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奇跡の鍼灸師と俺様お嬢様  作者: 美都さほ
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藤堂家の人々


 藤堂邸、リビングのソファーに赤いドレスを着たシオリが足を組んで座っている。その向かいのソファーにはラギとナギが座っていた。


「ラギの代わりにあなたが私の願いを叶えてくれるんですって?」


 僕を売ったね兄さんと目で訴えるも視線を合わせないラギ。

「巷で噂になってる奇跡の鍼灸師なんでしょう?」

 目を細め僅かに口角を上げ微笑むシオリ。

「そうです!弟の術でどんな奴も思うがまま」

 弟の冷たい目をスルーしニコニコと愛想笑いをする。


「アンタの弟っていうところが引っかかるわね…散々ウチの財産食いつぶして薬一つ作れなかったんだから」


 数年前に頭脳を買われたラギは惚れ薬を作る条件で研究施設と莫大な費用をシオリに出して貰っていた。

「ご安心くださいシオリさん。弟の術は神がかっています」

 神だけにねと心で呟きニコリと笑う。

「そう、期待しているわ。でも…」

 ゆっくりと足を組み替え兄弟を見据えるシオリ。


「失敗した時は…二人揃って好色ジジイに売り飛ばすから」

 二人共見た目は良いからとクスクス笑う。


「どんな望みも叶えてみせます!」


 前のめりになり宣言するナギ。ラギも顔面蒼白になりながらも失敗はあり得ませんと猛アピールした。


「それで…何が望み何です?」

 懐から鍼を出しながら目を細め微笑む。


「私はこの国の女王になりたいの」


 大方、若く美しくなりたいと言い出すだろうと思っていたナギはシオリの言葉に固まる。


「無理です」


 固まったままの笑顔で咄嗟に言い放った。

 この国には王などいない。王国を創るなどナギの術では到底無理だ。

 そう思って言ったのだが眉間に皺を寄せたシオリが話は最後まで聞きなさいとテーブルを叩く。


「女王と言っても国王の后とかじゃないわよ?」

「ああ…SMの?」

「違う!」

 納得したと笑顔のナギが言った言葉をシオリが鋭く否定する。


「シオリさんはこの国の頂点に立ちたいんだよ」


 幾分顔色が良くなったラギの言葉に頷くシオリ。

「この国を牛耳っているのは誰だと思う?」

 シオリの問い掛けに首相かなと首を傾げるナギ。


「真中一族よ!」


 真中?何処かで聞いたようなと思っていると一枚の写真がテーブルに置かれる。

「真中カズキ。次期総裁と言われている人物よ」

 写真を手に取り何処かで見たようなと記憶を辿っていたがシオリの言葉に遮られる。

「私はこの人と結婚したいの、分かるわよね?」

 その意図が分かったナギは力強く頷いた。


「お任せ下さい。真中カズキはシオリさんにメロメロになりますよ」


 思いの外簡単な要求に胸を撫で下ろすナギ。

 ところが次に出された写真を見て驚愕する。


(この女!)


「そしてこの女を社会的に抹殺して欲しいの」

「こ…この女は…?」

 冷や汗をダラダラかき震える手で写真を掴み上げる。


「西園寺レイナ。カズキの婚約者…そして私の天敵よ」


 奇遇ですね~僕の天敵でもあるんです。おまけに天使の祝福を受けてるんで僕の術は効きませんと言う言葉をゴクリと飲み込む。


「顔色悪いわよ?」

 訝しげな顔でナギを見ているとリビングの外から騒がしい声が聞こえてきた。

「何事?ちょっと失礼」

 リビングを出で行ったシオリを確認しラギがどうしたと声を掛ける。


「この女に手を出せば破滅する」


「えっ?」

「逃げよう兄さん!」

「駄目だよ~私の研究施設が取り上げられてしまうもん」


「僕は永久追放されたくないーー!」


「いけませんイオリ様!こんな薄汚れたモノは此処では飼えません」

 執事とメイド達がオロオロとしている。


「いーやーだーウチで飼うの~」


 ツインテールにピンクのワンピースを纏ったイオリが駄々をこねる。

 その手に繋がれたリードの先には大きな犬が嬉しそうにチョコンと座っていた。

 リビングから出てきたシオリがその状況を見て溜息を吐く。


「イオリ…あなたまた変なモノ拾ってきて、捨ててらっしゃい」

「やだー!三匹ともイオリが飼う!」

 大きな犬の後ろには中学生位の男女の双子が居た。

 イオリには変わった物収集癖があり動物は勿論、家具家電、偶に人間も拾って来ては皆を困らせていた。


「チョット失礼じゃない?ペット扱いされてるわよホグ」

「そうだねナチュ、犬はレオンだけなのに」

「ワンワン」

 そこに居たのは魔界組の三人だった。討伐隊の包囲網から逃げ切り公園で段ボール生活をしていたところをイオリに拾われたのだ。と言うよりもレオンがイオリに纏わりついていったのだが。


「この子達可哀そうなんだよ?おウチにも帰れず悪いヤツに命を狙われているんだって」

「そんなの嘘に決まっているわ!あなたは子供だから騙されているのよ」

 その言葉を聞いたレオンがおもむろに立ち上がる。


「おい小娘!黙って聞いていれば不敬な発言を次々と!」

 突然叫び出した犬に唖然とする使用人達。

「不敬ですって?浮浪者の分際でこの藤堂家に喧嘩を売るつもり?警察呼ぶわよ」

 腕を組みレオンを睨み付ける。

「黙れ小娘!このお方達を誰だと心得る」

「はぁ?小汚い中学生じゃない」

 シオリの言葉に怒りを露わにしたレオンは一旦深呼吸をして静かに跪く。


「この方々はマーカイ国の王子と王女で在らされるぞ!頭が高いわ」


 一同が騒然とする中、双子はその設定続けるんだと生温かい目で見ていた。

「マーカイ国?聞いた事無いけど」

 ポカンとするシオリを睨め付け犬の着ぐるみを脱ぎ捨てるレオン。

 着ぐるみの下には少しヨレヨレだが正装を纏っていた。


「お前が無知なだけだ。我が王国は存在する」

 静かに言い放った言葉はシオリの心に疑念を抱かせた。


(本当に…?)


「喧嘩を売って来たのはお前だ。我が王が本気を出せばこんな小国など一夜で滅ぼしてみせるわ」

 レオンの迫力に圧倒されたシオリがゴクリと唾をのむ。


(本当に王子と王女なの?よく見ればこの双子うっすらと気品が有る気がするわね。お忍びで訪れたこの国で敵国の工作員に命を狙われているのかもしれない。ここは匿って恩を売っておいても良いかもしれない)


「分かりました。我が藤堂家が全力でお守り致しますわ」

 自己完結したシオリによってこの場は収まった。

「いい決断だ小娘。くれぐれもお二人に粗相の無いよう頼むぞ」

 そして脱ぎ捨てた着ぐるみを再び着たレオンはイオリの横にチョコンと座る。

「私はイオリお嬢様のペットとしてイオリお嬢様と共に過ごしましょう」

「うわっキモッ!」

「警察に突き出した方がいいよ」

 冷たい目で見ている双子にイオリが笑い掛ける。


「イオリはレオンと一緒でいいよ。ねえレオン?」

「ワンワン!」

 え~っ信じられないと騒ぐ双子を他所にリードを引っ張りはしゃぐイオリ。

「あっレオン!お前一つ間違えてるよ?」

「ワン?」


「イオリはお嬢様じゃないよ~男だから」


「へっ?」

 一連の騒動をこっそり見ていたナギが呟く。


「兄さん、何とかなりそうだよ」


 ◆◇◆◇◆


 藤堂家は女が強い。古くから続く女系で俺の祖父も父も婿養子だ。当然頭が上がらない生活を強いられていた。

 

 女系な一族に久し振りに生まれた跡取り息子が俺だ。

 祖父と父は歓喜し祖母と母は怪訝な顔をしたという。


「それでも藤堂家の跡取りなの?」

 幼い頃泣かされて帰って来た俺を見るなり言い放った母の言葉だ。

 俺はどうやら父の遺伝子を濃く受け継いだみたいで消極的な性格だった。

 そんな俺を次期当主に育てる為に過酷で陰湿な教育が施された。

 あの女共の手によって…。


 毎日繰り返される甲高い声での罵詈雑言。

 妹のシオリまでもが俺をバカにした。


 逃げ出したい。

 

 男だけの世界へ。


 俺は中学を卒業する頃には女が苦手になっていた。

 そんな俺に希望の一筋の光が射した。

 弟が生まれたのだ。

 

 男女の比率が男に傾いた!

 

 これからは男の時代だ!


 だが…悪魔の囁きによって俺の希望は露と消える。


「私、妹が欲しかったのに~ねぇお母さま、イオリを女の子として育ててよ」

「そうね、カオリみたいに軟弱になったら困るわよね」

「昔から体の弱い男は女の格好をさせて育てるって聞いた事があるわ」

「さすがお婆さま!博識なのね」

「まあ世間の目もあるし小学生までは女の子として育てましょう」

 盛り上がる女共を何の感情も持たず見つめていた。


 もうたくさんだ!

 俺はこの夜家を飛び出した。


 その日から俺は何をするわけでもなくホテルを転々とした。

「これはこれは藤堂家のカオリ様。今日は御一人ですか?」

 藤堂家の跡取りとして顔は知れてる為誰も不振に思わなかった。

 父からくすねたカードを使っているにもかかわらず誰も探しに来なかった。

 大方、厄介払いが出来たと喜んでいるのだろう。


 そんなある日、俺は運命的な出会いをする。


「よう坊ちゃん、チョットお兄さん達に融資してくれないかな?」

 一人、高級レストランで食事を済ませホテルに帰ろうとしていた時に三人のチンピラに絡まれてしまった。

 路地裏に連れ込まれ殴られ財布を盗られ身包みまで剥がされそうになった時その人は現れた。


「俺らのシマで何してんだ?お兄さん達」


「おっお前らは…」


 数人の舎弟と共に現れたのは暴走族のリーダーの新垣マコトさんだった。


 チンピラをボコボコにした後財布を取り返してくれたマコトさんに助けてくれたお礼にと父のカードを渡そうとしたら思い切り殴られた。


「そんなつもりで助けたんじゃねえ!」


 マコトさんの目は燃えていた。


「いいか!俺達のグループはこの拳一つでここまで大きくなったんだ。金も女も必要無いんだよ!」


 その言葉に一瞬で惚れた。

 まさに男。漢の世界。俺が探し求めていた楽園。


「俺を舎弟にしてください!」


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