正月特別短編 刹那の平穏
(当短編は2019年1月1日に本篇番外編として投稿した物です)
明けましておめでとうございます。
年末年始は休戦協定により軍務はお休み。
軍服を脱ぎ、武器を置き、戦争を忘れることが出来る数少ない時間。
いつも騒がしい大和皇國軍が今日は少し静かなようです。
「たのもーーーー!!」
スパァン!と音を立てて勢いよく襖が開かれ、吹き込む冷たい風と通る声に部屋の主は思わずビクッと肩を揺らす。
昨晩の雪で白くなった外を背景に部屋の入口で満面の笑みで立つ小柄な影を確認すると、怒鳴りそうになるのを抑えるように溜息をつく。
「右田宮、正月くらい静かにできないのか……」
「宇野さんお年玉」
「聞け!!」
数秒前の努力も虚しく宇野はいつものように怒鳴り声を上げる。当の右田宮はそんなことは気にも留めず右手を差し出したままだ。
「大体、こんな國の情勢でそんなもの用意しているわけないだろう」
「でも元帥さんはくれたで」
ほら、とズボンのポケットから小さな包を取り出して見せる。ふふん、と得意げに鼻を鳴らす右田宮に宇野は頭を抱える。
「全くあの方は………」
「私がどうかしましたか?」
「!?」
いつの間に現れたのか、元帥 椎山が微笑みながら右田宮の後ろに立っていた。宇野は慌てて立ち上がり敬礼する。
「椎山元帥!?何故ここに……」
「俺がお連れしたんですよー」
椎山の隣から遥海屋も顔を出す。
「お前まで…」
「皆さん帰省してしまってて静かだったので…榊さんはお部屋に籠りっぱなしだし。そしたら椎山さんがこちらに来ると仰っるので、暇だし一緒に来ちゃいました」
確かに寮の建物内は静まり返っている。
この時期は両国休戦協定を結んでいる時期のため攻撃がくる心配はない。隊員には特別休暇が与えられるため、地元に里帰りする者がほとんどだ。見知った顔だと藤原、井爪、柳葉魚、藤咲、新燃らが訓練納めを終えて荷造りをしていたのを見た記憶がある。
「はるみやは帰らんの」
「知らぬが花ってこともあるんですよ、右田宮さん」
右田宮の問いに微笑を湛えて答える。
遥海屋は他の隊員より遅れて入ったため26歳にして入隊二年目、軍で正月を過ごすのは2回目だった。未だに素性がほとんど明らかになっていない彼が地元の話をするのはあまり見た事がない。
「まぁまぁ、こんなゆっくり過ごせる日なんてほとんど無いですし、今日くらいは嫌な事は忘れて楽しむのもいいでしょう?宇野、貴方もいつも指導に訓練にと走り回っているんですから、休める時に休まないと」
「…有難うございます」
「ほんまやで、毎日毎日あげん怒鳴りよったら戦場に出る前に死んでまうわ」
「誰のせいだと思ってるんだ?」
「睨まんといてや〜こわいわ〜」
おどけた声で助けて〜と言いながら椎山と遥海屋の後ろに隠れる右田宮。それを見た2人が微笑ましそうに目を細めている。
「あっなぁなぁ、百人一首しようや!元帥さんめっちゃ強いねん!」
今度はどこから取り出したのか、型紙でできた箱を掲げている。
「俺全然覚えとらんけど!」
「いいのか、それで」
「ふふ、腕がなります」
「あっじゃあ俺読み手やりますね」
静かだった部屋に暖かな声が灯る。
いつの間にか畳に取札が置かれる。
騒がしいが、たまには階級も仕事も忘れて過ごすのも悪くない。
柔らかい陽の光に照らされる白い雪に目を細めた。
この日の本の地に平和が訪れることを願って、
束の間の穏やかな時間を。
読者の皆様にも幸がありますように。
今年もよろしくお願い致します