仮装パーティー
緑川警察署。白井と天童は青ざめていた。
「神野の一味?」
「最近警察官が何者かに手刀で気絶させられると言う事件が起きていて、いずれも近くに神野らしき人物が居たそうだ」
課長の三木が報告書を見ながら険しい顔で説明する。
(マサト…あれほど穏便にと言ったのに…)
白井が心の中で憤る。
「まさか仲間がいたなんて」
「早く逮捕しないと被害が増えそうだな」
眉間に皺をよせ唸る新垣。
「班長。神野さんの結婚詐欺、冤罪ですよね?」
レイナの問い掛けに首を振る新垣とナツキ。
白井と天童は違う意味で首を振る。
「無免許で大金ふんだくっているんだ、立派な犯罪者だ‼」
「おのれ神野ナギ‼今度会ったら半殺しだ⁉」
標準モードのレイナ、ナギをロックオンする。
「今日は神野とその一味の捜査に当たってくれ」
「了解‼」
◆◇◆◇◆
「まずい事になったな…新垣め余計な事を…」
白井と天童はレイナ達と別れ天界への扉に向かっていた。
「今夜、レイナ殿と王子を引き合わせる手筈が駄目になりましたね」
昨晩の話し合いで今夜レイナを呼び出し術を解く手筈になっていた。
「おまけにマサトまで手配されるとは…只じゃ置かない!」
最悪のタイミングで計画が頓挫したソウマは怒りをマサトにぶつけようと心に秘めた。
結界付近に近付くと軍服の天使がいた。
「あれは悪魔討伐隊ではないですか?」
駆け寄る白井と天童。
「何奴⁉」
天童は変化を解きトウヤに戻る。
「王妃様の側近、大天使ミカの弟子トウヤです」
「天界王の従者ソウマです」
「ああ。ソウマ様、トウヤ様、お疲れ様です」
見知った天使で直ぐに警戒が解かれる。
「討伐隊が出動したとは聞いていませんが?」
「何かあったのですか?」
事情を聴く二人に顔を曇らせる隊員。
「実は昨日の正午頃、悪魔に扉周辺が襲撃されエレベーターと電波塔が破壊されたのです」
「何だって⁉では天界と連絡が取れないのは悪魔の襲撃のせい…」
「はい。ですが数日で修復出来るそうです。その間にアマネ様率いるこの悪魔討伐隊が悪魔を退治致しますのでご安心を」
「分かりました。では私たちはこれで…」
一礼しその場を去る。
「ご安心出来ない状況です」
トウヤがボソリと呟く。
「そうだな、街中の指名手配のポスターがナギ王子だと気付かれたら…」
偶々あったポスターを見てソウマが溜息を吐く。
多少ブレて写っているナギの写真だが知る者が見れば一目で分かる。
「はい。特にアマネ様はナギ様の元婚約者…すぐに気付かれてしまいます」
「何か手は無いのか…」
◆◇◆◇
ひと気の無い裏路地、天野は買い物を済ませ屋敷に戻っていた。
「足りない…お嬢様(の教育的調教)が足りない‼」
ポケットからゴムで出来た蛇を取り出す。
「ジャーン‼お嬢様!屋敷内に蛇が作戦!これで着替え中のお嬢様の部屋に入れば…フフフ…」
ドン‼大通りに出たところで誰かにぶつかった。
「申し訳ございません。妄想で悦に入ってしまっていました」
「こちらこそ済まない。では急いでいるので‼」
軍服を翻し走り去るアマネに目を見開く。
「ア…アマネ様…?」
呆然と立ちすくむ天野。
「居たぞ‼ひと気のない所へ追い詰めろ‼」
アマネの声が裏路地に響く。
「ハッ‼」
「あの軍服姿は悪魔討伐隊⁉」
「放て‼」
隊員が光の矢を放つ。
「ぎゃああ⁉」
苦しむ悪魔をブーツの踵で踏みつけるアマネ。
「ほぅら苦しいだろう?他の奴らの居場所を吐けば楽にしてやるぞ?」
グリグリと踏みつけられる悪魔は苦痛で顔を顰める。
「仲間を…売ったりは…しない…ぐっ…」
「見上げた心意気だな…だがいつまで持つかな?」
太ももの鞭を抜き、悪魔の頬を思い切り打つ。
「さあ‼吐け‼」
「あうっ⁉あうっ⁉」
バシッ‼バシッ‼鞭の音が辺りに響く。
「あはははは‼あはははは‼」
「あああ…アマネ様。あの神々しいお姿…チャラ王子の事は吹っ切れて立ち直られたのですね?お嬢様、申し訳ございません。天野はもうお嬢様のもとへは戻れません‼」
ゴムの蛇を捨てアマネのもとへ駆けて行く。
「ご主人様~‼」
両手を広げ近付く天野を訝しむアマネ。
「お前は…?」
「お久しぶりです。ご主人様⁉」
天野はアマネに跪く。
「マヒコ⁉」
「マヒロです。ご主人様⁉」
ワザと間違えたんですねと喜ぶ。
「何故下界に居るんだ?」
「酔って記憶を失くし、気付けば下界に居ました」
後ろで聞いていた隊員が落ちたのかと騒ぐ。
「突然居なくなるから家族が心配していたぞ。今まで何をしていた?」
「人間に拾われ、ずっと海外で暮らしていました」
「そうか…で?何の用だ?私は忙しい‼」
冷たくあしらうアマネに二割悲しみ八割喜ぶマヒロ。
「ご主人様⁉ご無体な…下界に落ちてから今日まで一日たりともご主人様の事を忘れた事は無いというのに…」
今の今まで忘れていたマヒロがうっうっと泣く。
「またご主人様のお世話がしたいです⁉良いですよね?ねっ?」
両手を胸の前に組み懇願する。
「相変わらず我を通す奴だな…好きにしろ‼」
「ありがとうございます。ご主人様‼どこまでもお供します‼」
そこへ隊員が駆けて来る。
「見つかったか?」
「いえ。隊員総出で探しているのですが…」
「何処に隠れているんだ?この3匹は⁉」
バン‼と叩いた紙をマヒロが見る。
「ご主人様…私この方達を知っています」
「何だと?」
◆◇◆◇
綾小路邸。
「今週末にどこぞの財閥が主催する仮装パーティーがあるそうです」
屋敷の主人に渡された招待状を見せるレオン。
「仮装パーティー?」
「私達も是非出席して欲しいと誘われました」
何故かウキウキしているレオンをジト目で見つめる双子達。
「もしかして隣のお姉さんも来るの?」
レオンの浮かれ具合を察したホグがあたりを付ける。
「はい。ポイントゲットのチャンスです‼」
「仮装すれば討伐隊にも見つからないわね?」
その通りですとスーツケースを開けるレオン。
「こんなこともあろうかと色々な衣装を用意してきていました」
そこにはロリータファッションの服がみっちり入っていた。
「さあ姫様‼どれにします?」
「キモ…」
「だから浮かれてたのか…」
◆◇◆◇
ナギのマンション。
「今夜の作戦は中止?」
ソウマの言葉にキョトンとするナギ。
「はい。半殺しの後、間違いなく逮捕されます」
トウヤが詳しく説明する。
「ナギ様は私が身を挺して…」
「マサトも手配されているからね?犯罪者に対する先輩の強さは尋常じゃないよ?」
あれだけ言ったのにと怒りをぶつける。
「じゃあどうするのさ~⁉」
「今週末にレイナ殿は仮装パーティーに出席されると言っておられました。そこに潜り込みコッソリ近付き術を解いてはいかがでしょう?」
ガールズトークで得た情報を提案するトウヤ。
「そうか…招待状をどうにかしなければ…」
「あるけど?」
これでしょう?と招待状をヒラヒラと振って見せる。
「何でくそ王子が持っているんだ⁉てめえ俺に隠れてコッソリ遊ぶつもりだったんじゃないだろうな?」
「違うよ~お得意様に押し付けられたんだよ~‼行く気なんて全然無かったもん‼」
若干棒読みのナギの言葉を嘘つけと一刀両断する。
「王子がお得意様って…」
嘆かわしいと呟くトウヤ。
「まあいい…じゃあこのパーティーで蹴りを付け、迎えが来るまでは一歩もここから出るんじゃないぞ⁉」
「かしこまり~‼」
敬礼をするナギの手を捻り上げるソウマ。
「話が終わったところでトウヤ様、今夜こそ兄上の所へ⁉」
満面の笑みでトウヤに近付くマサト。
「実はマヒロ様はレイナ殿のお屋敷で執事をしているんだ」
「えっ⁉あの執事天使だったの?先輩って天使の吸引力ありすぎない?」
「ま…まさか?」
顔面蒼白なマサト。
「会いに行ったら逮捕だな」
無慈悲に現実を突きつけるソウマ。
「心配するな電話で呼び出してやろう」
「トウヤ様~‼」
微笑むトウヤに縋り付き涙を流すマサトだった。
◆◇◆◇◆
西園寺邸、今日も三人はレイナの屋敷に来ていた。
シンと静まり返った屋敷内、呼びかけても応答がなかった。
「どうしたんでしょう?天野」
「お嬢様命の天野が帰宅時間に居ないなんて」
四人が怪訝な顔をしているとプルルルルと屋敷の電話が鳴る。
「天野かしら?もしもし、まあ天童さん。どうしたの?えっ?天野?実は帰ってこなくて…そうなんです…はい…事件に巻き込まれていなければいいのですが…はい…はい…ではおやすみなさい」
電話を切る瞬間悲痛な叫び声が聞こえたのだった。




