予感
「時雨はそっちのやつ頼む。あと、ほつれとか、虫食いとかがあったら縫っといてくれ。」
「はい。」
悠李にそう言われてから、ただ黙々と衣装の確認をしていき、1、2時間程経った。
「なぁ、時雨。」
すると、突然悠李が声を掛けてきた。手に持っていた衣装を下ろし、悠李に向き直る。
「何ですか?悠李さん。」
僕が尋ねると、悠李は難しい顔をして話し出した。
「その、何と言うかだな…………。今年の祭りは何だか嫌な予感がするんだ。お前は、俺の勘が良く当たるのは知ってるだろ?」
僕は無言で頷いた。悠李の勘は良く当たる。それは本当だ。狩りに入った森の中で迷っても、悠李が『こっちからなら帰れるような気がする。』と言った方向に進めば、大概村に着いてしまうのだ。
他にも、失くした物を見つけたり、迷子の子供を見つけたりと、悠李の勘が良く当たるのは村の皆も知っている。その悠李が『嫌な予感がする』と言ったのだ。
「嫌な予感、ですか……………。」
「あぁ。だから、しばらくの間雛の側にいてほしい。何も起こらないに越したことはないんだが、もしも何かあったときは雛を守ってくれ。」
悠李の表情はいつになく真剣だ。雛のことが本当に心配なんだろう。そして『雛を守ってくれ。』と言うほどに僕を信頼してくれている。だが、
「でも、雛は強いし…………。僕が守るまでもないですよ……。」
僕が雛を守るだなんておこがましいにも程がある。雛を守るどころか、雛に守られている僕なんかに。僕は困ったように笑うしかなかった。
「時雨。お前は自分を卑下しすぎだ。お前は強い。それは俺が保証する。雛みたいな力がある訳じゃないが、お前には心の強さってもんがある。力があろうとなかろうと、お前の心が死なないかぎり、お前が本当の意味で負けることはない。」
「…………。」
違う。僕にそんな強さなんかない。目を逸らしたくなるが、悠李の目が僕を捉えて、逃げを許さない。
「……分かりました。雛は…、僕が、守ります。」
僕が頷くと、悠李は安心したように微笑んだ。
「ありがとう。時雨。……さて、そろそろ雛が帰ってくる頃かな。」
すると悠李の言葉通り、外から翼の羽ばたく音が聞こえた。雛が帰ってきたのだ。
「よし、じゃあ今日の準備はここまでにしよう。続きは雛にも手伝わせないとな。」
そう言って悠李は苦笑した。