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かみさまのなかみ  作者: 星野優杞
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第5話  目玉

 お父さんはあの子の人探しを手伝うって町に行っちゃった。町にお仕事の話もしに行ったみたいだから仕方ないけど。


「お父さん、お土産買ってきてくれるかな?」

「そうね。チビポンとか?」

「私チビポン好き!!」


神様も好きなお菓子。お父さんが町に行くと結構買ってきてくれるお土産なんだ。早く帰ってこないかな?と星がちらほら見え出した空を見て思う。そうしたらトントンと扉が叩かれた。


「私がでる!!」


帰ってきた!!


「はーい。お願いね。」


お母さんの言葉を背中にルンルン気分で扉を開ける。


「おかえり!!……あれ?」

「ただいま。」


そこにはあの子しかいなかった。森の中でドロドロだった男の子。結局まだ名前も知らない子。


「お父さんは?」

「すぐに来るよ。」


暗い森の道を振り返りながらそう言われた。


「ところでさ。」


目の前の子に視線を向ければ、彼の体がふわりと宙に浮いた。


「え?!」

「俺、神様なんだけどお願いを聞いてくれないかな?」


目の前で浮いた彼に私はすっかり驚いてしまった。それに私は神様のことすっごくすごいと思ってたから


「うん!え?それどうなってるの?元から神様の体なの?それともあの子を依り代にしてるの?」


と興奮気味に聞いた。


「元から俺は俺だよ。……ね、リタは本当に化け物の目玉がある場所を知らない?」


そう聞かれて困ってしまう。教えてあげたいけれど、本当に知らないから。だから項垂れながら謝る。


「ごめんね。本当に知らないの。」


そう言えば彼は残念そうな顔をした。


「じゃあリタの未来をなくさなきゃいけないな。」

「え?」


目の前の彼が何て言ったのか理解する前に森の茂みから人のようなものが現れた。家の明かりでそれの姿が照らされて私は悲鳴をあげた。


「あああああああ!!」


黒く干からびた手足、深く抉れた目の穴。ぼさぼさの髪。痩せているわけでは無い。異常なほど細い体。まるで皮膚と骨の間に何もないかのような姿。悲鳴をあげる私の元へお母さんがキッチンの物をひっくり返しながら駆けつける。そして私と同じように悲鳴をあげながらもお母さんは私を抱きしめて、その化け物から引き離してくれた。


「なんなの?!なんなのそれは?!ミイラ?!ゾンビ?!」


お母さんがミイラの化け物に包丁を向けながら叫ぶ。


「さっきもミイラって言ってたな。もしかして君の体のこと、ミイラっていうのかな。」


あの子はそんなことを言いながら化け物に笑いかけた。意味が分からない。


「か、神様?!離れて、だってそれは化け」


言葉が続けられなかった。あの子が鋭い視線で私を見ただけなのに、喉が、水の中にいるみたいに、苦しくて、声が、出ない。浮かぶ涙でかすむ視界の中で化け物があの子の手を取って、首を振った。


「君は優しいね。」


その瞬間、呼吸が楽になる。


「リタ!リタ!!」


お母さんの私を呼ぶ声がはっきり聞こえるようになる。


「リタ!!!!」


お父さんの声もして、扉からお父さんが入ってきた。











 「どういう事だ!!!?」


父親は俺と彼女を見ながら目を白黒させた。何が何だか分からないらしい。どうするべきか少し考えて、質問に答えてみようと思った。聞かれたなら、答えてみよう。


「俺、神様なんです。」

「は?」

「それで、彼女は俺の大切な人。化け物っていう話は間違ってるから、とりあえず彼女に体を返して欲しい。」


父親は口を開いたまま動かない。ああ、じれったい。面倒だ。家の奥で縮こまっているリタ達に目をやる。するとその瞬間


「わかった!!わかったから、娘は!!」


父親が膝を地面についてそう言った。別に、彼女の体を返してもらえるなら面倒なことをする気は無かった。




 父親は家から少し離れた倉庫に入った。一角に敷かれていた藁をどければその下には地下へ続く階段があった。そうして階段を下った場所に六畳くらいの部屋があり、真ん中に石で作られた箱が置いてあった。そして箱一面にびっしりと紙が貼ってあった。そこに書かれているのは、昔の文字。学が無かった俺が知らない、俺の時代の文字だった。昔は読めなかったけど、今は読める。でも、どうでも良い。彼女の体の確保が優先だ。べりべりと紙を剥がす。後ろで父親が何か叫びながら俺に斧で斬りかかって来たけれど、邪魔なだけだ。ここの床は地面なので、土で壁を作って斧を防いだ。


「ああ。彼女のものだ。」


石の箱を開けるとその中には目玉が一つ、緑の光に包まれて浮いていた。緑の光が液体なのかと思ったけれど違うらしい。白に黒の目玉。特殊な保管をされていたのか目玉は今、彼女からとりだしたかのように温かく、干からびてもいなかった。俺の手に飛び込んできた目玉を大切に手で包んで階段を上る。倉庫で待っていた彼女に目玉を見せれば、彼女はちょっと屈んでくれた。その仕草が可愛くてつい笑ってしまう。


「はい。君の瞳だよ。」


そう言って目の部分に空いた穴に目玉をはめ込む。肉がないから上手く嵌るか不安だったけど、どこからか緑の光が溢れて皮と骨と目玉の間を埋めてくれた。そうして戻った左目で彼女は俺を見つめて嬉しそうに目を細めた。






 リタと母親に


「父親が埋まってるから掘り出してあげなよ。」


と伝えて、家を漁る。リタ達の反応から考えて、彼女がそのまま歩くと攻撃の対象になりそうだ。目玉が戻ったからか彼女の動きは普通の人間に近いものになったが、見た目はどうにもならない。ごそごそタンスを漁っていると彼女が嬉しそうに包帯を持ってアピールしてきた。どうやら全身を包帯で覆うつもりらしい。いや、確かに肌は見えないだろうけど……。そして器用に包帯で全身ぐるぐる巻きにした彼女。包帯の効果もあって昔みたいに肌が白いみたいに見える。いや干からびてても素敵なんだけど。とりあえずフード付きの白っぽいマントと、布がたっぷり使ってある白いワンピースを貰うことにする。……全身白じゃ目立つかな?昔から白い服を着てるイメージがあったんだけど。あれは神職的な白か。リタのものなのか少し丈が短かったけれど服は着れた。母親のタンスから黒くて長い靴下を見つけたので履いてもらうことにする。うん!可愛い可愛い!!服装が決まれば長居は無用だ。彼女はこの辺りではある意味有名人だろうし、ちょっと遠くに行こうか。そう考えていたら彼女が俺の方を見て首を傾げた。可愛い。とりあえず彼女の体の他の部分も誰かが封印している可能性もある。俺は家の中を見渡して、それらしいことが表紙に書かれている本をいくつか見繕った。


「あ、これも。」


最後にリタが俺に見せてくれた『空の神様』の本も手に取った。


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