捜査開始
緑川警察署の刑事達は皆、会議室に集められていた。
署長の藤原と課長の三木が険しい顔で正面に座っている。
全員が集まったのを確認すると三木が立ち上がる。
「今日集まって貰ったのは薄々気が付いているとは思うが…日々の捜査に支障が出ている事への対処を伝える為だ」
一同があ~と納得する中、支障の原因達は我関せずといった顔をしていた。
「何かしらね対処って?」
中村がレイナにコソコソと話し掛ける。
「子猫ちゃん、こんな会議抜け出してお茶しない?」
新垣がレイナに腕を回してくる。
「お前らの懲戒免職の通達じゃないのか?」
ナツキがレイナから二人を引き離す。
そんな三人を素の白井が冷たい目で見ている中、レイナはひたすら無視を決め込んでいた。
「今日ここに特別捜査班を結成する!」
ザワザワと騒ぐ刑事達を静かにと制し言葉を続ける。
「その捜査班の班長は西園寺レイナ」
レイナファンの面々がオ~ッと歓声を上げる。
「メンバーは、新垣、中村、真中、白井、そして明日赴任してくる者の六名だ」
メンバーに入れなかったレイナファンのブーイングを余所に白井以外のメンバーはレイナを囲み喜んでいた。
「この特別捜査班は神野ナギ捜査だけを業務とする。他の事件は手を出すな!部屋も別に用意するから神野逮捕まで此処へは顔を出さなくていい」
「課長、我慢の限界がきたみたいね」
フッと笑うレイナに次は貴女の番ですけどと内心突っ込む白井。
「こいつ等の御守は任せたわ、白井」
ポンと肩を叩かれた白井が青い顔で呟く。
「俺の番かよ…」
◆◇◆◇◆
真中興信所は穏やかなムードに包まれていた。
ミカが所員達のお茶を淹れ配っている。
「はあ~ミカさんが居ると癒されるな~」
「だよな~何か浄化されてる気がする」
間違いではない。
赴任当日、所員達の魂が薄汚れていたのをトウヤがコッソリ浄化したのだ。
「それでは私達はペットの捜索に行ってきますね」
勝手にナギ捜索が出来る筈も無くマヒロに頼んでペットの捜索の依頼を出して貰った。
「行ってらっしゃい」
和やかに送り出す所員達に笑顔で返す。
ミカ達はナギのマンションに向かって歩き出す。
「騙してるみたいで心が痛いな」
「皆さん親切ですからね~特に師匠に」
「何だ、妬いてるのか?」
ウリウリと肘で突っつく。
「いえ、全く。私は童顔で巨乳が好みです」
下界に堕とされて再び深夜アニメにハマっているトウヤは暫く立てないほどの腹パンを食らうのだった。
◆◇◆◇◆
「やあ!魔族の皆さん、お久しぶり」
部屋のドアを開け後ろ手に扉を閉めて入って来たナギに驚く魔界組。
「お前は!何時ぞやの天使!」
姫様私の後ろに隠れてとナチュだけ庇うレオン。
「天使じゃ無いよ~」
ひらひらと手を振りニッコリ笑う。
「君達、魔界国の王子と王女だったんだね」
「何故それを…?」
不審がるレオンに自分でバラしていたじゃないかと突っ込む。
「僕は天界国の第二王子ナギ。訳あって下界で暮らしているんだ」
「天界国の王子⁉」
三人が一斉に声を揃え驚く。
次の瞬間ゲラゲラと笑い出す。
「あり得な~い」
「もっとマシな嘘いいなよ」
「大方、天界に見捨てられた落ちこぼれ天使でしょう」
再び笑い出す三人にハァ~と溜息を吐く。
「これでも信じない?」
突如、ナギの背中から光が射す。
光は虹色に輝き放射線状に広がっていった。
「何この光?」
「もしかして後光?」
「見た事はありませんが聞いた事はあります」
「うそ…マジで神なの?」
目を見開き光を見つめる魔界組に上手くいったとほくそ笑むナギ。
神の後光とは神が持つ強大なオーラである。
勿論、神の力を剥奪されたナギにはオーラは無いに等しい。
この光は魔界組を信用させる為にラギが作った装置だった。
「実は君達にお願いがあって来たんだ」
黒く微笑むナギを見て悪魔にしか見えないと呟く双子。
「お願いだと?笑止。聞いてやる謂れは無い!」
「そうよ!手土産一つも無しで図々しいわね」
「神なら戦車の一つ位持って来いよ」
いやそこはゲームでしょう、いやいや戦闘機も捨てがたい、幼女一点で、と思い思いの要求を繰り広げている中ナギがボソリと呟く。
「僕の婚約者、討伐隊の隊長なんだ」
「聞いてやらない事も無い」
三人の言葉が揃う。
「君達、仮装パーティーの時物騒な事言ってたよね?」
ビクリと身体が反応したがそっぽを向く。
「その時居た西園寺レイナって知ってるでしょう?」
「ああ、200ポイントのお姉さん」
思わず口を滑らせたナチュはホグのスリッパで後頭部を叩かれた。
「流石にポイント高いね?祝福を受ける筈だ」
天界国の神は魔界国の昇級試験の事を知っている。
天使の修行に役立っているので止めはしないのだ。
「それで?お姉さんとお願いがどう関係してるにさ?」
フフフと不気味に笑うナギに若干引き気味の双子。
「僕にも君達にも有益な事だよ…実は…」
◆◇◆◇◆
ボーーーン!ガシャーーーン!
西園寺邸のキッチンから爆音が聞こえてきた。
「敵襲ですか!」
マヒロが慌てて駆け付けてくる。
「申し訳ありません兄上。兄上を労おうとお茶を淹れようと思ったのですが…」
シュンとするマサトの後ろではポットからモクモクと煙が上がりティーカップが粉々になって散乱していた。
「怪我は無いですかマサト!火傷してるじゃないですか」
羨ましいの言葉を飲み込み急いで水道水で冷やしてやる。
「兄上…」
「ここは私が片付けますからそのまま冷やしておくのですよ」
そう言うと煙の上がるポットを素手で掴み、ああ…砕けたカップを素手で拾い指を切り、あああ…と歓喜の声を上げる。
「兄上!大丈夫ですか?」
「はい。大丈夫です。全く問題ありません。しかし…」
ゴクリと喉を鳴らし潤んだ目をマサトに向ける。
「もう直ぐお嬢様が帰っていらっしゃいます。黒焦げの壁は隠しようがありませんね」
「兄上はお気になさらずとも罰ならこのマサトが受けます!」
「駄目です!こんな好機そうそうありません」
「好機?」
「西園寺家の使用人の罪は執事である私の責任。罰は私が甘んじて、それはもう甘んじて受けましょう!」
「兄上…」
多少デジャヴと疑問を感じながらも変わらない優しさに感動するマサト。
しかしマヒロは不器用な弟の粗相がこれからも使えると心に思うのだった。
◆◇◆◇◆
西園寺邸に天使達が集まっていた。
「ナギ王子のマンションの近くの公園に壊れた携帯電話が落ちていました。ソウマ様に確認したところ王子の物だそうです」
トウヤは黒焦げになった携帯電話をテーブルの上に置く。
「カズキ社長にお願いして公園内の防犯カメラの画像を見せて貰った結果、王子と男性が何やら言葉を交わし連れ立ってタクシーに乗り込んでいました」
「真中家って凄いんだな。防犯カメラまで見せて貰えるなんて」
ミカの言葉にマサトが口を開き掛けたが白井に塞がれた。
「白井、神野にはお前の他に仲間がいるの?」
「いない筈です。と言うか先輩、仲間とか言わないでください」
頬を膨らませ抗議する。
「どんな男だったの?」
トウヤに向き直り問い掛ける。
「残念な事に後ろ姿しか映っておらず顔は分かりませんが、背の高い短髪の男です」
「王子には数人のお得意様が居たから、もしかすると…」
白井の言葉に神がお得意様ってと突っ込むレイナ。トウヤがウンウンと頷く。
「白井、そのお得意様は誰だか分かるの?」
う~んと考えて数人ならと答える。
「それじゃあ明日、我々はお得意様を当たるわよ」
「私達はタクシー会社に聞き込みに行くわ」
ミカの言葉に苦笑いするレイナ。
「ミカ達の方がポンコツ三人より刑事っぽいわね」
「そうですね、チェンジしたいです!」
三人のお守を任された白井が全力で同意する。
「よし!それじゃあ今日はこの辺で解散しましょう」
レイナの言葉に皆が立ち上がる中、マヒロがツツツと近付く。
「あの…お嬢様、少しお話が…」
「何?天野、話してみなさい」
マヒロを心配そうに見つめるマサト。
(兄上、矢張り私が罰を…)
「実は先程、お茶を淹れようとしたのですが、ポットが火を噴き驚いた拍子にカップを割ってしまいました。おまけに壁まで焦がして…」
そこまで言ったマヒロは申し訳ございませんと土下座する。
「どんな罰でも受けます!」
床に付けた顔は笑っていた。
「それ、マサトだろ?」
白井の指摘に固まる兄弟。
「何故分かったんですか?」
恐る恐る顔を上げ問い掛ける。
「いつも王子がぼやいてたぞ」
(チャラ王子め余計な事を!)
「申し訳ありませんでした‼お咎めはこのマサトに‼」
兄の横に並んで土下座する。
「いえいえいえ!私の監督不行き届きです!水攻めでも、火炙りでも、鞭打ちでも~出来れば鞭打ち希望です‼」
潤んだ目で懇願する。
レイナはこの上なく冷たい目で二人を見る。
(この目は鞭打ちを決意なされた目に違いない!)
兄弟二人して同じ事を思った。兄は喜び、弟は恐怖する。
「許すわ」
「はい、終了」
白井がパンパンと手を叩く。
「お嬢様~‼」
兄弟二人して叫んだ。兄は悲しみ、弟は歓喜する。
◆◇◆◇◆
藤堂邸のリビング。
シオリが一人カウンターでワインを飲んでいた。
昼間ナギから準備が整い次第決行すると聞き気分は既に女王様。
「地に堕ちた西園寺レイナの姿が早く見たいわ」
フフフと笑いグラスを傾ける。
ガチャ。開かれるリビングのドア。一人の男が入って来る。
「あら?カオリ兄さん、帰ってたの?」
「明日から使う物を取りに来ただけだ」
素っ気なく言いテーブルに置かれたシガレットケースから煙草を一つ取り火をつける。
フーと煙を吐き出しドカッとソファーに腰を下ろす。
「お婆様に怒られるわよ」
「知るか」
暴走族が解散した後、カオリは藤堂家には戻らなかった。
元々、優秀だったので全寮制の高校に編入したのだ。
卒業後はマコトの後を追って警察学校に入り、今は警官をしている。
「家に戻る気無いの?」
「全く無いね、家督はお前かイオリが継げよ」
短くなった煙草を灰皿に押し付け立ち上がる。
「じゃあな」
そう言ってリビングを出て行った。
「私だって継ぐ気無いわよ」
グラスに残ったワインを一気に飲む。
とあるマンションの最上階。カオリは此処に住んでいた。
父親と祖父がコッソリ買ってくれたのだ。
ベッドに座りスーツケースから箱を取り出す。
「やっとマコトさんと一緒に仕事が出来る」
箱を開けると二組の手錠が重厚な光を放っていた。
この手錠は警官になった時にオーダーメイドしたもので素材はプラチナ。
何時か使う日が来ると信じてセキュリティが万全の藤堂家に保管していたのだ。
それは数年前の出来事。
「おめでとうカオリ。立派な警官になれよ」
「ありがとうございます、何時か同じ職場で仕事が出来ればいいな」
「そうだな、その時はお前が俺のバディだ‼」
「はい‼」
「このお揃いの手錠で一緒に犯人を逮捕しましょう!マコトさん」
手錠を握り締め宙を仰ぎ満面の笑顔のカオリ。
だが…翌日、人生三度目の絶望を味わう事になるとはこの時のカオリは知る由も無い。




