沖田と左近
「赤壱さん……」
席へ帰ると、心配してくれている左近がいた。
「大丈夫、なにもない」
なにもなくはないが、こいつに言うとまた大事になる。それだけは避けたい。
左近は俺のことをじっと見つめる。俺は左近に微笑むと、視線をずらした。
「近藤さん、そろそろ帰りましょ」
沖田がそういうので、俺は頷いた。俺達でみんなのことを運んだ。土方も、近藤さんもかなり飲んでいたみたいで、ドロッドロだ。足がふらついてるのがなによりの証拠だ。
「あぁ、おかえり」
帰ると、そこには新八がいた。俺はただいまと言った。
「沖田さん、少しお話いいですか?」
左近が沖田に話しかけている。
「いいよ、表に出るか?」
沖田がニコニコとしながら答える。
「はい、お手数お掛けします」
左近が頭を下げる。それも真顔で。
「そんなこと微塵も思ってないくせに、よく言うよ」
鼻でふんっ、と笑った沖田。微塵も思ってない?まぁ、そういうことはよくあるだろうけど。
沖田と左近は外へ出ていってしまった。
「みんな、見事に酔ってるな」
笑いながら言う新八。俺は、だよなと返す。
「魅那兎は飲めないのか?」
「違う違う。飲めるよ、だけど今日飲む気にならなかっただけ」
「そっか」
新八はまた竹刀を振り始めた。
「流石新八、上手いな」
剣の振り方がもう上級者だ。突きも上手いしね。
「そうか?俺はまだまだ思っとんだけど」
そう言って首を傾げるら新八。こいつ、謙遜しすぎだろ。
「沖田もすごいよな」
「あいつは天賦の才能だよ。超えられっこない」
でも、新八は新選組最強でないのか?剣術だけならダントツで新八が強いとか。
「なんの用?僕は忙しいんだけど」
沖田が嫌味ったらしくいう。
「沖田さん、あなた、赤壱さんになにを言いました?」
左近が睨みつけるようにきく。
「僕達はただ、昔話をしていただけだよ」
「昔話ですか……赤壱さん、昔話嫌いだと思うんですがね」
左近は少々イライラした様子だった。
「君には関係ないだろう。あ、気になるのか?絶対教えないよ。君みたいな強いものにただくっ付いているだけの弱い奴になんて、尚更」
左近は黙ったままきいている。拳をギュッと握っている左近。
「あんた、金魚のフンみたいだよ。金魚の魅那兎にずっとくっ付いているフンのお前」
カキンッ
「へぇ、早いね。手の動きが読み取れなかったよ」
左近はとうとう我慢の限界で、懐からクナイのようなものを取り出して、そのまま投げてしまったのだ。だがそれを沖田は軽々と剣を取り出し、防いでしまった。
「さすが新選組一番組組長ですね、動きがはやい」
左近は少し笑みを浮かべながら言った。
「君、俺に敵意でも持ってるの?」
沖田が剣をしまいながら左近のことを睨みつける。
「いいえ、そんなことある訳ない。ただ、手が滑っただけですわ」
少し笑みを浮かべながら言う左近。
「へぇ、どうだか。いつか俺のことを殺しに来そうだよ、君」
「そんなそんな。でも、もし赤壱さんになにかがあって、その原因がお前だったら殺すかもですね」
笑いながらいう左近。悪魔のようだ。
「お前に俺が殺せるかのぉ」
左近を煽るように言う沖田。
カチンッ
「お前、ただの付き人じゃねぇだろ」
またクナイのようなものを投げた左近。だがまたそれを剣を取り出して防いだ沖田。
「私は、ただの付き人にございますよ」
ニコニコと笑いながら言う左近。それに対し、沖田は少し殺気を向けているようだった。
カチンッカチンッ
またクナイのようなものと、剣がぶつかり合う。
「弓道習って、柔道習って、そのクナイはどこで使うたんかねぇ」
沖田はニヤニヤしながらきいてきた。
「そんなに知りたいですか?」
ニッコリ笑って言った左近。左近と沖田は二人とも、悪魔のようだった。