1話 A:チートはヘルプ機能しかありません。
2年前ほどに一時期投稿していた作品(現在は非公開)を練り直したものになりますが、一応新連載です。ストックのあるうちは毎週木曜日22:00に投稿しようと思っています。
目が覚めると、俺はジャングルの中にいました。
しかも、「ゴブリン」と思わしき、地球上にはいないと思われる、生き物が、闊歩しています。
神様、今まで幸せな人生、ありがとうございました。でも、なんで今更見捨てるのですか?
これ、異世界転生というやつですよね。俺は、異世界転生物の小説は好きです。自分が異世界に転生したら何をしようとか妄想したこともあります。ただ、いざ実際に転生したら、自分は無力です。水面に映る身長165cm程度の俺の冴えないパジャマ姿は、このまがまがしいジャングルの中ではひどくひ弱です。
近くにゴブリンがいます。ゴブリンは一般的に人類の敵です。つまり、いま俺はピンチです。しかも、よく見ると集団でいます。
慌てて逃げます。全速力で走ります。俺の対して早くもない全速力で走ります。何とか逃げ切れました。
俺は本当に運がいいです。
でも、このままでは死んでしまうかもしれません。俺は死にたくありません。では、生き延びる方法を考えましょう。しかし、見渡す限り一面の森です。俺にサバイバルをする能力はありません。
そうだ、異世界転生物のお決まりで、何かチートはないのでしょうか。それを知るためにはどうすればいいでしょうか。そうだ、ステータスを見ればいいのではないでしょうか。それを見るためにはどうすればいいでしょうか。とりあえず、「ステータス」と念じてみました。何も起きません。どうすればいいんでしょうか。ヘルプでもあればいいのですが。思わずつぶやきました。
「ヘルプ機能とか、ないかなぁ……。」
A:あります。
えっ!? いま、脳内から声が響いてきたのですが……。
「もしかして、ヘルプの声?」
A:はい。
どうやら、空耳じゃないらしいです。でもいったいどういう存在なのでしょうか。ヘルプさん本人に質問してみます。
「ヘルプさんは、どういう存在なんですか?」
A:私は、マスターの質問に答えるために誕生した存在です。
「へー。漠然としていて俺にはよく分かりません。」
A:はい。私もよくわかりません。
「えっ?それ自分で認めちゃうんですか?」
A:はい。ですが、私自身以外についてはほとんどの事が分かります。
「なるほど。じゃあ、俺はなんで異世界にやってきたんですか?」
A:異世界に転移する能力を持った魔物がマスターの住む世界に転移した反動です。この世界には、知性保存の法則というものがあり、転移した魔物にちょうどぴったり釣り合う知性を持っていたあなたが呼ばれたのだと思います。
「知性保存の法則って何?初めて聞くんですが。」
A:マスターの世界にある法則で言うと、質量保存の法則や熱量保存の法則のようなものです。
ふーん。なかなか分かりやすい説明だな。ただ言われた質問の答えを答えるだけでなく、相手が何を知っていて何を知らないかを考えて答えている。
「教えるのがうまいですね、ヘルプさん。」
A:それが存在意義ですからね。
「っていうか、質問以外にもこたえられるんですね。」
A:普段の会話からの情報収集はとっさの質問への速やかな回答のために欠かせないのです。これが私のポリシーです。
「おー、なるほど。では早速質問なんだけど、俺って何かチート持っていたりしますか?」
A:はい。
「どんなチート?」
A:私です。
「お前かよ!いや、おまえとか言ってごめんなさい。確かにチートの一種ではありますね。でも、他に何もないのでしょうか。」
Q:私じゃだめですか?
「えっと、そういうわけじゃないのですが……。なんかもっとかっこいいチートないのかな、と。」
A:ないです。
「ないのかぁ。」
Q:私じゃ、かっこ悪い、です、か……?う、うっぅぅ……。
あれ、俺、泣かせちゃったかな?そうみたいですね。なんでヘルプが泣けるのかは分からないけど、俺が泣かせちゃったことには変わりがないみたいですね。どうしよう。
「いや、そんなことないよ!いや、ほんとに、助かってるよ?ほんとに、役に立つチートだと思うよ?」
と、とっさに取り繕います。機嫌を直してくれるといいのですが。
A:ありがとうございます……。マスターのご期待に沿えるよう、全力で邁進してまいります!
機嫌を直してくれました。うーん、ちょろいですね。まあ、俺というマスターに従うために存在しているらしいから、ちょろいのは当たり前かもしれないですけど・・・。まあいいや。
「それより、近くにゴブリンがいるんですが、襲ってきたりしませんでしょうか?」
A:いいえ、襲ってきます。右前方20m付近にいる個体が約10秒後にあなたを殴ろうとしています。但し、他のゴブリンはマスターを視認していません。
まじですか。あ、そうだ、いいこと思いつきました。
「今後、俺に気づいているゴブリンとその進行方向を教えてくれない?」
そういいながら、俺はゴブリンから逃げるように走り出した。
A:はい。マスターに気づいているゴブリンを光って見えるようにマスターの視界に表示します。そして、進行方向を示す矢印を表示します。
どうもありがとう!便利です。おかげで、俺の対して早くない足でもゴブリンの動向を見切れるよ。
「ていうかこれ、一種の予知能力じゃね?これチートじゃん!」
A:だからマスターのチートは私だって言ったじゃないですか。
そうでしたね。ふう、なんとか近くにいたゴブリンの集団からは逃げ切りました。呼吸を整えます。一休みしたいですが、この森の中では安心して休めません。とりあえず、最寄りの村を目指しましょうか。
「最寄りの村までの地図って表示できる?」
A:はい。こちらです。(視界に半透明で表示される。)南西に3kmほどの所です。
なるほど。分かりやすい地図ですね。地図を頼りにそちらの方向へ進みました。1kmほど進んだところで、二股の分かれ道がありました。
「どっちの道に進んだ方がいい?」
A:右の道に進んだ方がよいでしょう。
「理由は?」
A:左の道に今まで通りの速度で進むと約17分後にオーガが出現します。そして、死にます。一応回避する方法はありますが、右の道を進んだ方が確実に安全です。
なにその予告死刑宣告。っていうか、なんであんた未来見えてるの?
A: 『私自身以外についてはほとんどの事が分かります。』と言ったでしょ?あらゆる選択に対する未来が見えていてこそ、そう言えるのです。
な、なんだそれ。
「チート過ぎるだろーーーー!」
A:だから、チートって言ってるじゃないですかぁ。
「はい!ぜひ、これからもよろしくお願いします!」
そんな未来予知に等しいチートな「ヘルプ機能」との愉快な冒険譚、ここに始まります。
次回更新は8月2日木曜日22:00の予定です。
その後は毎週木曜日に投稿予定です。