表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/32

第1話 迷子なう

「こ、ここは……」


 何処だ?

 脳内がその一言で埋め尽くされた。

 石造りの建物、石畳が敷かれた街路。武骨でどこかそっけない電信柱はどこにもなく、レトロなデザインの街灯が立ち並ぶばかり。

 街を歩く人々の何割かは普通の人間(・・・・・)だが、何割かは耳が細長い(・・・・・)。何割かはそもそも人間の頭じゃない(・・・・・・・・)。見間違いじゃなければ尻尾も生えてた。

 そういう、ともすれば出来のいいコスプレみたいな異種族の方々、大学内でもちらほらと(・・・・・)見かけてはいたが、ぶっちゃけこんなにそこら中にはいない。


 これがヴァーチャルリアリティで表現された異世界(・・・)の場面なら、随分と世界の技術も進歩したものだと感心する。というかいつの間にそんなもの仕掛けられたんだ、という話だ。

 俺は確か、大学に向かう途中で、二限の講義に遅刻しそうで走っていて、大学への近道である路地の角を曲がって――路地を通り抜けたらこれだ。

 決してどこかのテーマパークでVR体験をしてたりとか、すっ転んで脳内トリップしたとか、そんなわけではない。後者については、ない、はずだ。


 人々が行き交う街路に背中を向け、傍らにある石壁にもたれかかり、俺はゆっくりと思考を巡らせた。

 俺の名前は?大関(おおぜき) (まこと)

 年齢は?20歳。

 住所は?東京都新宿区西落合2丁目。

 大学と、所属学部は?M大学、社会学部 地域社会学科。

 よし、記憶は明瞭、意識も混濁なし。つまり俺はいたって正気だ、間違いない。

 そして俺は心の底から絶望する。俺を取り巻く、このフィクションとしか思えない状況は、確実に現実だ(・・・)ということだからだ。


 一縷の望みを胸に抱き、俺はジーンズの尻ポケットをまさぐる。硬い感触が返ってきたことに安堵しながら、スマホを取り出した。

 最悪、ここが異世界(・・・)であっても、スマホで大学や友人に連絡が取れれば、まだ望みはある。ぶっちゃけオタクで陰キャなので、大学の友人なんて片手で数えるくらいしかいないけど。

 というか、俺はSNSだってやってるんだから、そちらに助けを求める手も取れなくはない。T○itterとか、I○stagramとか。フォロワー数は……まぁ、あれだ、深くは聞くな。

 スマホのロックボタンを押し込むと、何事もなく画面に光が点った。壁紙に設定している箱根温泉の湯棚の写真が映る。

 そして右上、電池残量の表示の隣。


「圏外、かー……」


 無情にも、電波表示は圏外。俺の希望は儚くも打ち砕かれた。


 拝啓、父さん。母さん。俺はどうやら異世界(・・・)に迷い込んだらしいです。

 いい歳こいて迷子になりました。

 泣いていいですか。

ということで陽羽南の第27話で転移していった大関君が早速登場です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ