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奇跡の鍼灸師と俺様お嬢様  作者: 美都さほ
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魔界国の双子

 魔界国、それは魔族と魔族に仕える悪魔が住まう王国。水は濁り草花は枯れ砂漠と化した大地に黒く禍々しい城がある。この国の最高権力者、魔王とその一族がその城に住んでいた。


 魔王の城の一室。

『俺は悪魔だ‼お前を不幸にするだけだ‼』

 カチャ。

『それでも私はダークあなたを…愛しているの…』

 カチャ。

『マヤ…』

 カチャ。

『私を…魔界に連れて行って…』

 カチャ。

『お前が嫌と言ってももう放してやらないぞ…』

 ダークと手を取り魔界の扉を開く。

 カチャ。カチャ。


「えー何でここでスチル無いの~?キスする所でしょうが~⁉」


 コントローラーを放り投げるナチュ。

「姫様、このゲームは姫様にはまだお早いですよ?」

 従者のレオンはゲームの電源を切る。

「それママに貰ったんだけど?」

「いたいけな少女にこんな有害な下界の物をお与えするなんて⁉奥方様は何を考えておいでになるんでしょう!」

「別に有害じゃないわよ?18禁って書いてないもの」

「姫様⁉18禁とか言っちゃいけません‼姫様はずっと汚れを知らない少女でいなければいけないのです‼」

「汚れを知らない魔族ってどうなのよ?」

「奥方様に意見してまいります‼」

 レオンが扉に手を掛けた瞬間…

 ドカーン‼爆発音と共に城内が揺れた。


「またホグの仕業ね」


「若様⁉」


 レオンはナチュの部屋を飛び出しホグの部屋へ入る。

「ゴホッ‼ゴホッ‼若様‼ご無事ですか?」


「レオン、そこ踏まないで…」


 ドカーン‼再び爆発が起きレオンが吹き飛ばされる。

「だから踏むなって言ったのに」

 シールドから顔を覗かせ呟くホグ。

「うぐっ…若様…あれ程危険な遊びはなさらぬ様にと申し上げていましたのに…」

「爆発の威力、試していただけだよ?もうすぐ昇級試験だし」


 魔界では定期的に昇級試験があり、合格すると階級が上がり魔界での就職に有利になるのである。なお、試験は下界で行われる。


「昇級試験に爆弾は必要ありません‼」

「えー?持って行っちゃ駄目なの?」

「当たり前でしょう!戦争の無い国ですから」

「戦争始めちゃう?」

 手元の爆弾をフリフリと揺らす。

「いけません‼多くの犠牲者が出たら天界の悪魔討伐隊が出動します‼」


「諦めなさいホグ。悪魔討伐隊が出てきたら厄介だわ」


 ナチュが顔を覗かせながら意見する。

「姫様‼ここは危険です!お下がりください‼」

 レオンが両手を広げ盾になる。

「分かったよ、ナチュ。これは置いていく」

「良かったわ。普段のホグは冷静なのに武器絡むと後先考えないんだから」

 じゃあねと手を振り去って行くナチュをレオンが追い掛ける。

「姫様、粉塵でお身体が汚れてしまっています。洗って差し上げますのでお風呂に入りましょう」

「殺すわよ」

 二人の後ろ姿を見ながらニッと笑うホグ。


「これは置いていくよ?」


 手にした爆弾を置き、大量の武器が入ったクローゼットを開ける。


 ◆◇◆◇◆


 魔界、城下広場。


「えー本日はお日柄もよく、悪魔の皆様におかれましては、変わらずご健勝の事とお慶び申し上げます…」


 魔王がマイク片手に挨拶を始めた。

「パパ‼長くなる‼」

「来賓祝辞かよ?」

「ちゃちゃっと終わらせて!」

 妻と子供たちに邪険にされた魔王。

「…これより、昇級試験を執り行います‼すん…」

 涙目で開会宣言する。


「それでは試験の説明を致します。先ずこちらの魂純度チェッカー付きカウンターを皆様にお配りします。人間の魂を汚すとこちらのカウンターにポイントが加算されていきます」

 試験官の悪魔が拡声器片手に説明を始めた。

「すみませーん。初めて受験するんですが…魂の純度はポイントの大小に関係するんですか?」

 受験者の悪魔が試験官の説明を遮り質問する。

「いい質問です。魂の純度が高ければ高いほどポイントも高くなります」

 なるほど…と納得する受験者。

「今回の試験は若様、姫様も参加されます。受験される皆様は己のポイントを溜めつつサポートをお願いします」

「姫様のサポートは私が手取り足取り…」

 レオンがナチュの耳元で囁く。

「1回死ね!」

「悪魔の皆様は10ポイント、若様、姫様は100ポイント集めたら合格です」


「えっ?何で?100倍なの?」


 試験官の言葉に驚きの声を上げる。


「10倍だよナチュ」


「お前達はいずれ私の後を継ぐ身、当然です」

 子供達の頭に手をやり撫でる。

「うわ!面倒くさい!」

「僕は楽しみ」

 背負ったリュックを横目に見る。

「それでは、魂純度チェッカー付きカウンターを配りまーす。説明書をよく読んで使用してください」


 下界エレベーター入口。このエレベーターは天界のエレベーターにコッソリ増設したものだ。

「それじゃあお前達、頑張っておいで。くれぐれも怪我の無いように。帰るまでが試験ですよ」

「遠足かよ?」

「じゃあね、パパ、ママ」

「姫様は私の命と引き換えにしてもお守り致します⁉」

 レオンは跪いて頭を下げる。

「僕は?」

 チラッと見た後、善処しますと言った。

「守る気無いね?」

 扉が閉まりエレベーターが動き出す。


「ホグのリュック、パンパンじゃない」


「お菓子いっぱい持って来た」


「遠足かよ?」

 暫くして下界に到着する。扉周辺には結界が張られ人間には見えない。


「姫様、到着しましたよ。ポイント溜まるまで帰れません。頑張って100ポイント溜めましょう‼」

「一人で100ポイントの人間いないかな~」

 面倒くさいとぼやく。

「そんな都合のいい人間はいません‼小さな魂からコツコツとです‼」

 レオンの小言を聞き流したナチュはホグに声を掛けようと近付く。

「あれ?確かこの辺りに入れた筈だけどな…」

 ガサゴソとリュックの中身をかき回すホグ。

「何さがしてるの?」

 急に声を掛けられ驚いたホグがリュックの中身をぶちまける。

 そこには手榴弾が数個転がっていた。


「あっ⁉」

「あーー⁉」


「若様‼これは何ですか⁉まさか…そのリュックの中身全部…?」

 ホグのリュックを奪い取り中を見ると銃、地雷、手榴弾がみっちり入っていた。

「若様‼これは置いていくと約束しましたよね?」

「あの爆弾は置いてきたよ‼リュック返せよ‼」

「屁理屈を言うんじゃありません‼これは没収します‼」

「やだ!返して‼返して‼」

 ホグとレオンのリュックをめぐる抗争に一抹の不安を感じる受験者達。


「やな予感…」


 引っ張りあったリュックが手から離れ扉に向かって飛んでいく。


 ドッカーーーン⁉


 リュックの中身が大爆発を起こし辺りが煙で見えなくなる。

 嫌な予感がしたナチュと受験者は早々に退避していた。

 姫様~姫様~とレオンの叫び声が聞こえる中、次第に視界が鮮明になる。

 結界の中は爆破の影響で粉々なったエレベーターと電波塔が無残な姿を晒していた。


「うっわ!スゲー‼」

 大惨事になった周りを見て喜ぶホグ。

「何やってんのよ⁉あんた達‼」

「姫様‼お怪我はございませんか?今すぐお召し物を脱いで確かめましょう‼」

 慌てて駆け寄り服を脱がそうとするレオンがナチュの鉄拳を食らう。

「3回死ね‼どこも怪我してないわ‼」

「エレベーター粉々だね。もしかして魔界に帰れないんじゃないの?」

 受験者達が不安な顔をする。

「帰れないどころの騒ぎではありません‼これは由々しき事態ですよ⁉」


「飛んで帰ればいいじゃない?」


 憤慨するレオンに冷めた口調のナチュが呟いた。

「はっ?」

「姫様?」


「いでよ‼漆黒の翼‼………あれ?なんで出ないの?」


 背中を覗き込むナチュ。

「本気?」

 ホグが生温かい視線を送る。

「私達に翼はありません‼分かっているでしょう姫様?」

「えー⁉下界にいる魔族は皆翼生えてるよ?ここだと生えるんでしょう?」

「ゲームと現実をごっちゃにしない‼」

「ナチュってたまにバカだよね?」

「ホグに言われたくないわ‼」

「兎に角、まずはお屋敷に向かいましょう。天使に見つかれば攻撃されます‼」


 ◆◇◆◇◆


 時間は少し戻って緑川警察署、屋上。


 ⦅悪魔の正体がナギ王子だと⁉⦆


「はい。先日は帽子で顔が分かりませんでした」

 トウヤは一連の出来事をミカに報告していた。

 ⦅下界で指名手配って…一体どんな罪を?⦆


「鍼灸師に扮し鍼を用い人間を思うがまま操り金品を強奪、女性などは…私の口からは言えません‼」


 ⦅レイナも被害者の一人か…コノハ様に何と報告すればよいか…⦆

「コノハ様が怒り狂う姿が目に浮かびます…」

 キレた王妃を思い出しブルッと震える二人。

 ⦅そうだよな~ここは秘密裏に王子と接触しなければいけないな》

 ミカの言葉に先程会った白井ソウマが頭を過ぎる。


「実は気になる方が刑事の中にいまして…」

 

 ⦅気になる…⦆

 プッと音がして電話が切れる。


「師匠?もしもし師匠?」


 トウヤが携帯電話を見る。

「あれ?圏外になっている。電波の調子が悪いのか?」

 そこへ新垣がやって来た。

「天童君ここだったのか…お昼まだだろ?食堂案内するよ」

「誰も案内してって言ってないでしょ?先に食べててよね‼あなたの貴重な休憩時間が無くなるじゃないの‼」


(あの刑事…白井ソウマが王の従者ソウマ様なら、おそらくソウマ様の身近にナギ王子は居る‼)


 天界、王の宮殿。


「もしもし、トウヤ?あれ?」

 圏外になった携帯電話を見て首を傾げる。


「ミカ、ここでしたか。トウヤはうまく警察に潜り込めましたか?」


「ヒィ~コノハ様‼」

 コノハの声に驚き携帯電話を落としそうになる。

「どうしたのです?慌てて…」

「い…いえ何でもありません。この度のお心遣い本当に感謝しております」

 冷や汗ダラダラのミカが頭を下げる。

「大したことはしていません。悪魔を撃退出来ればいいわね?」

「はい。さようですね…(無理!無理!無理~‼)」

「それでね…ミカ」

「はい。何でしょう?」


「ナギをそろそろ天界に戻してやろうかと思っているのです」


 唐突すぎる展開にミカの汗は止まらない。

「あれから数年…働く事がいかに大事かって分かってきた頃だと思うの」

「はあ…(天界にいた時より悪化しています)」

「足を棒にして仕事を探し…やっと雇って貰った所では先輩からの虐め、終わらない残業、取引先との地獄の接待。カップラーメンで飢えをしのぎ、たまにお隣のおばさんが作りすぎたからって持ってくる肉じゃがに涙する日々」

「いや…それは無いかと…」

 宙を見上げ憂いを漂わせる王妃に静かに突っ込む。

「そして、待ちに待った初めての給料日‼」

「聞いていませんね?」

 スルーされた。

「そうだ!母上に何か買って差し上げよう‼ナギは給料袋を握りしめ夜のネオン街に消えていく…」

「夜のネオン街って…それ絶対いかがわしい店ですよ?」

「ん?何か言いましたか?ミカ」

 度々突っ込んでいたミカにコノハが問い掛ける。

「いえ。何も」

 

「近いうちに使いの者を下界に送ろうかとしているところなの」

「近いうちですか…?」

 ゴクリと生唾を飲み込み青ざめる。

「早く親孝行するナギに会いたいわ」

(天罰級の親不孝者にしか会えません、コノハ様‼)


 ドタドタドタ!

 半ば思考を停止したミカのもとへ王宮に仕える天使が数名、慌てた様子で走ってきた。


「何事だ!騒々しい‼」

 

 ミカが一歩前に出て対応する。

「大変です‼下界の扉付近で爆発が起こりエレベーターが破壊されました‼」

「何だと?誰の仕業だ‼」

「爆発前の監視モニターの録画映像に10名程の悪魔らしき者が映っていたそうです‼」

「悪魔だと?被害状況は?」

「結界は無事で下界には影響ありませんが、電波塔も破壊された為下界に派遣されている者との連絡が取れない状況です‼」

「まあ⁉完全に下界と遮断されたって事ですね?」

 コノハが困ったように呟く。

「復旧にはどれ位かかる?」

「おそらく数日はかかると思われます」

「なんという事でしょう⁉悪魔に人間が汚されてしまいます‼」


「悪魔討伐隊を投入致しましょう‼」


 不安気なコノハにミカが進言する。

「そうですね。誰か討伐隊隊長を呼んでまいれ‼」

「はっ‼直ちに‼」


(このどさくさで、王子をどうにかしないと!)


 

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