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奇跡の鍼灸師と俺様お嬢様  作者: 美都さほ
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堕天使?執事

 数年前の天界、女神アマネ邸。


「アマネ様が婚約?」


 薔薇園の手入れをしていた使用人がマヒロに耳打ちする。

「ああ、近々発表があるらしいぞ」

「相手は誰なんだ?」

「聞いて驚くな…何とナギ王子なんだって」


「ナギ王子だと⁉」


「声が大きいぞマヒロ‼」

 慌ててマヒロの口を塞ぐ。

「あんなチャラチャラしたニート王子に嫁ぐというのか⁉正気かアマネ様は⁉」

 ナギの噂を耳にしていたマヒロが悪態をつく。

「何でも舞踏会で知り合って意気投合!アマネ様はイケメンと権力に弱いから…」

「何てことだ…アマネ様が不幸になるのが目に見えている…」

 苦悩するマヒロ。


「私のご主人様をあんなチャラ王子に渡してなるものか‼」


 こうしてはいられないと花瓶に生ける筈だった薔薇を放り投げ駆け出し

た。


 ◆◇◆◇◆


 女神アマネの部屋。


「ご主人様‼」

 勢いよく扉を開けて部屋に入るマヒロ。


「突然入るなと何度言えば分かる!この不届き者‼」


 バシーーーン‼

 アマネの右手がマヒロの頬を思い切り打ち付ける。


「ああ…」


 眼を潤ませ恍惚とするマヒロを毛虫でも見るような目で見るアマネ。

「喜ぶな‼気色悪い⁉」  

 次は手にした扇子を叩きつける。


「はうっ…」


 マヒロは扇子を拾いアマネの前に跪く。

「ご主人様…もう一度」

 扇子を差し出すマヒロ。

「調子に乗るな‼」 

 扇子を受け取りマヒロの額をグリグリする。

「ああ…ご主人様は何てお優しい」


「で、何の用だ?マヒロ。大した用じゃないなら後にしろ‼私は忙しい」

 胸元に仕舞う扇子を名残惜し気に見つめながら立ち上がる。

「重大な用ですよ、ご主人様⁉」

「重大な用?」


「ナギ王子とご婚約なさると聞きました」


「何だ、もう知れ渡っているのか」

 ニヤリと口角を上げる。

「何だじゃありません⁉ご主人様は正気ですか?」

「ほーう?私が乱心しているとでも言うのか?」

 冷ややかな瞳に見据えられゾクッと震えるマヒロ。

「ご主人様はナギ王子の数々の悪行をご存知ないのですか?」

「知らずとも何の問題も無いが?」

「問題だらけですよ⁉公務はしない‼女神にはだらしない‼暴言は吐く‼ニート王子ですよ‼」


「だが、イケメンだ」


「すぐに浮気しますよ‼」


「だが、イケメンだ」


「顔が良ければクズでもいいのですか~?」

 崩れ落ちるマヒロ。

 アマネはマヒロの顎を扇子で持ち上げフッと笑う。


「権力だってあるじゃないか」


 目を細め言い放つ。

(ああ…何て冷たい目。その見下す角度で言い放たれるとノーが言えなくなる。どこまでもついて行きますご主人様‼)

 悦に浸るマヒロだったがノックの音に我に返る。


「アマネちゃん来たよ~」

 手を振りながらナギが笑顔で入って来た。


(出たな!悪の根源‼)


「まあ⁉ナギ王子⁉お待ちしておりましたわ」

 ドカッ‼

「ああ…」

 マヒロを蹴り倒しナギのもとへ行くアマネ。

「お待たせ~デートどこ行く?」

 ナギはアマネの肩を抱きながら歩き出す。

「ナギ王子とならどこへでも…」

「じゃあ、ドライブにでも行こうか?」

「本当ですか?アマネ嬉しい」

 ウットリと上目遣いでナギを見つめる。

 アマネとは裏腹に怒りの眼差しを向けるマヒロに気付くナギ。


「アマネちゃん、あの天使君どうしたの?怒っているみたいだけど…」

「あれはただの置物ですよ。さあ行きましょうナギ王子」

 二人仲良く出ていく。


「アマネ様…あなたに上目遣いは似合いません‼でも…置物扱いグッドです」


 ◆◇◆◇◆


「聞いたか?ナギ王子、天界から追放になったらしいぜ」


 婚約発表から数日後、その知らせは届いた。

「それは本当か⁉」

「ああ。王妃の逆鱗に触れ下界に落とされたってさ」

「ではアマネ様との婚約の話も…」

「無かった事になるだろうな」

「良かった~あんなゲス野郎に私のご主人様は釣り合わない‼」

 マヒロは軽い足取りでアマネの部屋へと急ぐ。


「ご主人様‼」


 いつものように勢いよく扉を開ける。

(平手打ちカモーン!)


「…」

 

 何時までもやって来ない衝撃に目を開けアマネを見る。

「あれ?ご主人様?」

 

「ああ…マヒロか…」 

 アマネは焦点の定まらない目でマヒロに顔を向ける。

「ご主人様?どうされたんです?」

「…」

「ご主人様⁉」


「ナギ王子が…ナギ王子が天界から追放されてしまった…うっうっ…」

 ポロポロと涙を流すアマネ。


「えええ?」


 アマネの涙にドン引きのマヒロ。

「しっかりしてくださいご主人様‼あんなチャラ王子追放されて当前です!婚約が破棄されて良かったですよ‼」


「…良くない…」


「へっ?」

「全然良くない…うわーん‼」

 とうとう大声で泣き崩れてしまった。

「ご主人様⁉」

 慌てて抱え起こすマヒロ。

「やっとモノにしたドストライクな顔だったのに…」

「大丈夫ですよご主人様‼他にもイケメンは沢山います‼」

 アマネはマヒロに縋り付く。


「ナギ王子じゃないと嫌…」


 キラキラした涙目で訴えかける。

 鳥肌が立つマヒロ。


(誰だこいつは?恋する乙女の目をしたこいつは一体誰なんだ⁉私の冷酷なご主人様はどこに消えた~‼)


「ナギ王子~うわーん‼」

 マヒロは呆然と立ち尽くす。


 ◆◇◆◇◆


 神の宮殿前で泥酔しているマヒロ。


「恋する主人様なんて…あんな腑抜け私は認めない‼」


 フラフラと宮殿内に入る。

「おい‼そこの者止まれ‼ここは王の宮殿だぞ‼何用だ⁉」

 門番の静止を無視して中へ入るマヒロ。


「全部あのチャラ王子のせいだ…」


「止まれと言っている‼」

 追いかける門番。

「どこだ?チャラ王子‼私が抹殺してやる‼出てこい‼」

 門番に腕を掴まれ振り返る。

「邪魔をするな‼」

 マヒロは門番目掛け光の矢を放つ。

「ギャー」

 倒れ込む門番。


「隠れても無駄だ‼」


 奥へ奥へと進んで行きやがて立入禁止エリアに入ってしまった。

 そしてエレベーターの前に立つ。


「ここだな~?」


 泥酔しているマヒロは扉を開けた瞬間足がもつれ…


「へっ?あああああああ!」


 下界へと落ちる。


 ◆◇◆◇◆


 下界、夜の公園。


「おい、須藤。こっちで変な音がした、確認するぞ」


 巡回中の新米警察官のレイナが同僚の須藤に声を掛ける。

「了解した。が…西園寺…先輩を呼び捨ては良くないぞ?」

「ああ?」

「いえ、何でもないです」

 二人が音のした方に駆けつけるとズタボロ姿の男が倒れていた。


「おい!大丈夫か?誰にやられた?」

 揺さぶられ目を覚ました男は天界から落ちてきたマヒロだった。

 落ちた衝撃と泥酔状態のせいでエレベーターホールの結界を抜け此処までフラフラと彷徨い力尽きて倒れたのだった。


「ん~?ここはどこだ?」


 キョロキョロと辺りを見回す。

「うわっ酒くさっ‼」

「何だ、只の酔っ払いか」

 自分に話し掛けてきた二人に視線を合わせ青ざめるマヒロ。


「お前達は人間?まさかここは下界なのか?」 


 徐々に覚醒し状況を把握する。

「相当酔っているな、言っている事が支離滅裂だ」


(なぜ私が下界にいるのだ?何も覚えていない…)


 頭を抱えてうなだれるマヒロに優しく話し掛ける須藤。

「気分が悪いのか?飲みすぎだぞ!」


(そうだ!腑抜けなご主人様に幻滅して酒を浴びるほど飲んで…それから…?)


「家は分かるか?送ってやろう」

 須藤はマヒロに手を差し出す。

「うるさい人間め!放っておいてくれ‼ご主人様無き今、私はもうどうなってもいいんだ!」

 出された手を振り払いそっぽを向く。

「私達は警官だ。酔っ払いを保護するのも仕事なんだ」

 レイナが穏やかに声を掛ける。

「偉そうな口を叩くな小娘‼私を誰だと思って…」

 ドカッ‼

 マヒロはレイナの足で言葉ごと踏みつけられた。


「知るかゴミムシ‼公務執行妨害で逮捕するぞ‼」


(えっ?えっ?何だこの甘美な感覚は?)


「こらこら西園寺、やめないか」

「私は仕事をしているだけだ」

 グリグリとマヒロの頭を地面に食い込ませる。


(人間の小娘ごときにこの私が幸せを感じる筈は…)


「駄目だって。兎に角署に連れて行こう。君立てるか?」

 レイナをいさめて再度マヒロに手を差し出す。


(そんな筈は…)


 寝転がったまま首を左右に振るマヒロ。

「立てないのか?よし私が立たせてやろう」

 レイナはマヒロのネクタイを掴み持ち上げる。

「ああ~首絞まる首絞まるから⁉」


(ある‼)


 ◆◇◆◇◆


 某交番。


「屋敷の主人に追い出された執事?」


 椅子に座り話を聞いているレイナ。

「はい。それでヤケ酒を…ご迷惑をお掛けしました」

 床に正座し土下座するマヒロ。

「西園寺、彼も反省しているようだから椅子に座らせてあげて」

「いえ‼お気遣いなく‼」

 真顔で断った。


「これからどうするつもりだ?実家にでも帰るか?」

「いえ。私にはもう帰る場所がありません」

「西園寺、お前の屋敷で雇ってあげたらどうだ?」

 須藤が半分冗談で提案する。

「えっ?屋敷?」

 顔を上げ須藤を見る。

「名前くらい聞いたことあるだろう?彼女は西園寺グループのご令嬢だ」

 天界生まれで天界育ちのマヒロは知る筈も無いが全力で持ち上げた。

「スーパーお嬢様だったんですね」

「そう言えば父さんが執事を欲しがっていたな…どうだ、ウチで働いてみるか?」

 天界にも昇れそうな心地で勢いよく頷く。

「キリキリ働かせて頂きます」

 目を輝かせ床に頭を擦りつける。

「ところで…お前、名前は?」


「天野とお呼び下さい、お嬢様」


 ◆◇◆◇◆


 西園寺邸、レイナの部屋。


「おはようございます、お嬢様。お食事の準備が整いました」

 勢いよく扉を開ける天野。

「天野‼ノックもせずに開けるなと何度言ったら分かる!このゴミムシが‼」

 スパパパーン‼レイナの往復ビンタで崩れ落ちる天野。

「こんな無礼な奴、どこの屋敷で雇われていたんだ?私が教育しなおしてやる‼」

 天野を踏みつけ出ていくレイナ。


(ああ…お嬢様の往復ビンタ、お嬢様の罵声…至福なこのひと時。天界での生活がままごとに思えてきます)


 急いでレイナの後を追う天野。


(調教と書いて教育と読む。そういう事ですよね?お嬢様。一生お側にいます)


 数日後…。


「T国に事業拡大?」


 キョトンと首を傾げる天野。

「向こうに連れて行く執事が欲しかったんだよ。丁度いい時に来てくれたな天野」

 レイナパパが天野の肩をパンパン叩き豪快に笑う。

「頑張れよ?天野」


「ああああ…お嬢様~」




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