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奇跡の鍼灸師と俺様お嬢様  作者: 美都さほ
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刑事の俺様お嬢様

 昼下がりの住宅街、数人の刑事が息をひそめている。

 西園寺レイナは後輩の白井と公園のベンチでカップルを装っていた。

 

⦅西園寺、聞こえるか?⦆

インカムから新垣マコトの声が聞こえる。


「聞こえているわ、新垣」


⦅レイナ、目上の人には敬語を使いなさい。呼び捨てもいけません‼⦆

 民家の塀に隠れた真中ナツキがレイナを注意する。


「うるさいナツキ。指図しないで‼」

「先輩、声大きいですよ~」

 白井がオロオロと辺りを窺う。


 ⦅まあいい、よく聞け。逃亡犯の近藤が現れるのは五分五分だ。近藤には愛人も居るからな、愛人宅には中村班が張り付いている⦆


「小型犬中村ね」

 ⦅レイナ彼は人間ですよ?⦆

 あら、知らなかったとナツキの突っ込みを軽く流す。

 何時もレイナに対しキャンキャンと噛みついてくる中村をレイナはそう呼んでいた。

 ⦅くれぐれも近藤に気付かれないよう目立った行動は控えるように‼特に西園寺、勝手な行動は絶対にするな‼⦆


「はあ?新垣それどういう意味よ⁉」


 ⦅単独行動、命令違反は君の専売特許じゃないですか⦆

「そうですよ先輩、僕がどれだけ苦労しているか」

「白井、私に盾つく気?」

 レイナは白井の襟首を掴んで持ち上げる。

「く、苦しいです…先輩…」

 ⦅レイナよしなさい。目立った行動は控えるように今言われたばかりですよ?⦆

「はあ~本当に近藤現れるんでしょうね⁉大体この事件自体、中村班の担当でしょう?やる気起きなーい」

「どんだけ中村さんと仲悪いんですか~黙って協力しましょうよ~」

「白井、私に意見するなんて千年早いのよ‼」

 ⦅しっ!あのマスクの男、近藤じゃないですか?⦆

 民家の塀に隠れてマスクを付けた男がキョロキョロと辺りをうかがっている。

 ⦅似ているがまだ断定は出来ない。婦人宅に入ろうとしたところを押さえるぞ⦆

「はいはい」

 ⦅レイナ「はい」は一回⦆


 その時…


「あああ!私のバッグが‼」

 目出し帽を被った男が老婦人からバッグをひったくり逃げ出した。


「あの男⁉」


(マズい)

 三人の心の声が一致する。


「警察だ‼そこの男止まれ‼」



 レイナは目出し帽の男を追いかけた。

(やっぱり)

 警察と聞いてマスクの男が逃げ出す。

「逃げたぞ!近藤で間違いなさそうだ!真中、追うぞ!」

「はい!」

「白井は西園寺を追え!おそらく無事じゃないはずだ!」  

「了解しました」


「この外道が‼」


 レイナは男に追いつくと思い切りジャンプして蹴りを入れた。

「うっ!」

 男はそのまま気絶する。

「先輩~無事ですか?犯人」

 追いついてきた白井が転がる犯人を見て頭を抱える。


「さあ?」


「ああ!また気絶させているじゃないですか~班長に怒られますよ」

「どうでもいい。白井こいつ起こして署まで運んで。私はバッグをお婆さんに返してくるから」

 勝手なんだからと文句を言う白井を残し踵を返すレイナだった。


  ◆◇◆◇◆


 都内某所レイナの勤務する緑川警察署がある。


「いったい誰だ⁉持ち場を離れて勝手に動いた奴は⁉」

 報告を受けた署長の藤原が目を吊り上げ怒っていた。

「署長の姪御さんです」

 一同一斉にレイナを見る。


「レイナだと…?」


 藤原はレイナに顔を向ける。

「レイナ…」

「はい、叔父様」


「駄目じゃないか~勝手に行動したら危ないんだよ?ケガでもしたら大変だ」

 吊り上がった目が一瞬にしてタレ目になる。

「怒るとこそこじゃない」

 隣で聞いていた課長の三木がさり気なく突っ込む。

「でも叔父様?民間人が困っているのに見て見ぬふりなんて出来ないわ」

「全くレイナは昔から正義感が強すぎて困ったものだな。ハッハッハッ。これからもドンドン活躍してくれ」

「怪我人がドンドン増えます」

 三木の突っ込みが強くなる。


「でもまあ、叔父としては女性らしい格好して大人しくして欲しいな」


「それは皆の願いです」

 最後は同意する三木だった。


 ◆◇◆◇◆


「しかし、近藤もひったくり犯も無事逮捕出来たし何よりだな」

 新垣が椅子にもたれ掛かりレイナを見る。

「当然よ!私が居るんだから」

「ひったくり犯無事じゃないです」

 白井が小さな声で呟く。


 バターーーン‼


 勢い良くドアが開いて中村トシキが入ってきた。


「西園寺レイナ‼」


「出た小型犬中村」

 レイナは腕を組み中村を冷たい目で見据える。

「貴様、俺達の追っていた被疑者、取り逃がす寸前だったそうだな‼」

 バン‼と机を叩き睨み付ける。

「それが何?」


「貴様の勝手な行動で俺達が苦労して掴んだ情報が水の泡になるところだったんだぞ‼謝罪しろ⁉」


「はあ?謝罪?何言ってんの?あんたの追っていた被疑者ちゃんと捕まえてあげたでしょう?逆に感謝しなさいよね」


「あーあ。始まりましたね」

 ナツキが言い争う二人を見つめ溜息を吐く。

「ホントあいつら顔合わせる度喧嘩始まるな」

「喧嘩って言うより先輩が一方的に罵ってる感じですけど…」

 チラリと横目で見ながら新垣の後ろに隠れる白井。


「感謝しろだと?」

 ワナワナと震え出す中村。

「大体、班長のあんたが無能だから、いつまでたっても小者一人の足取りも掴めなかったんじゃない?」

「ぐぬぬ…」

 握りしめた拳が白くなっていく。

「自分の無能さ棚に上げて謝罪しろとはどの口が言うんでしょうね?キャンキャン吠える前に犯人の一人でも捕まえて来なさいよ⁉駄犬班長」

「次から次へと言いたい放題!」

 涙目で睨む中村。


「西園寺レイナ!いつか貴様にごめんなさいって言わせてやる‼」 


 バタン‼中村は涙を拭い出ていく。

「私が誰かに謝る日が来たら地球は滅亡するわ」

「僕もそう思います」

 新垣の後ろに隠れたままの白井が小声で同意する。


「あ~疲れた。新垣もう帰っていいでしょう?」

 大きく伸びをしたレイナが新垣に問い掛ける。

「レイナ、呼び捨ては…」

「ナツキ、あんた私の後輩なんだから偉そうに言わないで」

 ビシッと指を指しナツキの言葉を遮る。

「お二人は幼なじみなんですよね?」


「僕が一つ年上なんです。レイナ、ナツキ兄様って呼んでいいですよ?」


 白井の問い掛けにニッコリと微笑み答えるナツキ。

「寝言は寝て言え‼」

「今日はご苦労だったな。帰ってゆっくり休め」

 新垣が労いながらレイナに手を振る。

「そうするわ。ごきげんよう!」

 ひらひらと手を振り出ていく。


「反則ですよねぇ」

 レイナが出て行ったドアを見つめ白井が呟く。

「何がだ?」

「西園寺先輩ですよ。社長令嬢、頭脳明晰、武術にも長け、おまけに美人。署長は叔父で激甘。無敵じゃないですか」

「ああ。俺様お嬢様って呼ばれているよ」

 怖くて直には言えないけどなと笑う新垣。

「子供の頃からやりたい放題でしたね。誰も止めないから兄替わりの僕がいつもそばで諭してきました」

 ナツキが感慨深げに宙を仰ぐ。


「全く諭されてない‼」


 真顔で突っ込む二人。

「レイナが警察官になるって聞いて急いで僕も警察官になれるよう手を回しましたよ。大変でした」

 巷では真中一族を敵に回すといつの間にか居なくなると噂されていた。

「真中先輩も反則です。色んな意味で」


 ◆◇◆◇◆


 翌朝、高級住宅街。


「お金持ち発見」


 ナギは豪邸の前に立っていた。

「おっ?」

 庭で鍛錬している女性を見付け声を掛ける。

「おはよう。お嬢さん」

 女性が振りむく。

 西園寺レイナの姿がそこにあった。


「誰?何の用?」

 訝し気に睨みを利かす。

「僕は鍼灸師。どんなケガや病気も一発で治してあげるよ?」

 指名手配されても堂々と振る舞うナギだった。


「必要ないわ(鍼灸師?この男どこかで…)」


 記憶を手繰り寄せるレイナ。

「家族の誰かでもいいよ?」


「両親は海外。私しか居ないわ(そうだ‼この胡散臭い格好…結婚詐欺師の鍼灸師、神野ナギ‼)」


「そうか~残念。それじゃあまたね」

 思い出したレイナはナギを引き留める作戦に出た。


「あっ‼」


 レイナが胸を押さえて倒れこむ。

「どうしたの?お嬢さん」

 ナギが慌てて駆け寄る。


「胸が急に‼(飛んで火にいる夏の虫だわ)」


 西園寺邸の隣、真中邸の二階の窓際。


「ん?レイナ…誰だあの男?」

 ナツキは西園寺家の庭でレイナと男が話をしている姿を見ていた。

「失礼しますナツキ様。朝食の準備が整いました」

 ノックの音と共に入って来た執事が声を掛ける。

「はい分かりました。すぐ行きます」

 一礼して出て行く執事を見送ると再び庭を見る。


「まあどんな輩にしろレイナの事ですから心配ないですね」


 シャッとカーテンを閉め部屋を出るナツキだった。


「く…苦しい」

 レイナは気付かれないようにポケットの私物の手錠を手に取る。

「大丈夫だよお嬢さん。今楽にしてあげるからね」

 ナギは数本の鍼を取り出す。

「怖いから手を握ってちょうだい」

「おやおや、可愛らしいお嬢さんだ」

 ナギが手を差し出す。


 ガチャ‼


「神野ナギ。結婚詐欺容疑で逮捕する」


 差し出された手首に冷たい金属の重りを感じる。

「はい?」

 自身に起こった状況を把握しきれずキョトン顔のナギ。

「刑事の家にノコノコ現れるとはとんだ間抜けだな」


「刑事?ビックリだな。でも…」


 ナギは手にした鍼をレイナに目掛け放つ。

「お間抜けさんはどっちかな?」


 プスプスプス!


「くっ⁉何をした‼」

 苦しむレイナ。

「少しの間動けなくなるツボに鍼を刺しただけ。逃げる間大人しくしててね」

 手を振り踵を返すナギ。


「誰がお前の言うことなんかきくか!」


 よろけながら蹴りつける。

「あれ?僕の施術に抗う事が出来るなんて珍しい人間だね」

 ツボ間違えたかなと首を傾げる。


「私は悪には屈しない‼」


 苦痛に抗いながら蹴り続けるレイナ。

「僕が悪?酷い言われようだ。少し懲らしめてあげたくなったな」

 蹴りを避けながら新しい鍼を出す。


 プスプス!


「今まで誰にも使うことは無かったけど、僕を怒らせた罰だよ」


 プス!


「従順になるツボ。何でも言う事を聞いてもらうよ⁉」


 プスッ!


 額に鍼が刺さった瞬間、頭を抱えて崩れ落ちる。


「あああ‼」


 レイナの頭の中で色んな声がこだまする。

『何でも言う事を聞いて…』

『敬語を使いなさい…』

『勝手な行動は…』

『女性らしく…』

『兄様と…』

『謝罪しろ…』


 頭の中の声が消え放心状態のレイナにナギが命令する。


「お嬢さん。手錠を外して」

「はい。分かりました」

 カチャ。ナギの手錠を外す。

「お金持ってきて」

「直ぐにお持ちします」

 駆け出すレイナの後ろ姿にポツリと呟く。


「僕は神なんだ。人間ごときに捕まるわけにはいかないよ」


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