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かみさまのなかみ  作者: 星野優杞
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第2話  神様は子供の姿をしている

「お母さん!!」

「お帰り、リタ。どうかしたの?」


森の中の可愛らしい木の家。家の前には花壇もあった。そうして家に入るなり女の子は手を放して母親に抱き着いた。女の子の名前はリタというらしい。


「子供が森の中でドロドロだったの!それに風邪もひいてるみたい!!」


リタは身振り手振りも付けて、大変だと精一杯表していた。母親も仕草の中、俺の姿を見つけて目を丸くした。


「まあまあまあまあ!!大変ね!!子供がこんなになっていたら!!」


母親は俺を手早く温かい水の中に放り込み、俺の体の泥を落としてくれた。それから大分サイズは違ったがリタの父親の服を着せて、布団に押し込んでくれた。こんなことをしている場合ではない。当てもないけれど彼女を探さなければいけない。そう思って布団から出ようとすれば


「声が出るようになるまで寝てなさい!子供は元気じゃなくっちゃ。」


と母親に言われた。……異常に『子供だから』という言葉が引っかかる気がする。それでも確かに声が出ないと情報収集も難しい。俺は一旦大人しくすることにした。

それにしても、こんな布団は初めてだ。フカフカで柔らかい。布で出来ている布団。中には綿というものが入っているのだろうか。とっても……温かい。俺は思っていたよりもあっさり意識を手放した。




 そうだ。確か、あの暗い土の中で目が覚める前は布団は落ち葉を集めたものだった。水浴びは彼女が教えてくれた森の泉でしていた。彼女以外の誰も、俺に、笑ってはくれなかった。子供だからと受けた仕打ちは―――頬の肉が内側の歯に食い込み、口の中が切れる。誰かが何か喚き散らしながら、靴を履いたまま地団太を踏むように俺の腹を何度も踏みつける。放り込まれた場所は暗く、寒かった。腹を満たすために川に行ったら後ろから突き落とされた。誰も、味方なんていやしない。誰も、誰も、誰も。何で?俺が、子供だから?




「大丈夫?」


目を開くと茶色い髪の女の子が俺のことを覗き込んでいた。先ほどまで見ていたバラバラな場面は夢だったのか。過去にあった記憶か。混乱する中記憶を整理する。そして目の前の女の子を見る。記憶に合致する人物は、ああ、この子はリタだ。暗い土の中にいた、その後に出会った人間。


「うなされてたわよ。」


リタはそう言って座っていた木の椅子からひょいっと飛び降りるとトテトテと部屋の外に出て行った。リタが置いていった本に目がいく。そこには俺の知らない文字で『空の神様』と書いてあった。すらっと読めることに違和感を感じる。そもそも俺に学はあまりない。けれどそれよりもっと根本的な違和感だ。知らない文字。記憶の中にある文字はすごく少ないけれど、そのどれとも違う文字。なのに何故、俺はその文字を読める……?首を傾げているとリタが部屋に戻ってきた。


「ハイ!ソーラだよ。体のどんな不調にも効く飲み物!!結構美味しいの。」


そう言って渡されたオレンジ色の可愛らしいマグカップの中には青い飲み物が入っていた。ドロッとしていて、あんまり美味しそうじゃない。え?なにこれ。


「知らないの?ソーラは神様の好物なのよ!!」


リタはそう言ってにこにこ笑った。神様。さっき読んでいた本もそんな題材だった。案外信心深いのだろうか。そう思いながら舌先で舐めるようにソーラと呼ばれる青くてドロッとしたものに口をつけてみる。


「!!」


美味しい。ドロッとしているけれど、そのせいかコクがあって、まろやかで甘くて美味しい!!俺はソーラをすぐに飲み干した。


「美味しかった……。」


息をつきながら言葉を漏らす。するとリタは目を丸くした。


「わ!喉の調子よくなったのね!!」

「あ……。あー……うん?」


確かに声は出るようになったようだ。


「良かった!!お母さんに伝えてくるね。」


そうして母親も俺の回復を喜んでくれたのだが、


「どこから来たの?」


その質問にどうにも答えられなかったので俺はまだ暫くこの家に滞在することになった。






「神様って何?」


一番気になることを聞いてみたらリタは目を丸くした。


「神様を知らないの?」


俺の知っている知識に神なんてものはいなかった。人が作り出した妄想としてはあったけど、大概は人が罪を犯す言い訳として使われていた。だから、そんな、子供が本で読んでいたり、神様の飲み物なんてものが流通してはいなかった。


(そう言えば彼女は、皆から神様って言われてたっけ。)


神様がいるなら……それはきっと……。




「神様の名前は漢字では空って書くの。読み方は諸説あるけど、私は『そら』って読んでるわ。」


リタは得意げに本を指差しながら俺に説明した。




神様は500年前にこの土地に現れて言ったらしい。


「この地の人間を救いましょう。全ての厄を持っていきましょう。」


そう言って神様は微笑んで大地と一緒になったのだ。すると大地には恵が溢れるようになり、空は澄み渡り、適度に雨も降った。神のおかげでこの地は救われ、豊かになった。


簡単に言えばこういう話らしい。そしてその神様は子供の姿をしているそうで、この辺りでは子供は神様の依り代として大事にされるらしい。



 リタは俺に空の神様の本を渡してくれた。神様は大地であり、空でもある。ソーラは神様が好きな飲み物で、どんな体の不調にも効く。そんなことが書かれていた。ソーラ自体は意外とどこでも取れてどこでも飲まれているものらしい。俺の喉も一発で直した飲み物がそんなに飲まれているのか。みんな健康なのでは?


「今度は村の友達ともそういう話をするの!」

「村?」


そう言えばこの家は森の中に一軒だけポツンとある。気づいたことを言えばリタは誇らしそうに


「私の家はね、神様がやっつけた化け物の目玉を封印しているのよ。」


と言った。


「化け物の目玉?」

「場所はお父さんしか知らないの。」


代々、一子相伝で化け物の目玉を封印しているらしい。村の中にあると危険なので村から少し離れたところで管理しているのだそうだ。そして村より遠くには町があって、そこには化け物の死体だと言われるものが安置されているらしい。目玉は封印しているのに、体は封印していないのか。この家にいるよりは町に行って情報を集めるほうが良いだろう。彼女がどこにいるのか当てもないのだから。俺は父親に町に行きたいと頼んだ。


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