いやいいんだ……。有り難うメイ、また連絡するよ。」
Jはそう言って、通信を終えるスイッチを押した。
メイの話だと、柊の状態が最初の眠り続ける未来に、また変わったみたいだ。
だとしたら、弥生時代に遭難した以降の何かがトリガーになったはず。守りに入るよりも今は攻めるべきなのかもしれない。
勿論、その他の干渉は踏まえないといけないけれど。
「ゆっくりしてられないな」
そう言ってJは、これからの詳細な計画を立てはじめた。
◇
「それで飛行具で一人、先に戻ってきたってわけか。
とりあえずまず爽さんが生きてて良かったよ!!ね?ヒメコさん!」
海人が話を聞き終えて、女王にそう言葉を投げかけた。
女王は静かに微笑んでいた。
「生きてると分かっただけで満足。お互い大事な場所が出来てしまったけれど、それもきっと運命なのかもしれない。」
そう言うと、新鮮な魚を何処からか持ってきて海人に手渡した。
海人はそれを受け取ると、魚を捌きはじめた。
「運命は変える事が出来ます。おふたりを必ず元の世界へ還します。」
Jは強い口調でそう言った。
「でも、私はここを守る役目がある。ここをもはや捨てる事は出来ない。」
「確かに、でもそれは永遠ではありません。人はいつか死にます。死んだら守る事など出来なくなる。」
「それはそうだが。」
女王は少し困った顔をして、Jを見つめた。
「なので、ヒメコ様には建前上死んでもらいます。死んだと皆が思えば晴れて自由の身、誰にも邪魔されない。ただ、これも今すぐでは勿論ありません。全ての手筈が整ってからの話になります。
このクニは隣国と戦がまたいつ起きるかわからない状態ですよね?ヒメコ様が居なくなっても大丈夫なように、全てこのクニの安泰を最優先に動きますから、僕をどうか信じて下さい。」
女王は少し圧倒されながら、深く考えこんだ後に
「わかった、Jに任せよう。」と、言った。
そんな少し緊張感を伴う二人のやり取りを、魚を捌きながら聞いていた海人はその場に急に立ち上がった。
「まぁまずは食べなよ、長旅でお腹空いたでしょ?」
そう明るい口調で空気を一変させると、捌き終えた魚の身を器に乗せ、Jの前へと置いた。
「海人さんいつの間に魚を捌けるようになったんですか?凄いなぁ、では有り難く頂きます。」
「ハヒコさん直伝だからね。あ、でも、骨が入ってたらごめん!自分で出して!」
そう言われた直後に、噛んだ魚の身から骨が出てきて、Jは右手で笑いながらそれを取ると、海人の変わらない明るさに安心感を覚えた。
「とりあえずさ、二人を還すには爽さんのマシンを使わないと無理だよね。」
「はい、メイとコンタクトが取れた時点で、うちのマシンより現時点では状態がいいですね。出発点と着地点の道が出来ていないと、そもそも移動は不可能ですし。」
「それにしても、メイの声はなんで届いたの?」
「爽さんから、例えば自分がいた時代になら音声信号や映像を送る事は出来ますが、メイの時代はそれより未来になるので送る事は出来ません。
でも、メイから現在魏にいる爽さんに向けて音声信号を送り、一度道が出来れば双方向が可能になるんです。」
「時空間のトンネルの作り方には、法則があるって事か。」
「これも今の僕の知識上の理論なだけで、それが覆る事もきっと起こるかもですが、今、僕が知りえてる事ではそんな感じですね。なので、爽さんのマシンを修復し、おふたりを元の世界に還す事を目標に置いて色々進めていきましょう。」
海人が捌いてくれた魚を平らげたJは、おもむろに右手を上に向けた。すると、その上にピラミッドのホログラムが浮かび上がった。
「あぁ、Jを待ってる間、言われた通り色々調べておいたよ?これに何の意味があるの?」
「遭難したらその時代の遺跡に行ってほしいって話をしたかと思いますが、覚えていますか?」
「あぁ勿論。遭難してもその時代のそんな場所の傍に必ず引き寄せられるから、探せば近くに必ずあるだっけ。でも、そんなのないよねこの近くには。」
「ここの近くだと、このムラの中にある墳丘墓がそうみたいですね。ただ、トラベルの施設的にはそこまで充実はしてないようです。」
「あのムラの墓に!?」
話を聞いていた女王が、驚きの声をあげた。




