決戦の時
西園寺邸、リビング。
「か…被った…」
王子の格好をした三人がガックリとうなだれる。
「安易な奴らだな!レイナが白雪姫の仮装をすると聞いて王子にするとは…」
お婆さんの格好のカズキがハハハと笑う。
「お前も似たようなものだろ⁉」
「黙れ!貧乏人⁉」
カチャ。扉が開く。
「皆さん、お待たせしました」
純白のロングドレスにガラスの靴を履いたレイナが入って来る。
「それシンデレラ⁉」
一斉に投げかけられた言葉にポカンとする。
「あら?そうなんですか?」
「そうだ…レイナは昔から女の子らしい事には全く興味無かったんでした」
ナツキが失念してましたと笑う。
「シンデレラにババア出ねーよ‼」
カズキが帽子を床に投げつける。
「魔法使いに見えなくもないぞ?」
新垣が笑いながらフォローする。
「素の毒々しさは消せないがな」
中村は変わらず喧嘩を売る。
「黙れと言っている!貧乏人共‼」
◆◇◆◇◆
ナギのマンション。姿見の前でポーズを取るナギ。
「どんな格好しても似合うよね~僕」
天界組は皆、忍者の格好をしている。
「ちゃんと顔隠していて下さいよ」
「兄上は何処に行ってしまわれたのでしょう?」
「マヒロ様の事は今日だけ忘れて作戦に集中しなさい」
トウコになっているトウヤが注意を促す。
「では作戦の最終確認をしましょう」
何処からか持って来たホワイトボードにはイラスト付きで作戦の詳細が記されていた。
ソウマが指示棒を使って確認を始める。
「まず俺とトウコちゃんが『神野がこのパーティーに来ているとの情報があって極秘で潜入している』と刑事達に近付く」
次っとトウコに指示棒を向ける。
「頃合いを見て私がレイナ殿をロビーに連れ出す」
次っとナギが指される。
「僕が後ろからそっと近付き術を解く」
最後っとマサトが指される。
「術が解けたら私の能力で眠らせる」
「よし‼完璧だ」
「眠らせてから解いた方が楽で良いと思うけどな~麻痺させるツボも効かなかったし~」
反撃されると怖い~とごねる。
「不意を衝く方が安全です‼先輩がもしマサトの能力にも抗う力を持っていたら厄介だ」
「そうですね!師匠の加護は侮れません」
トウコがウンウンと頷く。
「分かったよ。頑張りまーす」
「兄上もパーティーに現れないかな~」
諦めの悪いマサトにトウコがキレた。
「来るわけ無いでしょう⁉でも会える事を祈るわ‼」
◆◇◆◇◆
綾小路邸。
「お似合いです‼姫様⁉」
ナチュとホグはレオンが持って来たゴスロリの衣装を着せられていた。
犬の着ぐるみのレオンがパシャパシャ写真を撮っている。
「まあ…嫌いじゃないわ」
「どうでもいいけど、他の受験者帰って来なかったね」
「心底どうでもいいです⁉早く魔界に帰ってこの写真を大きく引き伸ばし私の部屋の壁一面に飾らなければ‼」
既に十分以上撮り続けていた。
「ホグ、後であのカメラ壊しといて」
ナチュがホグに耳打ちする。
「りょーかい」
コンコンとノックの後、綾小路家の使用人が入って来る。
「お車が到着致しました」
「分かりました。すぐに行きます。さあ‼姫様、この紐をお持ち下さい」
紐はレオンの首輪に繋がっていた。
「私は今日一日姫様のペットです‼」
綾小路邸近くの路地。結界を張り数日張り込んでいた討伐隊。
「やっと出て来たか」
綾小路邸から出てきた三人を目を細くして見つめるアマネ。
「着ぐるみ?何やら奇妙な恰好ですね?」
「そう言えば…仮装パーティーがあると言っていました」
マヒロが思い出したように呟く。
「仮装パーティーか…大勢の人間が集まるから、そこを狙うつもりだな?」
車が出て行く。
「追うぞ‼車を出せ‼」
「了解しました」
「これは一大事‼すぐ戻りますので少々お待ちください」
ハッとしたマヒロが駆け出す。
「何事だマヒロ?見失うぞ⁉」
「会場は把握しております。あれが無いと会場に入れないので!」
そう言って西園寺邸に駆け込むマヒロ。
「なるほど…招待状を取って来るのだな?使える様になったじゃないか」
数分後、椅子の格好をしたマヒロが戻って来る。
「どういう事だ?マヒロ…」
「仮装は必須です!ご主人様達は軍服姿なので問題ありませんが私は入れませんので…」
「招待状を取りに行ってきたのでは無いのか?」
「そんな物有りませんよ?ご主人様が暗示を掛ければ入れるじゃないですか」
「…」
「お疲れになった時はいつでも私をお使いください‼」
「急いでいると言うのに…使えない奴め‼」
ドカッ‼思い切り顔面を蹴られた。
「はうっ…」
◆◇◆◇◆
高級ホテルのパーティー会場。
「こんにちは!お姉さん」
「まあ⁉ホグ王子、ナチュ王女。いらっしゃっていたのですね」
魔界組がレイナに声を掛けてきた。
「綾小路様に是非にと誘われました。西園寺様はシンデレラですか?」
お美しいですと心にも無い事を言うレオン。
「王子様、モロ被りだな」
「カズキ、一人浮いているぞ」
双子がクスクスと笑う。
「黙れ‼小娘。毒リンゴ食わせてやる‼」
懐からリンゴを取り出しナチュの口に入れようとする。
「姫様に無礼を働くとは許しませんよ!真中兄‼」
「兄さん、リンゴまで用意していたんだ…」
「だから揉めるなって‼退場させられるぞ‼」
その様子を会場の隅で見ている討伐隊。
アマネはレイナを見て怪訝な顔をする。
マヒロはレイナの靴を見てゴクリとする。
(あの娘…美しい魂の持ち主だ。狙われるかもしれない)
(お嬢様…突然出て行ってしまい申し訳ございません。お許し頂けないのならそのガラスの靴で思い切り踏んで下さい‼)
「しかし…」
レイナの周りに鋭い視線を送る。
「どうされました?ご主人様」
「イケメン多いな。ゴクン」
「またいつもの病気ですか?任務に集中して下さい⁉」
隊員に咎められ反省するアマネ。
「分かっている。奴らが人込みから離れたところを狙い撃ちするぞ‼」
また、討伐隊とは反対側に居る天使組。
「そろそろ合流しますので王子とマサトは指定の場所で待機していて下さい」
「御意‼行くぞマサト‼ニンニン‼」
忍者っぽく走り去るナギ達。
「思い切り楽しんでないか?くそ王子…」
「我々も急ぎましょう!ニンニン‼」
「お前もか‼」
レイナ達と別れ少し離れた場所で密談する魔界組。
「この大勢の人間の前で暴れ回るとどうなるでしょうね?」
レオンは口を押さえクククと笑う。
「刑事としての信頼はガタ落ちだね?」
「思いを寄せるあいつ等も去って行って、お姉さんは独りぼっち」
「職を追われ、孤独になった娘の魂は影を差し見る見る内に汚れていくでしょう‼」
可哀想なお姉さんと言いつつも顔は笑っていた。
「さあ‼姫様、若様。漆黒の矢を放ち娘を操るのです‼」
そこへ…。
「君達、可愛いね~写真いいかな?」
「アップしたらいいね貰えそう‼」
わらわらと人が集まり囲まれてしまう。
「おいこら、人間‼姫様に何をする‼」
「オジサン邪魔‼どいてくれる?」
人垣から弾き出されるレオン。
「姫様~‼」
その様子を見た討伐隊。
「囲まれてしまったぞ!これでは手が出せない…」
チッと舌打ちする。
「従者が弾き出されています…羨ましい…」
チッと舌打ちする。
「従者だけでも撃ちますか?」
「駄目だ‼人の目が有り過ぎる…機会を待とう」
その頃…。
「何⁉この会場に神野が来ているだと⁉」
白井の報告を受け場の空気が張り詰める。
「はい。警察に情報が寄せられたので取り敢えず二人で侵入しました」
「わざわざ忍者の格好をして来てあげたわ!感謝しなさいよね!ニンニン」
話を聞いていたカズキが横からしゃしゃり出る。
「神野とか言う奴、レイナに術を掛けた鍼灸師だろう?よし!今こそ真中家の力を使い、都内の警察官を総動員させるぞ‼」
「警官を総動員出来るのか?真中家⁉」
カズキの言葉に驚く新垣。
「止めろ!騒ぎに乗じて逃げられる‼」
それを止める中村。
「そうですよ!ここは気付かれない様に少人数に別れて探しましょう」
白井はトウコに目配せをする。頷くトウコ。
「レイナ殿は私と…」
トウコの言葉をナツキが遮る。
「駄目です‼女性だけでは危険過ぎます」
「神野ナギ‼ボッコボコにしてやる‼」
レイナの眼が光る。
「スイッチ入ったみたいです。大丈夫でしょう」
胸を撫で下ろす天使の二人。
「じゃあ私達はロビーを見てきます」
トウコはレイナと共に会場を出て行く。
「あっ‼お姉さん出ていちゃった‼」
「追い掛けるよナチュ‼」
人垣をかき分け走り出す。
「姫様‼置いて行かないで~」
会場を出て行く魔界組。
「会場から出たぞ‼チャンスだ‼」
「はい」
「お供します‼」
会場を出て行く討伐隊。
◆◇◆◇◆
閑散としたロビー。
「そろそろかな?」
ナギ達はロビーに飾られた大きな壺の陰に隠れて待機していた。
「あっ‼来ました。お静かに…」
「ニンニン」
ナギはそっと鍼を取り出す。
「ここには居ないわね?」
ひと気の無いロビーにレイナの声が響く。
「今、あっちで物音が…静かに近付きましょう」
隠れているナギを確認したトウコはさり気なく誘導する。
「分かったわ」
レイナが壺の前を通り過ぎる。
(今です!ナギ王子‼)
ナギは通り過ぎるレイナの後ろからそっと近付く。
プスプス‼プス‼プスッ‼
「あああ…」
うずくまるレイナ。
「上手くいきましたね」
胸を撫で下ろすトウコ。
「マサト、正気に戻る前に眠らせて!」
「御意‼」
マサトがレイナの額に手をかざした瞬間…。
「お兄さん達ストップ‼それ僕達の獲物‼」
「アンタ達には勿体無いわ‼」
「今回の受験者では無いようですね。はぐれ悪魔でしょうか?」
追い掛けてきた魔界組が声を掛ける。
三人を見たトウコが目を見張る。
(あれは…マーカイ国の双子…?)
「何?このお子様達…物騒な事言っているよ?」
突然現れた魔界組にキョトンとするナギ。
「僕達の事知らないの?悪魔失格だね‼」
ナギ達を悪魔と勘違いしたホグがやれやれと頭を振る。
「えっ⁉君達悪魔なの?」
ナギが目を丸くする。
「えっ?悪魔じゃ無いの?」
「まさか…天使?」
後退る魔界組。
「ここは一旦引きますよ‼」
踵を返し逃げようとした魔界組の前に足音が近付く。
「逃がさんぞ‼」
駆けつける討伐隊。
その直後。
「神野ナギ‼そこかー‼」
正気に戻ったレイナがナギに突進して来た。
「うわっ⁉ヤバい‼」
術を解いたレイナは攻撃を止める事は無い。
「ナギ様、ここは私が食い止めます‼お逃げ下さい‼」
蹴りつけるレイナの攻撃を受け止めながら叫ぶ。
「ナギ様…だと…?」
アマネがマサトの言葉に反応し振り返る。
目が合うナギとアマネ。
(マズい‼アマネ様に気付かれた‼)
青ざめるトウコ。
そこへ…ハアハアと息を切らせてマヒロが到着した。
「あれ?アマネちゃん?何で此処に?」
ナギの言葉にアマネの何かがプツリと切れた。
「勿論ナギ様に会いに来たのです‼」
目がハートになりナギに抱きつくアマネ。
「ご主人様⁉」
「隊長⁉」
「神野ナギ‼今日こそは捕まえてやる⁉」
マサトに攻撃しながら叫ぶレイナ。
その叫びを耳ざとく聞いたアマネがレイナを睨む。
「捕まえるだと?人間の小娘の分際で私の婚約者を横取りするつもりか⁉」
恋する乙女に戻ったアマネは何か勘違いをしていた。
「今の内に逃げましょう⁉」
逃げ出す魔界組。
「待て‼」
それに気付き追い掛ける討伐隊。
「申し訳ありませんが少々眠っていて下さい」
ナギに気を取られていたレイナはマサトに背後を取られる。
すかさず額に手をかざし術を掛ける。
「あっ‼」
倒れ込むレイナ。
「王子、今の内に逃げましょう‼」
マサトが手を差し出す。
「アマネちゃんが放してくれないんだよ‼」
そこへ…刑事組とカズキが駆け付ける。
横たわるレイナ。
その傍らにトウコ。
アマネに抱きつかれるナギ。
引き剥がそうとするマサト。
呆然と立ち尽くす椅子。
(どういう状況だ?)
カオスと化したロビーに混乱する白井。
「レイナ‼」
レイナに駆け寄る真中兄弟。
「神野が居たぞ‼」
近付く刑事に舌打ちするマサト。
「ナギ様をお前らに渡しはしない‼」
アマネからナギを引き離し、盾になる。
「えっ?お前もナギ様狙い?」
「観念しろ!逃げられないぞ‼」
「神野を差し出せ‼」
新垣と中村がジリジリと詰め寄る。
「えっ?えっ?こいつらも?」
「ナギ様が欲しくば私を倒してからだ‼」
「マサト…やっぱり頼りになる‼」
ナギは目を潤ませマサトに縋る。
「まさか…BL?」
アマネの勘違いは続く。
そんな中、ピリピリとした空気を察知する白井。
「お前ら…レイナに何をした…生きてここから出られると思うなよ?」
ゆらゆらと立ち上がりゆっくりとナギに近付くナツキ。
「出た、ブラック真中」
するともう片方からもゆらゆらと近付く者が…。
「一度ならず二度までも…成敗してくれるチャラ王子‼」
マヒロが着ぐるみを脱ぎ捨てながら突進する。
「えっ?天野さん?何故ここに?」
困惑する白井。
「あっ‼マズい‼」
傍観していたトウコが呟く。
「兄上‼」
マサトはナギをポイッと捨てマヒロに駆け寄る。
「祈るんじゃなかった…」
トウコは頭を抱える。
「探しましたよ、兄上‼」
マサトはマヒロをギューギュー抱きしめる。
「放せ~アイツをこの世から消す‼」
孤立したナギに迫るブラック真中。
白井はすかさずトウコに目配せをする。頷くトウコ。
「逃げるな神野‼(早く逃げて‼)」
ナギにアイコンタクトを送る。
「へっ?(ああ…逃げるんだね)」
立ち上がり階段を駆け上がるナギ。
後を追うトウコ。
「ぶっ殺す‼」
そしてナツキがその後を追う。
「俺達も追うぞ⁉」
「ナギ様⁉」
追い掛けようとするアマネに白井がぶつかり新垣達を巻き込んで転ぶ。
「うぁ」
(後はブラック真中)
「俺が行く‼」
(ああ…こいつも居たんだ…)
追いかけるカズキに舌打ちする。




