龍谷村
山道を歩き続けて、やっと村に着いた。
村に入れば、村人達は畑を耕したり、狩りに使う弓や矢を作ったりしている。皆は僕達に気づいて近寄ってきた。正確に言えば雛に、だが。
恰幅のいい女性が、
「こんにちわ、雛ちゃん。元気かい?」
「こんにちわ!もちろん元気いっぱいですよ!」
逞しい体の男性が、
「雛ちゃん!こっち手伝ってくれねぇか?おふくろが腰をやって動けなくなっちまってさ。」
「わかりました!後で手伝わせていただきますね!」
二人以外の人達もしきりに、雛に話しかけている。雛は笑顔で一人一人に丁寧に答えていく。
皆が話しかけるのは雛だけで、僕に話しかける人は誰もいない。皆そこに僕がいないかのように振る舞うのだ。でも、もう慣れてしまった。
「すいません、家に帰ってからでもいいですか?見回りで少し疲れてしまって……。」
「もちろんだよ!引き留めてしまってすまなかったね。」
「いえ、では失礼しますね。」
雛はそう話を切り上げると、僕の手を引いて家に向かって歩きだした。
「…………チッ。化け物が。雛ちゃんに近づくんじゃねぇよ。」
「雛ちゃんは何だってあんな化け物に優しくするんだろうね。」
後ろからそんな声が聞こえた。
「やーい!やーい!ばーけもーのしーぐれー!」
子供の一人がそう言って投げた石が、僕の額に当たり、血が出る。が、すぐに出血は治まり、傷も塞がった。その子供の母親らしき女性が走ってできて、子供を叱っている。
「こら!やめないか!あんなものに関わったらろくなことにならないよ!」
「全く気味が悪いね。怪我をしてもすぐに治るだなんて、化け物以外の何者でもないじゃないか。」
僕が皆に気味悪がられている理由は、外見と、この異常なまでの治癒力だ。ほとんどの怪我なら一瞬で治ってしまう。でも、怪我が治るというだけで、痛みだって感じる。
「ちょっと皆………!」
雛が皆に詰め寄ろうとするのを手で制する。
「いいんだ雛。僕は、大丈夫だから。」
「でも………!」
「いいから。早く帰ろう?」
「うん……。」
雛は引き下がり、また歩きだす。雛は気づいてないかもしれないけど、きっと皆は隣の人とヒソヒソ話をしながら、僕を見ているだろう。
悪意、敵意、暗い感情の含まれている視線。それらに晒され続けて早十年。幼いながら、一々それらを気にしていたら心が持たないことを学び、僕は諦めることを身に付けた。何があろうと、「これは仕方がないこと。」「僕にはどうしようも出来ないこと。」そう諦めてしまえば傷つくことはないのだ。今では「よく飽きもせず毎日僕の悪口を言えるな。」なんて思えるほどの余裕も生まれる程になった。
御影とその仲間にいじめられて、村に帰れば、皆の言葉と視線に滅多刺しにされる。毎日これの繰り返し。
これが、ろくでもない僕の暮らす、ろくでもない村。龍谷村だ。
時間があるときに書いているので、掲載する日時はまちまちです。