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かみさまのなかみ  作者: 星野優杞
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第8話  世界と大陸

 やあやあやあ!俺は冒険家のフォメって言うんだ!!今回は海を渡ってとある大陸に来たんだ。この大陸には子供を大切にするっていう伝統があるんだ。いや、将来のことを思えば子供っていうのは大切にするべきだし他の地域にだってそれがある。けれどこの大陸ではそれが神話と結び付けられている。しかも神様が子供を大切に!って言ってるんじゃなくて、子供が神様なんだ。そしてその神話は大陸全土で信じられているらしい。そんなこと他の大陸でもあまり見ない。それもここまで規模の置物は本当に、他に例がないんだ!!だから俺はこの大陸の神話とか、神話時代の遺跡とか、またはそれ以前のものとかを探っていこうと思ったんだけど……。


「ミスったなあ……。」


俺はうっかり森に迷い込んでしまって力尽きていた。お腹もすいたし、もう……動けない。

視界が霞み、意識が朦朧とする。目の前の藪の葉っぱすら数えられない。ああ、もう、目を開けていられない。

 閉ざされた視界の中で、何かの足音が、複数聞こえた。ああ、動物かな。肉食動物に群れで来られたらもう喰われるしかない。でも喰うならせめて息の根をばっさり止めてからにしてくれないだろうか。生きたまま内臓を喰われるのは辛そうだなあ。


「死んでる?」


しかし耳が拾ったのは人間の言葉だった。目をうっすらと開く。靴を履いた小さな足が見えた。


「こ……ども?」


掠れた声を口にすれば目の前の子供がしゃがむ。そこにいたのは幼い少年だった。


「怪我してるの?病気なの?」


怪我も病気も無いのだ。腹が減って死にそうなだけ。緩く首を横に振ればそれだけで通じたのだろうか。少年は一つ頷いた。


「ふーん。じゃあ、試してみようかな。」


少年のその言葉に他の足音が動く。そう言えば、複数の足音がしたのだ。何か異論があったのだろうか。


「大丈夫。この力を使う時は痛くないんだ。多分そういうモードなんだと思う。」


なんだそういうモードって?え?何が痛い……?

身の危険を感じて必死で頭をあげる。少年が何をしようとしているのか。


「よっと。」


少年は軽い掛け声とともに、自分の左手の中指の、第一関節を曲がってはいけないほうに、ポキリと折った。声が出ないが喉が引きつる。そして少年の体から離れたその指の先は、リンゴになって地面に落ちた。


「は……?」

「食べていいよ。あと5個くらい出そうか。」


呆然とする俺をよそに目の前の少年は再び指をぽきりと折る。そして、どうやら、信じられないことに折った瞬間、新しい指が生えているようだった。彼は黙々とポキポキ指を折っていく。その指がリンゴに変わっていくのを俺は見つめることしかできなかった。


「どうしたの?早くしないと死んじゃうんじゃないの?」


目の前の少年の正体に怯えながらも、目の前のリンゴに吐き気がしても、俺は自分の生存欲に勝てなかった。震える手でリンゴを握り齧りつく。皮も種も気にしていられなかった。噛むのに力がいるようなリンゴだったけど、そんなのも意識せずに食べた。食べて、食べ物から水分が確保できたからか何なのか、涙と鼻水と果汁で顔がべちゃべちゃになった。そんな俺を少年はただ見ていた。







 「美味しかった?」


食べ終わって一息ついた俺に少年はそう問いかけた。正直味なんて分からなかった。というか深く考えると、いや、深く考えなくても吐きそうだった。


「さっきの果物は……君の、指なのか?」


問いかければ少年はキョトンとした。


「そうだけど。」


やっぱり吐きそうだ。


「でも、どうせこの辺の大地だって俺みたいなものだから。良いよ。俺があげたんだし、指くらいあげる。」


そう言って笑う少年の手にはしっかり指がついていた。


「君は……?」


手品師か何かなのか。いや、そもそも言っている意味が全体的に分からない。少年は俺を見て瞬きを一つすると


「俺、神様なんだ。」


と答えた。




 神様なんて信じていない。そうじゃなければ神様の正体を知るために墓を探ったり、本の真相を確かめたりなんかしないだろう。けれど、


(目の前にいる少年は明らかに人間じゃない。)


それに、彼の横にいる少女も人間か怪しい。複数の足音の正体は目の前の少年と後ろで佇む包帯を全身に巻いた少女のものだった。さて、少年は自分を神だと言って俺を助けた。彼が神が人間を助けるものだと思って行動しているなら、俺は害されることはないはずだ。利用しない手はない。


「神様ならちょうどいい。俺を助けてほしい。この近くの人が住んでるところまで連れて行ってくれ!!」


そう言えば少年はポカンと不思議そうな顔をした。


「どうして俺があんたを助けなきゃいけないわけ?」

「か、神様なら……!!」


神様だというなら助けてくれよ、そう言うと少年は少し考えて言った。


「俺はさっきあんたを助けたんじゃない。あんたで実験したんだ。」

「は?」

「それにこの辺で人が住んでるところは俺も分からない。今のところ適当に歩いているからね。」


何だそれは。何だそれは!!


「やっぱり神様なんかいない!!そうだ、世界のどこにも神様なんていなかった。」


そう叫ぶと少年は目を丸くした。


「あんた、随分面白いことを言うね。」


頭を抱える俺に少年は楽しそうに寄ってくる。ああ、気持ち悪い。


指がリンゴになる何か。

神だと言って笑う何か。

目の前の子供の姿をした何か。


腹に入れてしまった指が、明らかな異物が恐ろしくてたまらない。少年はうずくまる俺の目の前にしゃがみこんで尋ねてきた。


「世界中のどこにも神様はいないの?」

「っ今まで行ったところにはどこにもいない。この大陸は神が普通に信じられているが」


そこまで言ったところで服がグイっと引かれる。


「俺を信じもしない奴なんて助ける意味がないと思ったけど、ちょっと違ったみたいだ。」

「は?」

「ね、俺に世界の話を教えてよ。」


道は分からないけどとりあえず命の保証はしてあげるから。少年はそう言うと指からぴょいっと苗木を出して見せた。



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