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奇跡の鍼灸師と俺様お嬢様  作者: 美都さほ
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異界ゲート

 

 緑川警察署の特別捜査班の詰所で捜査会議が行われていた。


「俺の実家に神野が⁉」

「ええ、少し前から匿われているそうよ?」


 魔界組から聞き出した情報でナギの潜伏先が分かったレイナは、カズキに頼んで藤堂家を調べていた。

 もっともシオリという自分の同級生が居た事などカズキに指摘されるまで微塵も覚えてはいなかったのだが…。


「とっとと行って捕まえましょうよ。私、今日は化粧のノリが悪いからパスだけど」

「カオリが行って捕まえれば良いんじゃないか?俺は子猫ちゃんとティータイム」

「首に縄付けて引き摺ってきなよ、首輪なら貸すよ?」


 相変わらずの三人を横目に白井がレイナに耳打ちする。


「逮捕したら速攻モンスターを元に戻さなくてはいけないですね?」

「素直に言う事を聞くかな?」

「刑を軽くするって言えば大丈夫ですよ」

 そんな中カオリが青い顔で呟く。


「無理だ…あの家に踏み込む事は出来ない」


 カオリの呟きに気付いたレイナと白井が怪訝な顔をする。

「何故?」

「あの家は隠し部屋や隠し通路が無数有ります。無論、俺が把握してない場所だって有る。隠されでもしたら二度と踏み込めない!」

「藤堂家って裏で悪い事してそうですね?」

「否定はしない」

「そこは否定しなさいよ」


「それに…」


 白井は察した。

 いくら自らの意志で家を出たからとはいえ実家の事だ。

 身内が犯人蔵匿の罪に問われるのは忍びないのだろう。


「女共が束になって怒ると凄く怖い」


「ヘタレかよ⁉」


 白井のツッコミに苦笑しながら何かいい手立ては無いかと考えるレイナだった。


 その頃、西園寺邸では…。


「ハッ‼」

「どうしたのですマサト?」

「何か都合の良い事が起こる予感がします」


 マサトは新しい能力に目覚めた。


 ◆◇◆◇◆


 ラギのラボにシオリが訪れていた。

 少しも進展しない状況に苛立ち文句を言いに来たのだ。


「ちょっと!カズキさんとの事と西園寺レイナの事、どうなっているの?早くしないと売るわよ⁉」

「落ち着いて下さいシオリさん。準備は着々と進んでいます」

「本当に?」

「はい、それで一つだけシオリさんにお願いがあるのですが…」


 高圧的な態度のシオリに姿勢を低くして窺うように問い掛ける。


「何?」

「近々この屋敷でホームパーティを開いて欲しいのです」


 ラギの申し出の意図を理解しニヤリと微笑む。


「成る程、華々しい私の未来の為のパーティーって事ね?」

「その通りです。その日にシオリさんの夢は叶えられます」

「分かったわ、お婆様に頼んでみるわ」


 オーホッホッホと高笑いして出て行くシオリを冷めた目で見ながら隠れていたヨギが出てくる。


「すっかり女王様気取りだね」

「母上が可愛らしく思えて来るよ」

「同感だね」


 二人は苦笑いした後、椅子に座り顔を突き合わせた。


「ナギはどうしてる?」

「相変わらずだよ、引き籠ってる」


 ナミに似た女を見た日から数日が経っていた。

 再びナミを探しに行こうとするナギに近くに天使が張り込んでいる事を漏らし引き留めていた。

 それでも出て行こうとするナギにヨギは嘘を吐く。


『その人は彼女じゃない‼神の力がある僕が言うんだから間違いないよ』


 その言葉を聞いたナギは『違うのか』と零し項垂れた。

 それ以来、納得したのかしていないのか部屋から一歩も出てこないでいた。


「よし!女を忘れるには女だ‼」

「何言ってるの?ラギ兄さん」

「だってそうだろう?彼女が冥界に行ってからのナギは誰かれ構わず女神を口説いていた。あれは彼女を失くした辛さを克服する為の防衛本能だ」


 私の知性がそう言っていると一人頷いている。


「違うよ?あれは僕が暗示を掛けたんだよ」


「はい?」


 思ってもいない告白にポカンとするラギ、どう言う事だと詰め寄る。


「彼女のお願いを聞いてあげたんだ」

「お願い?」

「彼女が冥界に行く数日前にお願いされたんだ」

「どんな願いだ?」


「忘却の祝詞を唱えて欲しいって」


 忘却の祝詞は主に人間に用いられていた。天使や悪魔の正体に気付いた者がその存在全てを忘れさせる事が出来る術だ。


「唱えたのか⁉」


「出来なかった…あの頃のナギ兄さんは百パー彼女で占められていたからね、廃人になってしまうよ」


 当時を思い出し納得するラギ、ナミが冥界に行ってからのナギは荒れに荒れ浴びる程酒を飲み高原に出掛けては号泣する毎日を送っていた。


「多分彼女は自分を忘れさせる事を願った訳じゃ無いんだ」

「どう言う事だ?」


「彼女の願いは…ナギ兄さんを孤独な生涯から解放させる事だったんじゃないかな?」

「孤独な生涯?」

「一生を彼女に捧げるって宣言したらしいよ?」

「バカなのか?知っていたが…」


 呆れ顔のラギに僕も知ってたと相槌を打ち話を戻す。


「だからね…女神を見たら口説きたくなる暗示を掛けたんだ」

「お前もバカだ」


 え~酷~いと頬を膨らませながら話を続ける。


「僕の暗示と彼女に捨てられた憤りから見事、チャラ王子が誕生したってわけ」


「それ、本当に彼女の願いか?」


「孤独から解放されたんだ結果オーライじゃない?それに…」

「それに?」


 真顔に戻ったヨギが顎に手を添えて考えを整理する。


「僕には神の力があるから分かるんだけど、彼女に似た気をこの下界で感じるんだ…だから確信したよ」


 ラボの窓から入る日差しに目を細めたヨギがナミの言葉を思い出す。


『冥界で待っているから』


「あの日、異界ゲートが開いた日…彼女は嘘を吐いていたんだ」


 ◆◇◆◇◆


 その日、天界国に異界ゲートが開いた。


「何あれ?ラギ兄さん見た事ある?」

「知らない…初めて見た」


 王宮のテラスで女神達とお茶会をしていた二人は突然開いた空間に目を見張る。

 空間は虹色に光り中央には扉が存在していた。

 その扉が開き黒装束の男達が出てきたのだった。


「あれは冥界人!もしかして異界ゲート?」


 優秀な頭脳と自負するラギは天界国に存在するすべての書物を網羅していた。

 古文書に残されていた冥界人の風体や冥界人が所要するアイテムも知っていたのだ。

 ラギが近くに居た天使に声を張り上げる。


「父上を呼んで来い!今直ぐ‼」


 時を同じくしてナギも焦っていた。

 ナミが熱を出したまま屋敷から居なくなったと天使が騒いでいたからだ。


「ナミ!」


 高原の花畑の近くの木に凭れて座り込むナミを見付けホッと胸を撫で下ろす。


「あら、どうしたの?そんなに慌てて」

「どうしたのじゃ無いよ…熱があるんだろう?寝てなきゃ…」


 息を整えながら小言を言うナギに苦笑し只の微熱よと返す。


「何してるの?」


 ナミを抱き上げ自分の膝に乗せ座り込む。

 少し軽く感じた重量におやっと思いながらもナミの答えを待つ。


「私の日課なの」

「日課?此処までの散歩がかい?」

「ナギと出会えた場所だから…毎日見ておきたいの」

「これからだってずっと見られるんだから熱がある時は休んで…」


 ナミの頬をつたう涙を見て言葉を詰まらせる。


「ナミ?」

「ずっと…独りだった…神々の私達家族を見る憐みの目から逃れるように此処に移り住んで誰とも関わらず暮らしてきたわ」

 無言のままそっと抱き締める。

 折れてしまいそうなほど細い身体…ナギは湧き上がる不安を感じていた。


「でも…此処でナギに出会って…愛されて…初めてこの孤独から解放された」

「ナミ…」

「短くても…とても幸せな一生だったわ」

「止めてよ!今にも死んでしまうような言い方‼」


「ナギ…」


 細い白い指がナギの頬に触れる。

 熱がある筈の指先は凍ったように冷たかった。


「私のこの辛く苦しい運命はあなたに出会えた事で相殺されたのよ」

「ナミ…」

「ありがとう…ナギ」


 頬に触れた手がだらりと下げられた。

 抱き締めていた身体が力を失くし崩れ落ちる。


「ナミ!嫌だ!逝くなーーー‼」


 ◆◇◆◇◆


「冥界王の寿命が尽きかけている?」


 玉座に座る天界王サクヤが驚きの表情を表す。

 冥界人は不老不死と語り継がれていた。

 だが決して死なない訳では無く長寿なだけなのだ。

 そして、一万年前に呪いを掛けた冥界王の寿命が尽きようとしていた。


「王は寿命が尽きる前に呪いを解きたいと申しておいでです」

「二十年前に生まれた女神が呪いを持っていると聞き及んでいます」

「王は冥界を出る事が出来ない為その女神を迎えに来ました」


 黒装束に身に纏った冥界人は黒いベールで顔が隠れていて表情が見えない。

 サクヤは淡々とした口調の冥界の三人に薄ら寒さを感じながらも了承の意味で頷く。


「呪いを持って生まれたのはナミという女神だ。最果ての高原で暮らしていると聞く誰か迎えに行ってまいれ」


 サクヤの命令で数人の天使が一斉に駆け出す。

 その様子を見ていた兄弟が顔を見合わせる。


「急展開だね?ラギ兄さん」

「だな、ナギの運命は如何に?」


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