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奇跡の鍼灸師と俺様お嬢様  作者: 美都さほ
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兄弟天使

 マサトは下界に降りるエレベーターの中で昔の出来事を思い出していた。


 ガシャーン‼

  手が滑って花瓶を落としてしまった。

「ああ⁉どうしよう…」

 オロオロとしたマサトの後ろで声がする。


「マサト!ダメだよ‼花瓶に触っちゃ‼」


 破片を拾おうとした手をマヒロが掴む。

「兄上…」

「破片は手を切りやすいんだ‼私がやるよ」

 破片を拾い集めるマヒロ。

「ああ…」

 破片で手を切ってしまった。

「兄上‼手から血が‼」

 涙ぐみながらマヒロの手を見つめる。


「大丈夫だよ。このくらい何ともない…ホント何ともない!」


(兄上…なんとお優しい方なんだ…私が心配すると思って何ともないと仰って…)

「この花瓶は母上が大事にしていた物だね…ゴクン…」

 生唾を飲み込む。

「あっ!どうしましょう?酷く怒られてしまいます…」

「大丈夫ですマサト。この兄が割った事にすればいい」

「何を仰っているのですか?兄上が罰を受けます‼」

「それがい…コホン、それでいいのです」

「兄上?」

「お前が罰を受ける姿など羨ましく…コホン、可哀そうで見てられません‼」


(その後も私が粗相をする度、身代わりになってくれた兄上…一体どこへ行ってしまわれたのだろう…兄上…)


  ◆◇◆◇◆


 西園寺邸。

 天野は台所でヤケ酒を飲んでいた。


「何の為に何年も我慢してきたと思っている‼」

 ガシャーン‼怒りに任せグラスを放り投げる。

「感謝しますペコリだと?主が簡単に頭下げるな‼」


「何の音かしら?」

 グラスの割れる音に気付いたレイナが部屋を出る。


「もう限界だ‼こんな家出てやる‼」

 フラフラと外に出る。


「玄関のドアが開いたままだわ」

 玄関から外を覗くと天野が車に乗り込みそうになっている。

 その姿を見た瞬間、レイナの眼がキラリと光る。


「ゴミムシ天野――‼」


 レイナは駆け出し天野を車から引きずり出し思い切り殴る。

「ふえっ?お嬢様?」

 驚きと興奮で目がテンになる。

「天野お前、酔っているのに運転するつもりか?」

 ギリギリと襟首を絞め上げるレイナ。

「い…いえ…私は…」

 締め上げられて声にならない。


「レイナ‼よしなさい‼」

「これ以上やると死ぬぞ‼」

 暗がりから出てきたナツキと中村に止められ手を放す。

「ゼーゼーゼー」

 地面に両手をつき息を整える天野を踏みつけるレイナ。


「一体どういうつもりだ⁉西園寺家の執事ともあろうものが飲酒運転とは…万死に値する‼」


 思い切り踏みつけられた天野が地面に食い込む。

「真中…西園寺レイナ元に戻っているみたいだ」

「ですね。様子を見ましょう」

 コソコソと耳打ちする二人。


「誤解ですお嬢様‼私は車の中の荷物を取りに来ただけですよ~‼」

 必死に顔を上げ弁解する。

「荷物を取りに来ただけ…?」

「はい。それに私は運転免許持ってないので車の運転出来ません‼」

 車はレイナの物で運転もレイナ自身がしていた。

「運転出来ない…」

「信じてください、お嬢様~‼」

 レイナに縋り付き泣きじゃくる。


「はい。信じます」


「えっ?」

 レイナの態度の急変に驚く三人。

「またか…」

「昼と同じ現象です」

 二人の言葉にピクリと反応する天野。


「またか…とは?」


「西園寺レイナは昼間、追っている犯人と遭遇した時、一時的に元に戻ったんだ」

「元に…戻った…?もっと詳しく聞かせてください‼」

 立ち上がり中村にグイグイ迫る。

「おい貴様‼近い近い‼」

「神野が命令したとばかり思っていましたが…」

 ナツキが顎に手をやり考え込む。

「まさか貴様、西園寺レイナに殴るよう命令したんじゃないだろうな?」

 天野をギロリと睨む。

「好きこのんで殴れと命令する人いませんよ?」

 ナツキが呆れ顔で中村を見る。


「あああ!その手があったか⁉」


 失念していましたと頭を抱える。

「えっ?」

「いえ。お気になさらず」

 天野は服の泥をパンパンとはたく。 


「ところで…さっきから気になっていたのですが、お二人はどうやって敷地内に入られたのですか?門の施錠は完璧なはずですが?」

 青ざめる二人。

「それは…その…」

 再びレイナの眼がキラリと光る。


「ナツキ‼小型犬‼歯~食いしばれ‼」


 殴りかかろうとするレイナ。

「えええ‼また~?」

 慌てる二人。

「違うんだ!西園寺レイナ‼署長に頼んで敷地内での護衛の許可を貰ったんだ‼」

 中村が必死に弁明する。

「護衛の許可…」

「そうだよ。だから殴らないで‼」


「はい、兄様。殴りません」


 天野はレイナの急変する言動を静かに見ていた。


「はあ~情緒不安定な奴みたいだな」

 冷や汗を拭いレイナを見る。

「そうですね。課長が言ったように術が解けかかっているんでしょうか?」

「お嬢様、明日もお仕事です。早くお休みください」

 突然レイナに言葉を掛ける天野。

「はい。休みます」

 天野は屋敷に入って行くレイナを確認して二人に向き合う。


「お二人にお願いがあります。明日お嬢様にお休みを頂けないでしょうか?」

「休み?何でまた」

「性急に確かめたい事があるのです」

「確かめたい事?何だそれは?」


「今は言えませんが、お嬢様が元に戻る原因が分かるかもしれません」


「それは本当か⁉よし分かった!真中が何とかしてくれるだろう。圧力で‼」

「真中家使わなくても休みくらい取れます」

「そうですか、良かった。では明日の夜ここに来て頂けますか?」

「頼まれなくても忍び込む予定だったが?」

 真顔の中村。

「よろしくお願いします」


 そう言って深々と頭を下げる天野の顔は笑っていた。 


 ◆◇◆◇◆


 ナギのマンション。


「僕の護衛?」


「はい。優秀な天使が派遣されるそうです。そろそろ到着すると思いますが…」

 ピンポーン!

「きっと彼です。出迎えてきます」

 暫くしてソウマが天使を連れて来た。


「マサトに御座います。王の命でナギ王子の御前にまかり越しました」


 跪き頭を下げるマサト。


「キャーッ‼」


 ナギは両手で口を押える。

「ソウマ‼これこれこれ⁉これが王子に対する態度だよ~」

 そう言ってソウマの肩をバシバシ叩く。

「見習って見習って‼」

「うるさい!」

 バシッ‼

 ナギを払いのけようと振り上げたソウマの腕をマサトが掴む。


「おやめ下さい。ソウマ様」


「やだー!ソウマが怒られてる~」

 やーいやーいとはしゃぐナギに冷たい視線を送るソウマだった。


「マサトは人間を一瞬で眠らせる能力を持っています。追ってくる輩はそれで対処できるでしょう」

「お任せ下さい。人間など能力を使わずとも眠らせてみせます」

「キャー⁉頼もしい‼」

 相変わらずのナギのはしゃぎっぷりにイライラしながらもマサトの言葉にピクリと反応する。

「お前まで犯罪者になるつもりか?穏便に済ませろ‼」


「お前まで犯罪者?」


 マサトはソウマの言葉に不穏な空気を感じる。

「問題は…西園寺レイナに付いている天使です」

 話が進みその場は流した。

「偶然、居合わせたんじゃないの?」

「もしかすると彼女は天使の祝福を受けているのかもしれない」

 一緒に仕事をしていて稀に見る美しい魂の持ち主であると言う事はソウマも気付いていた。

 そんな彼女を天使が放っておく筈がない。

「あっ‼僕の術が完璧じゃ無いのはそのせい?」

「王妃の側近を務める程の力の持ち主だから加護も相当なもの」


「王妃様の側近?ミカ様の事ですか?」


「そうそう!そのミカの弟子って言うトウヤって奴に僕、攻撃されたんだ」

「えっ⁉トウヤ様が?何かの間違いじゃ?先ほども天界でお会いしましたしトウヤ様が王子を攻撃するなんて考えられません‼」

 マサトの言葉に頷くソウマ。

「ああ…考えられない。と言う事は王子を悪魔か何かと勘違いしているのだろう」

「神を悪魔と勘違いするなんて不敬にも程がある⁉」

 頬っぺたを膨らませるナギ。

「天使の祝福を受けた彼女に王子が術を掛けミカの知るところとなった…面倒な奴に術掛けやがって…くそ王子‼」

「ソウマ…心の声、また漏れているよ」

「トウヤに正体を知られたらアウトです。きっと王宮に知られてしまう」


「あの…先ほどから犯罪者だの王宮に知られたらアウトだのって何ですか?話が見えないのですが…」


 二人の会話について行けないマサトが疑問を投げかける。


「ああ…ナギ王子、下界で指名手配されているから」


 マサトの疑問にストレートに答えるソウマ。

「はい?マフィアと言う輩に狙われているのでは?」

「狙っているのは警察だ」

 驚愕の事実に呆然とする。

「今からお前も共犯だ。王子が警察に捕まらないよう護衛し、王宮にバレないよう隠すんだ。いいな?」

「分かりました…聞いたからにはこのマサト、この身を挺してナギ王子をお守り致します‼」

 跪くマサト。

「わぁっ‼ここまで聞いても僕を守ってくれるなんて…何て忠誠心の強い奴」

「兎に角、西園寺レイナにだけは近寄らないで下さい、いいですね‼」

 念を押し立ち上がる。

「頼まれても近付かないよ!」

「じゃあ後は頼みます、マサト」

「はい。この身に代えてもナギ王子をお守り致します」

「キャーッ‼」

 舌打ちしてソウマが出て行く。


「ナギ王子。何か御用はありませんか?何でもお申し付けください」

「そうだなぁ…じゃあ晩ご飯作ってくれる?」

「畏まりました」

 台所へ消えるマサト。

「うわーいいね!いいね!マサトいたら陰険ソウマ要らなくない?王子が気を遣う従者なんてあり得ないもーん」

 ガシャーン‼パリーン‼台所から大きな音が聞こえる。

「えっ?マサト?」

 ナギは慌てて台所に駆け込んだ。


「ゲッ⁉」


 食器は割れ、調理器具は散乱し、鍋は煙を出していた。

「ナギ王子。もうすぐ出来ますからお待ち下さい」


「煙の出てる鍋で一体何が出来るの?」


 プルルルル。ナギの携帯電話が鳴る。

「はい…僕だけど…」

 ⦅言い忘れていましたが…マサトに警護以外の事はさせないで下さい。警護以外は壊滅的に不器用ですから⦆


「既に台所壊滅だよ‼早く言え‼」


 ◆◇◆◇◆


 次の日、西園寺邸。

 コンコン。ガチャ。


「おはようございます。お嬢様」


 天野がレイナの部屋に入る。

「おはようございます。天野」

「今朝、警察署から連絡がありまして今日一日お休みするようにとの事です」

「そうですか。分かりました。お休みします」

「夕べ、汗をかかれたみたいでしたのでお風呂を準備しております。どうぞ汗を流してきてくださいませ」

「はい。ありがとうございます。お風呂で汗を流します」


「行ってらっしゃいませ」


 お辞儀をしながら不敵な笑みを浮かべる。


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