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再会

「村長!」


 軒先で幼児達の相手をしてやっていると、少し年長の男の子が息を切らせて走ってきた。


「どうした?」


 まず村長じゃないんだけど、なにやら急いでいるようなのでとりあえずそこはスルーする。 


「南方より敵影接近! 数4! 騎兵が街道を真っ直ぐこっちに向かってきている!」


「なんだって!?」


 俺は高い高いしていた幼女をなるべく急ぎつつ出来るだけ優しくおろす。「ごめんな」と片目を瞑って謝ると、幼女が「バイバイ」と小さく手をニギニギした。



「マナ! いるか!」


 扉を開けると、彼女は少し年長の女の子達とお喋りをしていた。


「どうしたの!?」


 マナが驚いてこちらに振り向く。


「村に近づいてきている集団がある。敵かもしれん。ヘルメス、でるぞ! 俺は木盾装備でいくから気配を消してついてきてくれ。」


「うん、わかった!」『承知いたしました』


 彼女の手を握ると白銀の髪が漆黒に変わる。

 ヘルメスについてきてもらって物見台へ向かい、侵入者達の様子を確認すると……


「…………ケイルさん」


 村に向かってきていたのは3日前に街へ報告に向かってくれた商人と、見知らぬおっさん3人組だった。





 彼らは村に到着すると、馬から降りて笑顔で近づいてきた。


「よくきてくれましたね。救援感謝します」


 あのあと救助した村の年寄り連中からおたすけくださいおたすけくださいと泣いてしがみつかれてしまい、内心ずっと心細かった。


 救出直後の彼らは心身ともに憔悴しきっていて、とても自分で考えて動ける状態ではなかった。

 しょうがないのでとりあえず。一か所に集まってもらった方がいいかなと思い、食事の手配の指示を出したりなんやかんややっていたのだが…… 

 俺だって師匠とずっと二人で過ごしてきたので、集団を指揮するような経験なんてあるはずもない。

 常に「これでいいのか?」と自問しながらの3日間だったが、不安を顔に出す事すら許されなかった。



「ウーノです」「ドオスです」「トーレです」


 よろしく。よろしく。よろしく。3人の冒険者と握手を交わしたあと、向かい合った顔にことさら俺の顔がほころぶ。彼もまた良い笑顔をしていた。


「……ケイルさん!」


「ゲオルグさん……よくぞご無事で!」


 ガッチリと固い握手を交わすと安堵感で胸がいっぱいになった。

 ケイルさんが村の子供たちを見回す。


 犠牲者が決して少なくなかった事。助け出せた確かな命がある事。その両方がこみあげて涙が出そうになる。


「ご報告したい事もありますが、まずは休憩をとってください。リア、この方たちを案内して」




 比較的年長の少女を呼びつけて、元宿屋だった建物へ案内させる。

 彼らがそちらへ向かったのを見送って、俺はヘルメスに顔を向けて意地悪っぽく微笑んだ。


「子供たちばかりで人手が足りない。ヘルメスにも給仕の手伝いを頼んでも?」


 すると彼女は口をとがらせて抗議した。


「お戯れを。マナにお任せになったらいいじゃないですか。私が出るとみんな食事がまずくなっちゃいますし……」



 初めて街に連れていくまで気づかなかったのだが、ヘルメスはとても人見知りだ。そのうえ他人にあまり興味がない。

 面倒くさいから人と話さない。話さないからどう接すればいいのかわからなくなる。わからないからますます人と話さない。

 でも、だからと言ってそのままにしておくのもどうかなと思っていた。マナの方はもう初対面の人間が相手でも普通に話す事が出来るようになっている。


 『この子達に外の世界を……』『光と闇、どちらにも偏らせてはなりません……』


 初代様の言葉が浮かぶ。俺はヘルメスを戦闘の時だけ呼び出すような武器みたいな扱いにはしたくなかった。



「もったいないなぁ。こんなに可愛いのに。俺はヘルメスと一緒にご飯食べるの好きだぞ?」


 後ろからフワっと抱きしめて耳元に囁く。


「なっ!? え? か、可愛っ!? にゃ、にゃにをっ!!?」


「俺もあんまり人と話すの得意じゃないから、あんまり自分から知らない人に話しかけたくない気持ちもわかるんだよ。でもさ、俺はヘルメスがとっっっっても可愛い事も知ってるから。もっとたくさんの人にお前の事を知ってもらいたいってのも本当なんだよ」


 優しく彼女の髪を撫でる。


「ま、マスター!? あ、あの! ひ、人前でこんな!」


 人前で頭を撫でられる事が恥ずかしいのだろうか? ヘルメスが顔を真っ赤にして慌てるが、別に俺はそんな事気にしない。


「俺はお前の優しくて可愛いところいっぱい知ってるから、いつかきっとみんなにも伝わると思うよ。だからさ、すぐにじゃなくていいから少しずつ頑張っていこう。ずっと隣にいてあげるから、な」


「あ、あの……その……」


 すると彼女はしどろもどろになり……


「な、なんでも……ない……です……」


 ボシューっと頭から白い湯気を噴き出した。黒い霧じゃなくて白い……なんの権能だろうか。




 さて、あんまりヘルメスに無理を頼んでも可哀想なので、この話はまた今度という事でマナに代わってもらう事にする。

 ヘルメスは俯いたまま珍しく無言で手を差し出してきた。なんか汗で湿ってるな、なんて思いながら入れ替わってもらったら……


「ん!」


「……なんだ」


 マナが両目を瞑って頭を突き出す。なんやねん。


「……お姉ちゃんばっかりズルい」



「…………。っこんにゃろ!」


 片目をあけて上目遣いで見てきたので、頭をグシャグシャとかき回す。

「キャー!」とか言いながら逃げ出したので追いかけると、子供たちが集まってきてしまった。

 収集がつかなくなりそうだったので、パンパンと手を叩いて俺はそれぞれを持ち場につかすのだった……

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