太郎さんがゾンビになった日。
いやあ、ゾンビって、楽しい!
森を駆け抜け、林を駆け抜け、舞う鳥たちと、共に走り続ける!
ああ、これほど生きているという感覚を今まで味わったことがあったろうか。
足は軽く、私は子供のように走った。
人は気付いてから死ぬまで、生きているという感覚を忘れる生き物だとこの時思った。
人を人たらしめている、その根幹を担うモノ。それが魂なのかもしれないが、いや、そんな・・・・・・、しかし、これだけは分かっている。私は今幸福だ!!
これは宗教ではない。哲学でもない。生物学や精神医学でもなく・・・・・・ああ、そんな誰か心の内も分からぬ人間の言うような言葉では表したくない。そういう私だけの解放。
林を抜けきると、国道へ出て、太郎さんは真っ赤な車にはね飛ばされた。
しかし、それでも彼は立ち上がってまた跳ねる。
街まで行こう。“あのコ”に会いに行くのだ。
今なら純粋に彼女を想って愛せるだろう・・・・・・。
さあ、走れ、太郎。走って、走って、走って・・・・・・!
けれど、その瞬間。太郎さんの肉体は前方から来た一台のトラックに轢かれて破壊した。
この日、太郎さんは世界で初めてゾンビになったのである。