奇跡を起こす鍼灸師
「カオリ…これはどう言う事ですか?説明なさい‼」
藤堂サオリが冷ややかな目をカオリに向けていた。
藤堂邸の近くに潜伏していたカオリとソウマ。神野発見と共に踏み込む事になっていたのだが、レイナの行方不明の知らせを受けパーティーが終わるのを待ち家宅捜査に踏み込んだのだ。
「神野ナギ蔵匿の疑いで家宅捜査をします!これが令状です」
内心びくつきながらそろそろと令状を差し出す。
もぎ取るように受け取り内容を確認すると「フン!」と言って突き返した。
「このような犯罪者など匿ってはおりません!即刻出て行きなさい!」
「確かな情報を掴んでおります」
チラリとシオリに視線を移すとビクリと肩を震わせた。
確定だなと思ったカオリは強気に出る。
「これ以上隠し立てすると藤堂家の為にはなりませんよ?」
何時に無く強気なカオリに戸惑いながらも藤堂家当主の威厳を見せる。
「勝手に探しなさい!ただし、間違いならそれ相応の責任を取ってもらいますからね?」
「分かりました、皆さん居間でお待ちください」
藤堂家の皆と使用人が居間に集められ、数人の刑事達によって捜索が始まった。
「藤堂さん、あの当主相手に堂々としていたじゃないですか」
ソウマが指揮を執るカオリに声を掛けてきた。
立ち止まったカオリが振り返らず言葉を返す。
「新垣先輩を元に戻す為なら…相手が鬼だろうと怯みません」
「恰好良かったです!さあ!先輩と神野を探しましょう!」
ポンっと肩を叩いた拍子にカオリがその場に崩れ落ちる。
涙目のカオリがソウマを見上げる。
「超怖かった…」
◆◇◆◇◆
「ホームパーティって藤堂家だったの?」
「単身で乗り込むなんて流石は俺の子猫ちゃん」
「主の僕に黙って行くなんて帰ってきたら罰を与えなきゃな」
「何を悠長な事言ってるんですか!早くお嬢様を助けに行かなくては!」
西園寺邸のリビングで酒盛りを始めたモンスター達、レイナが行方不明と聞いても動じる事は無かった。
「レイナだもの、大丈夫よ?」
「子猫ちゃんにボコボコにされる神野の方が心配だよ」
「大泣きしている神野の顔が思い浮かぶよ」
「もういいです‼マサト、私達だけで行きますよ」
踵を返し出て行こうとするマヒロを「お待ちください兄上」とマサトが呼び止める。
怪訝な顔で振り返ると神妙な顔のマサトがボソリと呟いた。
「何か…とんでもなく都合の良い事が起こる気がします…」
◆◇◆◇◆
「前世の私の恋人が犯罪者だったなんて…嘆かわしいわ」
「こっちのセリフだよ!ナミがガサツで凶暴な女に転生しただなんて」
蚊帳の外だったレイナに今までのいきさつを語り終えた一同が生温かい視線を二人に送っていた。
「失礼ね!ガサツじゃ無いわよ!」
「ナミは可憐で儚げでそれはそれは美しい女神だったんだ」
「喧嘩売っているの?買うわよ」
「僕は信じないぞ!何かの間違いだ!」
「間違いは無い、ワシが保障する」
冥界王の言葉に嘘だ~と耳を塞ぐナギ、その姿に溜息を吐いたコノハが勾玉をかざした。
「じゃあ自分で確かめなさい」
勾玉から放たれた光がナギの身体に吸い込まれて行く。
神の力がナギに戻ったのだ。
レイナから感じるナミの気配…。
「ナミ…」
言葉を失うナギに冥界王が語り掛ける。
「ナミは人間に転生する事を願った。気を感じる事の出来る神だと死んだ事がバレてしまうからとな…下界で生き何時か再び巡り合う来世の奇跡に期待したいと申しておった」
「来世の奇跡…」
「只…一つだけお願いがあると言ってな」
「お願い…?」
「丈夫な身体に転生させて欲しいと…」
「⁉」
何時も辛そうなナミの姿を思い出す。
心痛な面持ちでレイナを見る。
一瞬…レイナの前にナミの姿が重なって見えた。
《ナギ…私、元気になったでしょう?》
それは幻だったのか…確かに聞こえたナミの言葉に涙がポロポロと零れ落ちる。
「うん…元気になって良かった…」
レイナを抱き締め嗚咽を漏らすナギ…次の瞬間レイナの拳が腹に食い込む。
「私に抱きつくとはいい度胸ね?」
「ナミ!今度こそ結婚しよう!」
「私は西園寺レイナよ!」
もう一発腹パンを食らって倒れ込むナギだった。
◆◇◆◇◆
数ヶ月が過ぎたある日の事。
「ナミ!もといレイナ!見て見て鍼灸師の免許取れたよ~」
緑川警察署の特別捜査班の詰所に現れたのは再び下界に堕ちてきたナギだった。
長かった髪を切り神オーラが幾分抑えられて超イケメンが普通のイケメンになっていた。
「またお前か」
新垣が呆れる。
「勝手に入るなと言っているだろう!」
中村が怒鳴る。
「レイナ、僕の後ろに隠れて」
ナツキが守る。
「神野さん困ります」
カオリが嗜める。
「…」
無言のソウマ。
「今度は真面目にやりなさいよ」
「分かっているよ」
天界王サクヤの力で下界から神野ナギに関する全ての記憶が消された。
特別捜査班は凶悪犯罪の取り締まり課になり、藤堂家の神野ナギ蔵匿の令状は違法取引の令状になり証拠を見つけられなかったカオリ達はこっぴどく叱られただけで済んだ。
モンスター達はマサトが眠らせて元に戻した。この時カズキはこのままでいいと言う皆の意見が出たがマヒロの大反対を受け元に戻す事となった。
そしてナギは…
『僕に呪いを掛けて下さい。人間として生きていきたい』
◆◇◆◇◆
「お姉さん覚悟!」
漆黒の矢がレイナ目掛けて飛んできた。
矢はレイナに当たってはジュッと音を立てて消える。
「アンタ達まだ居たの?」
「ポイント貯めないと帰れないの!」
「お願いだから魂汚させてよ~」
「それ相応のお礼はしますから」
「断る!」
ポカポカと頭を叩かれる魔界組の双子達。
「痛―い⁉何するのよ!」
「子供相手に大人げないぞ!」
「姫様に何たる事を…小娘許すまじ!」
尚も矢を放つ双子にいくらやっても同じよと溜息を吐く。
「そんな事ばかりしてたら良い大人になれないわよ?」
「子ども扱いするなー」
「どっちなのよ?」
また来るからね~と捨て台詞を残し退散する魔界組だった。
「天野、面倒だから通すなって言ってるでしょう?」
ボコッと言う音を立ててマヒロの頭に雑誌の角が食い込む。
「申し訳ありませんお嬢様、二度と招き入れたり致しません!」
と言っているが兄上は絶対通すだろうと近頃分かって来たマサトだった。
◆◇◆◇◆
「ヨギ様、トウヤを見掛けませんでしたか?」
公務をこなすヨギにミカがそっと声を掛ける。
「さっき大荷物を持ってラギ兄さんの部屋に入って行ったよ」
「またラギ様か…」
「またってそんなに頻繫なの?」
「はい、此のところ毎日ですね」
「怪しいな…」
悪い予感を察知したヨギがミカを伴ってラギの私室へと急ぐ。
追放を免除されたラギは神の力を戻され真面目に公務をこなしていた。
元々優秀なので公務も難なくこなし仕事の合間に何をしようと咎める者もいない。
「兄上、入りますよ?」
「ラギ様、失礼いたします」
軽くノックをして入った先には何やら怪しげな装置が部屋に溢れていた。
二人に気付いたラギが笑顔で迎え入れる。
「兄さん…これは?」
「新しい異世界移動の装置さ、異界ゲートは没収されたからな」
「また作ってるの?」
「当たり前だろう!エルフに会うまでは続けるさ」
頭を抱える二人を余所にラギとトウヤが異界の話で盛り上がっている。
「エルフも良いですけど私はケモ耳少女に会いたいですね~」
「うんうん、捨てがたい」
「尻尾をフリフリさせて、ご主人様~とか言ったりされて」
「分かる~」
ヨギとミカは黙って部屋を出てそのまま王のもとへと急ぐのであった。
◆◇◆◇◆
「嫁!来てやったぞ」
「レイナ、僕と一緒に出掛けないか?」
休日のひと時を静かに過ごしていたレイナのもとにカズキとナツキがやって来た。
「(色んな意味で)お帰りなさいませ、旦那様」
レイナの横で深々と頭を下げるマヒロの後頭部に飲んでいた紅茶をぶっ掛け立ち上がる。
「旦那じゃ無いでしょう?私はゆっくりしたいの、帰れ!」
「俺の嫁は素直じゃ無いな~服従させがいがある」
「兄さん!僕の妹に無体を働くと真中の力で排除するよ?」
「相変わらずのバカだな?俺も真中だ!」
「マサト、放り出せ」
ギャイギャイ騒ぐ真中兄弟はマサトの手によって放り出された。
それと同時にレイナの携帯電話が鳴りだした。
⦅西園寺レイナ!昨日までに始末書提出しておけと言っただろう!⦆
「耳元でキャンキャン煩いわね、小型犬」
現在の特別捜査班は中村が班長をしていた。
元々問題を起こしがちなレイナはお役御免となったのだ。
⦅それから胃潰瘍で入院中だった課長が退院するらしい⦆
携帯からは新垣の声が聞こえた。
「ん?新垣も居るの?」
⦅ああ…中村に無理矢理付き合わされてる⦆
⦅西園寺レイナ!貴様も出てきて仕事しろ…⦆
プッと電源を切り携帯を置く。
爽やかな風が開け放たれた窓から入りレイナの髪をなびかせる。
「ちょっと鍛錬でもしようかな」
庭に出てストレッチをしていると「おはようお嬢さん」と声が掛かる。
「何の用?」
「どんなケガや病気も治せる鍼灸師はいかがですか?」
ナギがニッコリ微笑み傍らに立っていた。
「必要ない」
「だったら…」
後ろに隠していた白い花を差し出し跪く。
「僕と恋をしませんか?」
レイナは無言で立ち上がり白い花を受け取った。
「不法侵入よ、神野ナギ!」
受け取った白い花で後頭部を叩く。
白い花びらが無残に舞っていく。
「チョット、何するのさー⁉折角の花が…」
「そこに咲いていたウチの花でしょう?」
「全く、今のナミは可愛くない」
「白井、隠れてないで此のバカ連れて帰って」
門扉に隠れていたソウマが頭をかきながら出てきた。
今回はナギの監視の為下界に残されたのだ。
「すみません先輩、ナギ様帰りましょう」
「ソウマ、僕とレイナの邪魔しないでよ」
「えらい変わりようだな…クソ王子」
「ソウマはブレないね」
引きずられて行くナギは振り返り又来るね~と手を振る。
「いい加減諦めなさいよ」
「絶対諦めない」
「奇跡でも起きない限り私はアンタとは恋をしないわよ」
その言葉を聞いたナギがニヤリと微笑む。
「レイナは忘れてない筈だよ?」
「何を?」
「僕は奇跡を起こす鍼灸師だって」
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