敗北
こいつの攻撃を防ぐだけで俺は精一杯で、攻撃が仕掛けられない。こいつ、剣術がうますぎる。言っちまえば、土方と同等、それ以上だろう。
「お前、強すぎない?」
俺がきくと、沖田はニコッと笑い、そうですかね、と言う。
「あなたも、充分強いと思いますよ」
隙あらばそこを突いてくる沖田。こいつ、観察力が半端ない。沖田は、得意技などを繰り出してこないが、これは俺、なめられているのか?
「お前、俺のことなめてんのか?」
俺が沖田のことをみつめながらきくと、沖田はあたり、と言う。
「なめてると言うより、力加減してあげているだけだ。だって、私が本気出したらあなた、瞬殺ですからね」
ニヤニヤしながら言ってきた沖田。こいつ、くそうざいな。
「じゃあ、手加減なしで頼む」
「馬鹿なやつ」
そう一言いうと、沖田は俺と距離をとる。そして、また俺に突進してきた。
「三段突き!」
トン……
足を1回踏み込む沖田。
「ぐっ……」
どういうことだ?1度しか足は踏み込んでいないのに……三段の突きを行った?
「俺の勝ち…勝負ありだな」
沖田は竹刀を下におろす。
「お前……いい必殺技持ってんな」
「ありがとうね」
そう言い残して沖田は道場から消えてしまった。でも、ドアの方じゃないから帰るわけではないだろう。
「魅那兎、すごいよ。沖田とここまでやりあったなんて。あいつは本当の天才なんだ。なんと言えばいいか、天賦の才能なんだ」
天賦の才能か。神に選ばれたやつか。こういうやつは、大体恵まれている。あぁ、羨ましい。
「近藤さんとは、師弟関係にあるな」
師弟関係か。こいつがさん付けてるってことは土方より上の位か。
「近藤さんっていうのは、誰だ?」
「局長だよ」
局長か。そいつと師弟関係なんて、優遇されているのか?
「土方、こちらの人は?」
話の間に入ってきたのはキリッとした美男。声が透き通っている。
「あぁ、新八。こいつは今日から壬生浪士組隊員だ。手やらかにしてくれ、沖田だと殺しかねない」
苦笑いする土方。ここは苦笑いするところではなくないか?俺、死ぬかもしれないんだぞ?
「そうですか。わかりました、まかせといてください」
でもまぁ、こいつは良い奴そうだな。
「よろしくね」
「よろしくお願いします。俺、赤壱魅那兎」
「魅那兎、よろしく。俺は永倉新八」
頭を下げてくれた新八。こいつは礼儀がいい。
「新八はな、新選組の中で剣術なら1番だぜ。沖田よりも腕前は上だ」
あの異常な強さの沖田より上なのか?こいつ、沖田より危険じゃないか?
「こいつの教え方は上手い。沖田より優しいだろうからな」
土方はニコッと笑う。
「魅那兎、横の子は?」
「左近と申し上げます。以後よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げた左近。こいつは本当に礼儀正しい。
「よろしくね」
「がむしん、がむしん!」
あだ名?のようなものを叫びながら道場に入ってきたのは、これまた美男だった。
「はじめ、どうしたの?」
新八がそいつに話しかける。どうやら、名前ははじめ、と言うらしい。
「蚊取り線香の火を消しただろう!お陰で蚊にいっぱい刺されおったわ!」
このはじめとやらは、新八にいじられたらしいな。新八は、悪戯好きな幼い心も持っているようだ。
「すまんすまん。今日はもう消さないから許してくれ」
「前もそんなことほざきよったな。だけど、消されたんはなぜかなぁ?」
新八は、かなりの悪戯好きらしい。
「本っ当にすまん思ってる!」
両手をあわせて、この通り!とみせる新八。
「次は、絶対だぞ」
「はぁい」
新八はほっとしたようだ。
「あ、紹介するわ。こいつは斎藤一」
「よろしく」
頭を下げた斎藤。
「こちらこそ」
これは、これから楽しくなりそうだ。
「よし!今日は飲み明かすぞお前ら!」
いきなり入ってきたやつがそういった。だが、みんなは、はい!と答えた。
「近藤さん」
土方が名前を呼ぶ。こいつが近藤さんか。
「はじめまして、赤壱魅那兎です」
「よろしく!」
握手を求められたので、俺は握手をした。