15話~爽~
私がまだ20代も半ばだった頃……
私はタイムトラベルの管理をする組織で、任務についていた。
いわゆる当時は全盛期で、沢山のツアーが組まれ安定で安全な旅を提供していた。
干渉は歴史を変えてしまうからね。
マシンで過去に飛んでも、マシンは必ず上空から観光をするのみ。
地上へ降りる事はタブー。
見るだけというルールは徹底されていた。
マシンはその景色に同化が出来る素材で出来ていて、いわば透明になるような、そんな事が出来たからね。
過去の人達に、マシンは目視出来なかった。
そんな普遍的な毎日の中で、私はトラブルが起きない様に、毎日隅々をチェックし、安全なタイムトラベルを提供する事に、やりがいを感じていた。
その任務についている仲間の中に、爽(SOU)という男性がいた。爽は私のミスに事前に気づいて、黙ってフォローしてくれている、そんな人だった。
何回助けられたかわからない。
本当に、いつもいつも支えてくれた。
私たちの組織は、世間ではわりと認知されていて、
憧れの的というか、将来はあの任務につきたいとか夢を描く子供たちも当時は沢山いたりもして
皆は、私たちをこう呼んでいた。
【時を彩る者】ってね。
そんなある日、事故が起きた。
個人旅行で2500年前に飛んだ女性が遭難し、帰って来れない事態になった。
地上に機体が降りてしまい干渉が起きた時点で、歴史が塗り替えられてしまう。それだけは避けなくてはならない。
色々手を尽くすも原因がわからず、私たちは不眠不休の対応に追われた。
このトラベルツアーの担当は爽だった。
彼は特に自分を責めて、必死で元に戻す方法を模索していた。
予備の燃料で、暫くはマシンとコンタクトは取れたから、遭難した彼女に向かってモニター越しに爽はずっと、声をかけて励まし続けていた。
私もあらゆる事を試したけれど、マシンを復旧する事は困難で、どうする事も出来なかった。
事故が起きてから3日後の深夜、徹夜続きを見かねた爽が、少し眠った方がいいと、私にブランケットを持ってきた。
爽こそ寝た方がいいと、私がそれを拒むと、爽は首を横に振って、自分は大丈夫だと私を無理矢理、ルームの隅にあるソファに横たわらせた。
私も疲労の蓄積には抵抗出来ず、爽がブランケットをかけてくれるのを感じると同時に、深い眠りに落ちていった。
それから何時間後だろう。
私は話し声で、目が覚めた。
目をゆっくりと開けて、声のする方をみると、爽がモニター越しに、例の遭難者の女性に声をかけ、励ましている姿がみえた。
自分のせいだ、必ず助けだしますから。
爽はずっと、そうモニターの向こう側にいる今は2500年前にいる彼女に話しかけていた。
彼女は泣きじゃくっていた。
モニターに両手をついて、助けてを連呼していた。
爽は、モニター越しの彼女の両手に自分の両手を重ねると、ただずっと謝り続けていた。
その姿をみて、胸が詰まった。
詰まると同時に、疲労の波は容赦なく、私を再度眠りの底へと連れていってしまった。
目覚めると、そこに爽はいなかった。
モニターからの、映像は途切れていた。
私は、ブランケットを返そうと爽を探した。
仲間達に尋ねても、爽の居場所はわからなかった。
責任感の強い爽が、ここからいなくなるわけがない。私は胸騒ぎがして、あらゆる場所を探した。
すると、仲間からの知らせが入った。
マシンが一機見当たらないとの事だった。
私は慌てて、その機体がどこに向かったかを調べた。その機体の目的地は、遭難者の彼女がいる2000年前だった。
まだ原因究明も出来てない……。
そんな時こそ一番慎重にならないといけない
それを私に教えてくれたのは爽だったのに……。
こんな準備もままならない状態で行くなんてあり得ない………。
私は怒りの感情に襲われながら、その機体に信号を送った。
ソウ、ナニヲシテルノ
ハヤクモドッテ
アナタノソレハ マチガッテイル
すると、返信が届いた。
カノジョノソバニイキタイ
ユルシテホシイ
そして、直後突然通信は途切れた。
それから一切連絡が取れなくなってしまった。
爽が自分で切ったのか、また遭難が起きたのか
それはわからない。
ただ、【時を彩る者】内部は混乱し、騒然となった。
安定で安全だったトラベル神話は崩壊し、誰の責任だって話になった。
そんな責任の擦り合いをする。人間達に辟易したけど
そんなのは絶望のうちに入らなかった。
私にとっての絶望は、爽が私の前から居なくなった事だった。
ただそれだけ。
だからね、私も思ってしまったんだ。
ソウノソバニイキタイ
ってね。




