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奇跡の鍼灸師と俺様お嬢様  作者: 美都さほ
9/26

婚約者?の兄と弟の誤算

 

 物心付いた頃から僕の周りには大人の女性と男性しかいませんでした。

 祖父母、両親、二つ上の兄。使用人も殆どが男性でした。

 ゆえに…あの生き物に出会った時の衝撃は凄まじいものでした。


 兄のカズキは暴力的でいつも僕を泣かして楽しんでいました。

「カズキ坊ちゃま、坊ちゃまはお兄様なのですから弟のナツキ坊ちゃまを虐めてはいけません‼」

 執事の佐藤がいつも庇ってくれていた。


「違うね‼お兄様だから偉いんだ‼弟は兄の下僕なんだよ‼」

「いえいえ、弟が下僕になるのは姉であって兄では…じゃない‼コホン、兄は弟や妹を守って差し上げるものですよ?」

 佐藤の言葉に聞いた事の無い単語が出てきたのです。


「姉と妹って何ですか?」


「えっ?バカなの?女の兄弟の事だよ。一般常識‼」

「女の兄弟…?」

「ナツキ坊ちゃまはまだ幼いので分からないのですね?」

「高校生レベルの学力あるよ」

「なんと⁉一般常識を教える家庭教師を今すぐ手配して‼」

 この時はさほど気にする事もなかったのですが…小・中・高一貫の男子校付属の幼稚園に入って数ヶ月経った頃でした。

 生まれて初めて友人の誕生日会に呼ばれた日の事です。


「今日はお招きいただきありがとうございます」

「ナツキ君いらっしゃい。みんなもう集まっていますよ」

 友人の母親に促され会場に足を踏み入れました。

「ナツキ君いらっしゃい。さあ座って」

「お誕生日おめでとう。これプレゼントです」

 友人数人でケーキを食べたりゲームをしたりして楽しいひと時を過ごしました。

 そして一時間程経った頃扉が開き、その生き物が入って来たのです。


「お兄様、私も一緒に遊びたい」


 小さくて頭にリボンを付けたその生き物が友人に駆け寄ってきました。


「な…何ですか?この小さい生き物は⁉」


 しゃがんで頭や手を触ってみる。

「うわ~柔らかい⁉フワフワだ~可愛いな~」


「僕の妹だよ」


「妹⁉(こ…これが妹?妹とはこんなにも可愛い存在なのか‼)」


「お兄様、私いい子にしているからいいでしょう?」

 妹は可愛い声で友人の腕に縋り付きました。

「ああ。いいよ~お兄様達と一緒に遊ぼう」

 庭に出て鬼ごっこをしました。妹は小さい体で一生懸命駆け回り小鳥が囀る様に笑っていました。


(何て愛らしい生き物…まるで子猫のようだ‼)


 鬼になった僕は近くの友人達には目もくれず妹を追い掛け回しました。

「ほら、捕まえた」

「捕まっちゃった~うふふ。」

 妹は輝く笑顔で僕を見上げていました。


「妹、僕も欲しいです」


 妹の手を取り友人を見る。

「その子は駄目だよ⁉僕の妹だから!ナツキ君の妹には出来ないよ」

 友人の言葉にムッとした僕は妹をギュッと抱きしめました。


「真中家の力を使えば出来るかもしれません」


「お兄様~怖いよ~」

 妹は僕から離れ友人の元へ逃げて行く。

(はうっ‼僕もお兄様って呼ばれてみたい‼)

 妹を背中に隠した友人が僕にこう言ったのです。

「僕の妹じゃなくて、ナツキ君の妹を作ってもらえばいいじゃないか⁉」


「えっ?妹って作れるんですか?」


「ナツキ君のお父様かお母様に頼めば良いんじゃないかな?」

「分かりました。帰って作ってもらいます‼」


「お母様‼僕の妹を作って下さい‼」


 友人宅から帰宅後すぐに母に頼みました。

「い…妹?そ…そうゆう事はお父様にお願いしなさい」

 母には無理のようでした。


「お父様‼僕の妹を作って下さい‼」

「ブハッ‼」

 夕食の席で父にお願いすると、父は盛大に食べていた物を吹き出しました。

「ゴホッ‼ゴホッ‼い…妹?それは~お母様次第というか…最近手も握らせてくれな…」

「あなた‼」

 睨み付ける母に父が謝っていました。

「兎に角、今は無理かもしれないな…いや、絶対無理だな…」

 父の言葉に絶望した僕はどうにか友人の妹を僕の妹に出来ないか考えました。


「まず、真中家の力で友人宅を破産に追い込み…それから…」


 そんなある日、隣の屋敷に大きなトラックが何台も停まったのです。

 庭に出て見ているとリムジンのドアが開きました。


「あなた誰?覗いてんじゃないわよ‼」


 そして、天使が舞い降りてきたのです⁉


「レイナ‼失礼よ!」

 レイナと呼ばれたその天使は、長い髪に白い肌…手足は細く長く、凛とした顔立ち。白いワンピースを風になびかせ立っていました。


「あなたは真中さんのお宅のご子息かしら?」

「はい。真中ナツキと申します」

「私達は今日海外から戻って来たのよ、お隣同士仲良くしてね。レイナ、ご挨拶しなさい」


「西園寺レイナよ。あなたいくつ?」


「五歳です」

「レイナより一つお兄さんね」

 レイナの母親から発されたその言葉は僕の胸を貫きました。


「えっ…?お兄さん…?」


「今度、帰国の挨拶代わりにホームパーティを開くからナツキ君も来てね。それじゃあ失礼するわ」

「じゃあね、ナツキ」

「レイナ‼呼び捨てはいけません‼」


(僕がお兄さん?僕は兄だったんだ‼僕にも妹が居たんだ‼)


 後日、僕達家族は西園寺家のホームパーティに招待されました。


「レイナ‼お前今日から俺様の下僕になるんだぞ。いいな⁉」

 開始早々兄のカズキが妹に命令しました。

「あなたバカなの?この世から消えて‼」

 冷たい目のレイナもステキだ。

「生意気だぞレイナ‼泣かしてやろうか?」

「カズキ‼怒りますよ‼申し訳ございません。乱暴な息子で」

「ウチの娘も似たようなものです」

 僕は直ぐに佐藤の言った事を実行しました。


「兄さん駄目だよ‼妹は守ってあげないと⁉」


「妹?」

 何言ってんの?と首を傾げる兄。

「レイナは僕達の妹だよ?この前レイナのお母様が僕の事一つお兄さんねって言っていたから」

「ナツキ、お前のバカまだ治ってないのか?血の繋がらない他人が兄妹なわけ無いだろうが⁉一般常識‼」

「こんな兄いたら家出するわ‼」

 レイナが兄を指差し顔をしかめていましたが僕にはもう何が何だか分からなくなっていました。


(妹じゃない…?)


「そう言えば少し前に女の兄弟欲しがっていたな?ナツキ」

 打ちひしがれた僕に悪魔の囁きともとれる父の声が届いた。


「だったら…カズキとレイナちゃんが結婚すれば良いんじゃないか?ナツキに義理だけど女の姉弟が出来るぞ」


「義理の兄妹…」


「よし‼レイナ、お前は俺様のお嫁さんになれ‼」

「断る‼」

 何故かレイナの父親が答えました。

「あなた‼子供の言う事に本気にならないでちょうだい⁉」

「大丈夫よ。こんなヤツのお嫁さんになるなんてあり得ないから⁉」

「フフフ…それはどうかな?真中家を甘く見るなよ?必ず嫁にしてみせる‼」


(全力で応援します。兄さん‼)


 ◆◇◆◇◆


 西園寺邸。

 日曜日、警察署は休み。レイナはリビングで寛いでいた。


「お嬢様、お茶がはいりました」

 緑川警察署に連行され課長の寛大なる処置で釈放された天野が紅茶を差し出す。

「ありがとうございます、天野」

 一服盛ろうかと思案した結果、今度こそ刑務所行きと諦めた天野だった。


 ドタドタドタ‼


「兄さん駄目ですよ‼レイナは今、普通の状態じゃないんですから⁉」

「うるさいナツキ‼下僕の分際で兄に逆らう気か?」

 バタン‼リビングの扉が開く。


「おい嫁‼会いに来てあげたぞ‼」


「何奴⁉」


 レイナの瞳がキラリと光る。

「カズキ‼歯~食いしばれ‼」

 レイナがカズキに殴り掛かる。

「待っていました!お嬢様⁉」

 天野がパチパチパチと手を叩き喝采を上げる。


「フン‼甘いな⁉」


 カズキはレイナの攻撃を次々とかわす。

「お嬢様の攻撃をいとも簡単にかわすとは…何て勿体無い…コホン、お強い⁉」

「兄さんもレイナも止めてください‼」

「カズキ避けるな⁉」

 レイナの言葉にニヤリと笑い構える。


「分かったよ」


 カズキは殴り掛かってきたレイナの両手を受け止めそのまま絡め捕り身体ごと壁に押し付ける。


「何をそんなに怒っているんだ?俺の嫁は?」


 レイナの顎を持ち上げ顔を近付ける。

「放せ!カズキ‼」

 ジタバタと抵抗し睨み付けるレイナ。

「それが夫に対するセリフか?お放し下さいませ旦那様だろ⁉」

「無断で屋敷に忍び込んできて居直る気か⁉」

「は?無断で?家族同然の付き合いで許可が必要か?」

 いつもの事だろう?と肩をすくめる。


「家族同然…?家族…そうですね、許可は要りません」


「やけにしおらしいじゃないか…でも許しを請うまで放してはやらないぞ?」

 急に力を抜いたレイナを訝しげに見るも、その手には乗らないぞと手に力を込めて顔を近付ける。


(ハッ⁉これはもしかすると…⁉)

 ナツキが目を見張る。


「ほら、言ってみろ?カズキ様のお嫁さんになりますから放して下さいって⁉」

 レイナの耳元で囁くカズキ。


「カズキ様のお嫁さんになりますから放して下さい」

 上目遣いで懇願するレイナ。


「何っ⁉」


(は~僕の念願が叶います‼)


「誰だお前は?ナツキ‼こいつはレイナの偽物だぞ⁉」


 ◆◇◆◇◆


「お茶をどうぞ」

 天野は紅茶を置くとカズキの後方へ下がる。


「奇跡の鍼灸師?」


「レイナは今、その鍼灸師の施術で誰の言う事も聞いてしまう状態なんです」

 ナツキはここ数日の出来事をカズキに説明した。

「ん?最初に攻撃してきたのは誰の命令だ?お前か執事?」

 ギロッと後ろを向く。

「とんでもございません旦那様‼お嬢様は法に触れる行いを見ると本来のお嬢様に戻られるのです」

 実験の結果を掻い摘んで説明する。


「何だかややこしい体質だな!早くそいつを捕まえてレイナを元に戻せ‼」

「えっ?今がチャンスですよ兄さん‼何度求婚しても無下にされてきたじゃないですか?」

「俺はこの手で傲慢なレイナを服従させたいんだよ‼」

「だから今がその好機で…」


「従順な奴をいたぶって何が楽しい?」


「えっ?」

 驚くナツキ。

「え~⁉」

 もっと驚く天野。


「俺に逆らい抗う者を俺の力で捻じ伏せ苦痛に歪むその顔を見たいのさ」

 目を細め薄く微笑むカズキ。

「レイナは絶対ひれ伏したりしませんよ?だから…」

「ナツキ、やけに必死だな?まさかお前まだ女の兄弟欲しがっているとかないよな?」

 弟の焦った態度に疑問を抱き問い詰める。


「僕は妹が欲しいんです‼兄さんとレイナが結婚すれば正真正銘の僕の妹になるんです‼」


「お前まだバカ治ってないのか?俺とレイナが結婚してもお前の妹にはならないぞ‼」

「お父様が言っていました!兄さんとレイナが結婚すれば義理だけど僕の兄妹になると‼」


「だから…妹じゃなく姉になるんだよ‼一般常識‼」


「へっ?」


 ◆◇◆◇◆


 天界、神の宮殿。


「王妃様のお力を?」


 ミカの言葉に喜びが顔に出るトウヤ。

「ああ。快くお引き受けして下さった」

「王妃様にどんなお願いをされたのですか?」

「お前を緑川警察署の刑事として派遣させる事にした」


「私が刑事に?」


「そうだ。悪魔を追うレイナを止められないなら身近で守ってやる必要がある。派遣元の警視庁の人間に王妃様が暗示を掛けて下さった」

「しかし私は刑事数人に顔を見られていますよ?」

 顔を曇らせ問い掛けるトウヤ。


「何を言っている。お前は変化能力に長けているだろう」


 ◆◇◆◇◆


 翌朝、緑川警察署。


「今日、警視庁から刑事が移動してくるそうですよ?」

 白井がナツキに声を掛けながら入って来た。

「…」

「真中先輩?どうしたんですか?顔黒いですよ(魂も真っ黒‼浄化対象だな)」


「僕に妹が与えられないと言うのなら、世界中の妹を真中の力で抹殺する」


「うわっ⁉闇落ち真中誕生している」


「おはようございます」

 上品なワンピースに身を包んだレイナが入って来た。

「先輩、おはようございます」

「おはようございます。ナツキ兄様」

 レイナを一瞥したナツキが無表情のまま答える。


「レイナ…もう兄様と呼ばなくていいです…」


「ええええ⁉ホントどうしちゃったんですか真中先輩⁉」

 尋常ではない事態に驚きを隠せない白井が叫ぶ。

「…放っておいてください…」

 そう言って机に突っ伏し深く溜息を吐くのだった。


「何があったんです?」

 ナツキを横目に見ながらレイナに問い掛ける。

「天野の話だと、幼い頃から妹が欲しかったナツキさんが私を妹にしようとしていたんです」

「はい、知っています。ここに居る人全員が」

「それで、兄のカズキさんと私を結婚させようとしていたんです」

「ん?意味が分からない…」

「結婚して兄弟になっても姉にしかならないと昨日知って…」

「ああ。なるほどねってバカ?一般常識無いのこの人⁉」


「兄さんと同じ事を…殺すぞ白井‼」


 ガバっと顔を上げたナツキが白井に殺意を向ける。

「まあまあ落ち着いて下さい真中先輩‼」

 ナツキをたしなめレイナに耳打ちする白井。

「このままだと何かとんでもない事を起こしそうなので…」

「…はい。分かりました」

 レイナはナツキに近付き耳元で囁く。


「血は繋がっていなくても私はナツキさんの妹だよ、ねっ?にぃに‼」


 ガタンと椅子を倒し立ち上がる。


「に…にぃに…?」


 小刻みに震え宙を仰ぐ。


「聞いたことがある…にぃに、それは…兄の最上級呼称⁉兄の誰もが一度は呼んで欲しい呼称ランキング一位‼」


「聞いたこと無いけど?」

 白井が静かに突っ込む。

「レ…レイナ、もう一度呼んでくれませんか?」

「にぃに」

「はうっ⁉」


「はい。完全復活‼」


 延々もう一度を繰り返すナツキだった。


 ◆◇◆◇◆


「今日から我が署に犯罪撲滅キャンペーンとして、警視庁から応援が来ました」

 藤原が派遣された女性を紹介する。


「天童トウコです。皆さん、宜しくお願い致します」


 数時間前の天界。

「女性に変化すれば誰もお前だと気付かなし同姓だとレイナに近付き易い」

「なるほど…警察犬になれと言われるかと思いました」

 トウヤはホッと胸をなでおろす。

「くれぐれも男だと悟られるなよ」

「お任せ下さい。人間の女性の事は数十年間の修行の中でよく見ていましたから(アニメで)」

「そうか。ではレイナの事頼んだよ(何だろう?急に不安になってきた)」

「はい。レイナ殿を悪魔から守ってみせます(全力でツンデレを演じます)」


「天童君はウチの課の新垣班に入ってもらう」

 三木が頼んだぞと新垣を見る。

「了解しました。よろしく天童君」

「よろしく」

 挨拶した後ツンと横を向く天童。


「可愛い顔して感じ悪いっすね天童さん。って聞いてます?真中先輩‼」

「にぃに…血は繋がっていなくてもレイナは妹。んふふ…」

「全然聞いてない‼」

 白井は深い溜息を吐いた。


 朝礼が終わり新垣班のメンバーが揃う。

「天童君、班のメンバーを紹介するよ。各自自己紹介して」

 最初に名乗りを上げたのはレイナだった。

「西園寺レイナです。仲良くしてくださいね?天童さん」

「仲良くするからっていい気にならないでよね‼レイナ殿」


「殿⁉」


 新垣と白井が同時に声を上げる。

「レイナの兄の真中ナツキです」

「兄?」

「只の妄想だ、気にするな」

「白井ソウマです。天童先輩って呼んでいいですか?」

「気安く呼ばないでよね⁉トウコちゃんって呼びなさいよ…ツンッ‼(ソウマ?王の従者のソウマ様に似ているが…違うよな?)」

「…最後に班長の新垣マコトだ。よろしく頼む」


「はい、これ」


 天童がおもむろに紙袋を渡す。

「ん?ドーナツ?」

「別にあんた達の為に買ってきた訳じゃないからね?固くなる前に食べてよね‼」

 そう言うと再びツンッと横を向く。


「何か変わった人来ましたね…」

「警視庁が手に負えなくて押し付けたんじゃないか?」

 新垣と白井が小声で耳打ちする。

「さあ早く仕事始めなさいよ‼遅くなるとあんた達の健康を害するわ‼」

 仕切りだした天童を新垣が呼び止める。


「あ~天童君、先に伝えたい事があるんだ。西園寺の事なんだが…」

 レイナを横目に耳打ちする。

「レイナ殿の?」

「西園寺は今とある犯罪者の術に掛かって普通じゃない状態なんだ」

「ええ。聞いているわ」

「そうか…その犯罪者を俺たちは今追っている」

 天童に神野ナギの写真を見せる。


「神野ナギ。巷で奇跡の鍼灸師と呼ばれている凶悪犯だ‼」


「…」


 天童、写真を見て青ざめる。

「ん?どうした天童君」

「どうもしないわよ‼心配してくれてありがとう…ツン‼」

 天童は動揺を見せないように後ろを向く。


(何やっているんですか~⁉ナギ王子‼)




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