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かみさまのなかみ  作者: 星野優杞
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第3話  化け物の死体

 本当に子供は大切にされているようで父親は都合をつけて二日後には俺を町へに連れて行ってくれた。


「へえ……。」


町は木で作られていたリタの家と違って石造りの建物が多くあった。確か記憶の中での家は木で作られたもの、壁だけ石で屋根は木のものがあった気がする。この町では天井まで石だった。平屋の建物が数多く並んでいるが、時折二階建てや変わった形の建物もあった。一番目を引くのは町の中心の階段状の大きな建物だ。4階か5階建てにはなっているだろう。俺は昔、こんな建物を見たことが無い気がする。

探している彼女についての情報を集めたい、と伝えてあったので父親は俺を役所のようなところに連れて行った。平屋の大きな建物に入る。


「その探し人の特徴は?」

「俺と同じくらいの年で、身長も同じくらい。髪は黒で色白な感じ。」

「つまり子供が行方不明ですね。はい、全力で探しましょう。」


本当にこの辺りは子供を大切にしたいらしい。役所にはいくつか人探しの話が来ていたり、逆に保護している人の情報が集まっていたが、彼女の情報は無かった。

少し気分が落ちていた俺に父親は市場で一口サイズの揚げ菓子を買ってくれた。複数買ってリタへのお土産にもするそうだ。一袋の中に一口サイズの菓子が結構入っている。20個前後くらいだろうか?


「それは神様も現世に遊びに来るたびに食べると言われているチビポンと言われているお菓子だ。」


また神様か。そう思いながら焼き菓子を一つ口に放る。


「!!」


外はかりッと中はふわっと、噛み締めれば噛み締めるほど甘い。

え?なにこれ。ソーラと同じくらい美味しい。


考えてみれば暗い中で目を覚ます前、俺は甘いものを碌に口にしたことが無かった。唯一の甘味は彼女が教えてくれた花の蜜だけ。そんな俺には衝撃の味だった。……どうやら俺は神様と好みが合うらしい。お菓子の袋を畳みながらそんなことを考える。


「神様……。」


ポツリと口からそんな言葉が零れる。それに父親は笑った。


「神様は子供の姿をしている。大地と一体で、空も司る。」

「じゃあ神様は飛べるの?」

「飛べるだろうな。実際神様を描いている絵には飛んでいるものも数多くある。」


青い空を見上げる。清々しく晴れた、青空。

神様……か。

ふと、思う。俺が最初に目覚めた場所がもしも土の中なら、それは大地と一体だったと言ってもいいのではないか。それに大地と一体だとすれば、あの瞬間いきなり地中だと思われる場所から地上に移動したことにも説明がつくのではないあろうか。


そんなことを考えて、何となく、軽く地面を蹴った。神様は飛べるらしい。

それなら今、地面から離れたこの足が、地面につかないなんてことも…………


「マジか。」


周りの目も盗んでほんの少しだけ、と意識した。そうして着地したように見えた足は、かすかに地についていなかった。思わず口から笑い声が漏れる。


どうやら、俺は神様らしい。









 空を飛ぶとか大地に意識を移すとか、ソーラやチビポンが好きだとか、この辺りに伝えられる神に当てはまることは俺にも当てはまった。それに神様の名前は『空』。読み方は諸説あるらしいが、俺の名前の『くう』だって、空の読み方の一つだ。能力的に俺は一応この辺りに伝わる神様のようだ。どうしてそうなったのかは昔のことがあんまり思い出せないから分からない。

だけどそうなると俺が倒したらしい化け物のことも気になる。全く記憶にないので、伝承が間違っているか思い出せないのか。


……俺が神様だとするなら、彼女がいたのは500年前という事になる。普通に考えれば彼女はもうこの世にはいないのだろう。彼女がどうなったか。昔のことを知るには昔の物を見るのは有効だと思えた。


 化け物の死体が見たいと父親に頼めば、用事があるから一人で見てきて欲しいと言われた。帰りの待ち合わせ場所を決める。化け物の死体は町の中心にある大きな階段状の建物の中にあるらしい。展示室の中でも一番の展示物のようだ。砂を固めたような床を歩く。町の中に比べて展示スペースは人がまばらだった。じっくり死体を検分するには人目は少ないほうが色々と良い気がする。そう思いながら床を踏んで歩いた。

飾られているのは確かに子供を題材にした作品が多かった。少年が空を飛ぶ絵。少年が地面の中で膝を抱える絵。少年が指の先から木を生やす絵。俺も指から木が生えるのだろうか。ここから出たら試してみよう。そう思いながら進む。それにしても、絵なんて娯楽がここまで発達しているなんて。


(この辺りは本当に恵まれているんだな。)


頭をよぎる昔の記憶に、こんなに色づいた絵は存在しない。絵というのは彼女が地面に描くものだった。彼女の絵は地面に描いたものでも大人がありがたがっていた物だけど、彼女は俺と遊ぶために単純に絵を描いてくれた。誰もがありがたがるようなものを俺だけに。それがどうにも口角をあげさせて仕方なかったんだ。

そんなことを考えながらたどり着いた、最奥の展示室。俺が入る寸前に前の客は次の部屋に移動したようだった。





そうして―――――そこには干からびた少女の死体が飾られていた。





細い枝のような手足、薄っぺらい骨と皮の体。思わず、ふらふらとその死体に歩み寄る。


乾燥した皮膚にはしわがいくつも刻まれていて生きている人間のそれとは違った。


宝玉のように煌めいていた黒い瞳は、真っ黒い穴になっている。

そしてあんなに綺麗だった黒い髪はぼさぼさになっていた。


けれど、そう。


彼女だ。


俺が会いたかった彼女だ。


たとえ変わり果てていようとも、

彼女は確かに俺の探していた彼女だった。


そう認識した瞬間、目の前が暗くなった。



ヒロイン登場回です。

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