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奇跡の鍼灸師と俺様お嬢様  作者: 美都さほ
24/26

ナミの決断

「まさか藤堂家の方から招待されるとは思いませんでしたね」


 ドレスアップしたレイナにタキシード姿のトウヤが耳打ちする。


「そうね…何とかして神野を見付けないと…」


 数日前、西園寺家に藤堂家からホームパーティーの招待状が届いた。

 西園寺グループと藤堂グループは多少の取引をしていたので日頃の感謝と言う事で招待されたのだ。

 真中家も同様でカズキが招待されていた。

 レイナは執事としてトウヤを、カズキは秘書としてミカを同行させていた。

 ナギに気付かれないよう多少変装していたミカ達を『任務じゃ無いですよ?』とカズキが突っ込んでいた。


「お久しぶりですね?レイナさん」

「シオリさん、ご招待感謝するわ」


 光沢のある黒のドレス姿のシオリが微笑みながら声を掛けてきた。

 微笑を携え応対するレイナ。

 一見穏やかな雰囲気だがミカとトウヤの目には二人の視線の間に火花が見えていた。


「カズキさんもようこそ御出で下さいました」

「ご招待ありがとうございます」


 潤んだ目で見つめるシオリに、それではと一礼してレイナをエスコートして去って行くカズキ、シオリの潤んだ目は怒りで蒸発していった。


「あいつら何やってるのよ!早く計画を実行しなさい‼」


 ◆◇◆◇◆


「パーティー始まってるよ」

「僕のやる気スイッチ押してくれない?」

「何処にあるのさ?」


 すっかり腑抜けてしまったナギに溜息を吐くヨギ、二人は会場の大広間の隣の部屋で待機していた。


「兄さんは?」

「ラボに引きこもっているよ、もう直ぐ完成だって」

「兄さんが居なきゃ計画は実行出来ないよ」

「だったらラギ兄さん来るまでパーティーを楽しもうよ!美しい娘達がいっぱい居たよ?」

「興味無い」


 ナギは外を見つめ小さく溜息を吐く。

 あの日以来心を占領しているナミの事思い出していた…。


 ◆◇◆◇◆


 ナミはベッドで弱々しい寝息を立てていた。

 傍らでナミの手を力強く握り涙を流すナギが居る。


「泣いているの?ナギ」

「ナミ!」

「もう大丈夫よ、心配かけたわね」


 安心させるようにナギの手にそっと手を乗せる。

 ナギの手は微かに震えていた。


「もう…嫌だよ、ナミのあんな姿見るのは…」


 大粒の涙を流し訴えるナギの姿に心を締め付けられるナミ。

 数ヶ月…いや数日後かもしれないその日にはもっと残酷な姿を見せる事になるだろう。

 その前にヨギ王子に祝詞を唱えて貰わなければと思うナミだった。


 コンコンと静かなノックの後、ナミの父が入って来た。

 心なしか目を赤くして顔が綻んでいる。


「ナミ!喜べ!呪いが解けるぞ!」


「えっ?」


 動けないナミを考慮して天界王と冥界人がナミの屋敷に訪れた。


「父上!ナミの呪いが解けるって本当ですか⁉」


 待ち構えていたナギがサクヤに詰め寄った。

 泣きはらした目が不安と期待の色を醸し出していた。


「ああ、本当だ。良かったなナギ」


 サクヤの言葉に再び涙が溢れ出す。

 ベッドに横たわるナミに駆け寄り力強く手を握り良かった…と嗚咽を漏らした。

 ナミがそんなナギを見て顔を曇らせた事は知る由も無い。

 そこへ冥界人の三人が入って来た。

 横たわるナミを見て怪訝な表情で顔を見合わせる。

 それを見たナミはナギ起こして…と静かに呟いた。


「わざわざ御出で下さりありがとうございます」


 ナギに支えられ身体を起こしたナミが深々と頭を下げる。

 血の気の無い青白い顔が体調の悪さを物語っていた。


「体調を崩されているようですね?どうぞ、横になって下さい」

「いえ、大丈夫です。お気遣い無用です」


 何もかもを悟った目が冥界人に向けられた。

 それを察した冥界人が頷きサクヤとナギに退出を促す。


「私達は少しナミ様にお話が有ります」

「冥界の極秘事項なのでご退出願います」

「くれぐれも聞き耳など立てないようお願い致します」


 暫くすると少し顔色の良くなったナミが冥界人と共に寝室から出てきた。


「ナミ!起きたりして大丈夫なの⁉」

「ええ、大丈夫。冥界人の方々に少し精気を分けて貰ったの…病原も取り除いて頂いたわ」


 ナミの言葉に歓喜したナギが人目も憚らず抱き締める。

 少し前に駆け付けてきたラギとヨギが生温かい目を向けていた。


 暫く好きにさせていたナミはそっと抱擁から逃れナギの目を見据える。


「ナギ…お別れです」


「えっ?お別れって…」


「彼女はもう此処へは戻れません」


 抑揚のない声が後ろから聞こえる。


「冥界国に入ったら二度と出られません」

「機密保持の為、冥界人になるのです」


 淡々と告げられる言葉にナギは苛立ちを覚えた。


「ふざけるな‼だったらナミを冥界なんかに行かせるもんか!」

「お前はナミ様が呪われたままでいいと言うのか?」

「人間の身体は弱くて脆い」

「ナミ様はまた苦しい思いをするぞ?」

「っ…⁉」


 言葉に詰まるナギ、頭では分かっている。

 呪いが消え病気にならない神の身体になる事が一番ナミには良い事を。

 だが…呪いが消えても二度と会えないなら…いっそこのまま…


「私は冥界へ行く。呪いを解いてもらいたい」

「ナミ…」


 ナミの口からもたらされた言葉に呆然とする。


「私が呪いを解いてもらわなければこの呪いは続いてしまうの。辛い思いをする神がまた生まれてくるのよ!」


 ナミの眼から大粒の涙が零れる。

 二人が出会った日に見た子供のように泣きじゃくっていたナミを思い出した。


『君は悲しい目をしている』

『言い当てられて…驚いたら…涙が…』


 零れ落ちる涙を優しく拭いながらナギは一つの決断をする。


「泣かないで…ナミが悲しい思いをするのは嫌だ」

「ナギ…」

「呪いを解いてもらって…ナミ」


 静かな嗚咽を漏らしながら抱きしめ合う二人。

 別れの時が着々と近付いていた。


「ナギ、私は冥界人になるのだからあなたより長生きするわ」

「えっ?」

「ナギが此処で寿命を全うして冥界に来た時には私がお迎えする」


 そう言うとチラリとヨギを見て、また視線を戻す。


「冥界で待っているから」


 ◆◇◆◇◆


「出てきませんね?」

「気付かれたのかしら?」


 パーティーが始まり一時間が経過しても会場にはナギは現れなかった。

 レイナ達はやきもきと会場を見渡す。


「少し屋敷内を捜索してみるわ」

「レイナ殿だけでは危険です!私も一緒に…」

「大勢だと目立つわ、あなた達は藤堂家の人達を足止めしておいてちょうだい」

「分かりました、お気を付けて」


 頷きコッソリと会場を出る。

 赤い絨毯が敷かれた廊下を横切るといくつもの部屋が並ぶ一角に出た。


「無駄に広いのよ!面倒ね!」


 溜息を吐き一つ一つ確かめるかと諦めた瞬間、庭園の離れの建物に入る人影が目に入った。


「見つけたわ、神野ナギ‼」


 ◆◇◆◇◆


 時間はレイナが会場を出る少し前に遡る。

 勢いよく放たれた扉の前には満面の笑みを浮かべたラギが立っていた。


「完成したぞ‼」


 ハアハアと息を整えるラギの姿に生温かい視線を送る二人。


「お疲れ~」

「良かったね~」

「何だ!その反応!」


 思ってもみなかった弟達の薄い反応に怒りをぶつける。

 ポコポコと頭を叩かれた二人はブツブツと文句を言っている。


「で?何が完成したの?」

「くだらない発明ならその場で壊すよ?」

「聞いて驚け」


 ふっふっふと不気味に笑いスチャッと中指で眼鏡を押し上げる。


「あの日から私は…ずっと恋焦がれていたんだ」


「え~?まさかの惚れ薬?」

「今すぐトイレに流してやる」


「くそジジイに壊され…一度は諦めた…が、しかし‼再び燃え上がったお前を求める熱い炎」


「あ~人妻に手を出したって噂やっぱり…」

「理系が恋すると怖いね」


「今すぐ行こう!異世界へ‼」


「はあ?何言ってるの?」

「えっ?バカなの?」


 ビシッと人差し指で宙を指すラギに冷静に突っ込む弟達。


 ◆◇◆◇◆


「マジか…」

「永久追放される筈だよ」


 ラボに連れてこられたナギ達は目の前にある異界ゲートに目を丸くする。

 スイッチを入れると扉の周りが虹色に光り出した。


「何処へ行きたい?エルフ国?ドワーフ国?」

「全く興味無いんですけど?」

「ラギ兄さん一人で行きなよ」


「冥界国」


 ラギの言葉にナギがピクリと反応する。

 それを見たラギがニヤリと笑う。


「決まりだな」

「待ってよ!冥界国に行ったら二度と出られないって…」

「神の力を使えばバレないさ」

「僕も行く前提なの~⁉」


 兄達のムチャぶりに慌てふためくヨギにはコッソリと近付くレイナの気配に気付く事が出来なかった。


「よし!出発!」

「神野ナギ逮捕だ‼」


 ラギとレイナの声が被る。


 四人は扉へと吸い込まれて行った。




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